この記事を読んでわかること
・大脳半球と身体の運動・感覚の対応関係がわかる。
・視床出血が起こった側とは反対側の身体の麻痺が起こるメカニズムがわかる。
・視床出血による視床痛や運動失調がわかる。
視床は脳の深部に位置し、感覚情報の処理や運動制御の調整など、多岐にわたる機能を有しています。
視床出血が発生すると、これらの機能が損なわれ、特に感覚や運動に関連する症状が現れます。最も一般的な症状の一つが、出血が発生した側とは反対側の身体に影響を及ぼす片麻痺です。
今回は、視床出血による片麻痺が反対側に出るのかについて解説します。
大脳半球と身体の運動・感覚の対応関係
人間の脳は左半球と右半球に分かれ、各半球が身体の反対側を制御しています。
これは、感覚情報の処理や運動制御の信号が、身体の一方から脳の反対側の半球に送られるためです。
例えば、左手の感覚や動きは右半球によって処理され、右手の感覚や動きは左半球によって処理されます。
この現象は「脳の機能の側性化」(半球優位性)とも呼ばれ、言語機能など特定の機能が一方の半球により多く担われている場合がありますが、多くの脳機能は両半球に分布しています。
この側性化は、言語処理のような高次の脳機能に関しても明らかとなっています。
例えば、ブローカ領域やウェルニッケ領域といった言語に関連する領域は、通常、左半球に位置しており、これらの領域は言語の産出や理解に重要な役割を果たしています。
右視床出血と左片麻痺、左視床出血と右片麻痺のメカニズム
脳出血の中でも、視床出血は被殻出血に続いて多い部位とされています。
出血メカニズムとしては、高血圧、外傷、血管異常、または血液凝固の問題など、さまざまな原因によって引き起こされることがあります。
血管が破裂すると、血液が脳組織に漏れ出し、周囲の神経細胞を圧迫し、損傷します。
これにより、視床の機能に影響が及び、感覚や運動の制御、意識レベルの変化などの神経学的症状が引き起こされます。
さて、右視床出血が左片麻痺を引き起こし、左視床出血が右片麻痺を引き起こすメカニズムには、脳の構造と機能の対側制御が深く関わっています。
視床は脳の深部に位置し、大脳皮質への感覚情報の中継点であり、運動制御に関わる神経経路にも重要な役割を担っています。
このため、視床の損傷は、反対側の身体に感覚や運動の障害をもたらします。
視床から大脳皮質へ、また大脳皮質から身体の筋肉への信号の伝達は、主に身体の反対側を制御するように構成されています。
例えば、右視床からの信号は、主に左半球の大脳皮質へ伝達され、これが左側の身体活動を制御します。
このシステムにより、右視床に発生した出血や損傷は左側の感覚障害や運動障害を引き起こすことがあります。
逆に、左視床に発生した出血や損傷は右側の身体に影響を及ぼします
視床出血が片麻痺を引き起こす具体的な理由は、視床が運動と感覚の情報を統合し、身体の運動と調整に必要な情報を大脳皮質に伝達する役割を担っているためです。
視床出血などで視床が損傷すると、この情報の伝達が妨げられます。
すると、反対側の身体への運動指令の伝達が不完全になり、片麻痺やその他の運動障害が生じることがあります。
さらに、視床は感覚情報の主要な中継点であるため、感覚障害も同様に発生する可能性があります。
視床出血後の潜在的な影響である視床痛と運動失調
視床出血は、感覚や運動の問題だけでなく、視床痛などの二次的な影響を引き起こすこともあります。
視床痛
視床痛は、視床出血に続く慢性の神経性疼痛であり、出血が発生した側と反対側の体に不快な感覚、冷たさや熱さを感じる症状が特徴です。
この痛みは発症後数ヶ月から数年で現れることがあり、診断が難しい場合があります。
視床の機能が残っていることが視床痛が発現する条件になると言われています。
また、右視床出血によるものが過半数を占めているということもわかっています。
運動失調
運動失調とは、運動麻痺がないにもかかわらず、筋が協調的に動かないための滑らかな姿勢保持や運動・動作ができない状態のことです。
視床出血による運動失調は、視床性運動失調と言われています。
そして、以下の3つのタイプに分類されています。
- 運動麻痺を伴うAtaxic Hemiparesis
- 感覚障害を伴うHemiataxis Hypesthesia
- 運動麻痺と感覚障害を伴うHypesthetic Ataxin Hemiparesis
です。
視床出血などで視床が損傷されると、身体のバランスや運動の協調性を保つ小脳と大脳皮質を連絡する神経線維が損傷を受けるために、運動失調が生じるのではないかと言われています。
まとめ
今回の記事では、大脳半球の機能の側性化と視床出血による神経学的影響について説明しました。
大脳半球は身体の反対側を制御し、特定の機能は一方の半球に集中しています。
視床出血は、高血圧など多様な原因で起こり、右視床出血は左片麻痺を、左視床出血は右片麻痺を引き起こします。
また、視床出血は視床痛や視床性運動失調などの二次的な影響をもたらす可能性があります。
一度脳出血が起こると、それにより傷ついてしまった脳神経を完全に治すことは難しいとされています。
そのため、脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、脳卒中・脊髄損傷を専門として、脳脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しております。
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よくあるご質問
- 片麻痺はなぜ反対側にあるのですか?
- 片麻痺が反対側に現れるのは、脳の各半球が身体の反対側を制御するためです。例えば、右脳が損傷すると左側の身体に影響が出ます。これは、脳と身体の間の神経経路が交差するという特徴があるために起こります。
- 視床出血はなぜ麻痺するのですか?
- 視床は、感覚や運動の機能の中継点です。視床出血が起こると、視床を損傷し、感覚や運動の制御に影響を及ぼします。これにより、身体の反対側に麻痺が現れる原因となります。
<参照元>ヒト脳の側性化と臨床 ―言語と空間性注意の神経ネットワーク―|Jpn J Rehabil Med.2022;59:182-191.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/59/2/59_59.182/_pdf
視床の機能とその臨床応用|関西理学.2006;6:47-49.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkpt/6/0/6_0_47/_pdf
左視床出血によりAtaxic Hemiparesisを呈した一症例|脳科学とリハビリテーション.2012;12:27-30.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrn/12/0/12_120131/_pdf/-char/ja
脳出血:外科治療の意義と展望|脳卒中J-STAGE早期公開 2018 年 4 月 11 日:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/advpub/0/advpub_10607/_pdf/-char/ja
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