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脊髄損傷

 癒着性くも膜炎に起因する症状とは

<この記事を読んでわかること>
癒着性くも膜炎(SAA)の症状と特徴がわかる。
癒着性くも膜炎の発症メカニズムがわかる。
MRIを用いた癒着性くも膜炎の診断プロセスがわかる。

癒着性くも膜炎(SAA)は、くも膜の炎症が原因で癒着が形成され、中枢神経系に複数の障害を引き起こす疾患です。本記事では、癒着性くも膜炎の基本的な定義、発生原因、病態の種類と分類を解説し、主な症状、合併症、そして現代医学に基づく診断方法や治療方法しょについても詳細にご紹介します。ぜひ参考にしてみてくださいね。

癒着性くも膜炎の基本的な定義と原因

癒着性くも膜炎の基本的な定義と原因
それではまず、癒着性くも膜炎の基本的な定義と原因、そして発生メカニズムについて解説しましょう。

癒着性くも膜炎とは

脳や脊髄を覆うくも膜に炎症が発生します。
その炎症が原因でくも膜が癒着(ゆちゃく)し、様々な神経症状を引き起こす病状が癒着性くも膜炎です。
炎症は通常、手術後の合併症、感染症、外傷、または出血などによって引き起こされます。
まれな病気と考えられていますが、正確な発生率は不明です。
非臨床症例、つまり症状がない方が見落とされているため、おそらく過小評価されているのではないかとされています。

原因と発症メカニズム

癒着性くも膜炎の症状は主に、脊髄周りの髄液の流れが妨げられることにより発生します。
髄液の流れが阻害されると、脊髄の周りにある髄液が溜まってしまい、その圧力が異常になります。
その結果、脊髄や神経根に損傷を与えることがあります。
これが下肢の神経痛や痙性麻痺、感覚障害などの症状を引き起こします。

癒着性くも膜炎の診断

癒着性くも膜炎の診断は、問診や臨床症状、および画像診断に基づきます。
くも膜炎がある部位は、臨床所見あるいは画像所見と関連している可能性があります。
画像診断として最も標準的なツールはMRI(磁気共鳴画像診断)です。
MRIは脳や脊髄の詳細な画像を提供し、くも膜の厚み、癒着、炎症の程度を評価するのに役立ちます。
特に、くも膜の癒着やその他の異常が疑われる場合、高解像度のMRIが重要となります。

癒着性くも膜炎の種類と分類

癒着性くも膜炎は、その原因や特徴に基づいていくつかの異なるタイプに分類されます。
主な分類は以下の通りとなります。

1. 感染性

細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの感染によって、くも膜炎を引き起こします。
こうした感染がくも膜に直接影響を与え、炎症と癒着を引き起こします。
例えば、結核性髄膜炎が有名です。

2. 非感染性

くも膜炎は、感染ではなく他の原因によって引き起こされることもあります。
主な原因としては、手術後の合併症、外傷、脳や脊髄の手術に伴う物理的な刺激が挙げられます。
これにより、炎症反応が起こり、くも膜が癒着します。

3. 化学物質

医療処置中に使用される化学物質(例えば、ミオグラフィンやその他の造影剤)が脊髄に注入された際に発生することがあります。
これらの化学物質がくも膜に直接刺激を与えることで炎症が生じることが特徴です。

4.慢性癒着性くも膜炎

繰り返しの炎症や外傷後に発生することがあり、くも膜が厚くなり、広範囲にわたって癒着を形成します。
これにより、脳脊髄液の流れが持続的に妨げられ、様々な神経学的合併症を引き起こすことがあります。

慢性癒着性くも膜炎の家族性症例も報告されています。
そのため、遺伝的常染色体優性特性を有する可能性があることも示唆されています。

癒着性くも膜炎に関連する合併症

癒着性くも膜炎は神経学的合併症を引き起こすことがあります。
ここで特に重要な症状について詳しく説明します。

下肢の神経痛

癒着や炎症により神経根が圧迫されることで、下肢に激しい痛みが発生することがあります。
癒着性くも膜炎は、腰椎の手術が原因となることが多いため、腰痛が起こることもあります。

痙性麻痺

神経の圧迫や損傷により、筋肉の緊張が異常に高まることがあります。
これにより、患者は筋肉の硬直や不随意の痙攣(けいれん)によって、痙性(けいせい)麻痺、つまりからだが突っ張るような麻痺が起こることがあり、移動や姿勢の維持が困難になることがあります。

感覚障害と異常感覚

脊髄や神経根への圧迫は感覚伝達にも影響を及ぼし、しびれ、痛み、熱感、冷感などの異常感覚が発生することがあります。
感覚障害は患者の安全にも影響を及ぼし、やけどや傷害のリスクを高めることがあります。

神経根症状

癒着によって脊髄の神経根が圧迫され、痛みや感覚障害、筋力低下などが引き起こされます。
これはしばしば放射状に広がる痛みとして現れ、特定の神経の分布に沿って感じられます。

膀胱直腸障害

脊髄の癒着による圧迫が膀胱や直腸の制御に影響を与えることがあります。
これにより、尿失禁や便失禁、尿閉や便秘などの問題が発生することがあります。

まとめ

今回の記事では、癒着性くも膜炎の原因やメカニズム、症状、そして診断のプロセスについて解説しました。
癒着性くも膜炎では、脊髄液の流れを改善させ、神経の障害を最小限にとどめ、患者の生活の質を向上させることを目標とします。
抗炎症薬やステロイド薬の投与や、手術療法による癒着剥離術やくも膜下腔から他の部位へと脳脊髄液を流すシャント術があります。

しかし、一度傷ついてしまった神経の修復は現状の治療では困難です。
そこで期待が持たれるのが、再生医療です。
再生医療は、損傷した神経組織を修復し機能を取り戻すための治療法です。
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これにより、損傷した組織の再生が期待されます。
そして、幹細胞が神経細胞に分化し、移植された場所で定着して機能する可能性があります。

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脊髄障害でお困りの患者様やご家族の方は、この新しい治療オプションについてお問い合わせください。

よくあるご質問

脊髄くも膜癒着症とは?
脊髄くも膜癒着症は、脊髄を覆うくも膜に炎症が起きて癒着が形成される病状です。これにより脊髄液の流れが阻害され、慢性的な痛みや神経障害が引き起こされます。

脊髄くも膜嚢胞の症状は?
脊髄くも膜嚢胞は、脊髄を取り巻くくも膜に液体がたまって形成される嚢胞です。多くは無症状ですが、嚢胞が大きくなると背中の痛みやしびれ、歩行困難などの神経症状を引き起こすことがあります。症状が強い場合には手術が必要といわれています。
<参照元>脊髄癒着性くも膜炎に対する治療経験|Spinal Surgery.2021;35(3):329-332.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/35/3/35_328/_pdf
Maillard J, Batista S, Medeiros F, Farid G, Santa Maria PE, Perret CM, Koester SW, Bertani R. Spinal Adhesive Arachnoiditis: A Literature Review. |Cureus. 2023 Jan 12;15(1):e33697. doi: 10.7759/cureus.33697. PMID: 36788823; PMCID: PMC9922032.:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9922032/
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