・脊髄損傷による完全麻痺の概要がわかる
・脊髄損傷の原因がわかる
・脊髄損傷による後遺症と予後の関係がわかる
交通事故や転落など不慮の事故によって脊髄を損傷し、損傷部以下の全ての神経機能が障害された状態を完全麻痺といいます。
この状態では、麻痺以外にもさまざまな生理機能も障害されるため注意が必要です。
この記事では、今回の記事では、 脊髄損傷による完全麻痺や、さまざまな後遺症と予後の関係について詳しく解説します。
脊髄損傷の定義とそれによる障害について
脊髄は脳から一連となり、背骨の中(これを脊柱管と呼ぶ)を臀部に向けて下降するように位置しています。
何らかの原因によってこの脊髄が損傷し、四肢麻痺やしびれなどの神経症状をきたす疾患こそ脊髄損傷です。
脊髄は本来、脳と身体をつなぐ架け橋のような役割を担っており、脳から出る運動の指令を身体に、身体から得た感覚の情報を脳に伝えるために必要不可欠です。
頚部に位置する脊髄を頸髄、胸部なら胸髄、腰部なら腰随といい、特に回旋性の高い頚部や腰部は逆に安定性に乏しく、外傷や転落などによって損傷されやすいとされています。
また、脊髄損傷による障害は、損傷する高位によっても異なるため、注意が必要です。
わかりやすく言えば、より高位で損傷すると障害の範囲も拡大します。
脳からの運動の指令は
と下降して伝達され、逆に身体からの感覚の情報は腰髄⇨胸髄⇨頸髄と上行して伝達されます。
そのため、腰髄の損傷であれば頸髄の機能には影響がなく、麻痺やしびれは下肢だけに止まりますが、頸髄の損傷の場合は腰髄の機能も同時に障害されるため、上肢下肢ともに麻痺やしびれが出現するわけです。
また、麻痺やしびれ以外にも、交感神経や副交感神経などの自律神経が障害されることによる血圧低下(ショック)・膀胱直腸障害・発汗障害や、頸髄の中でも高位頸髄が障害されることによる呼吸筋麻痺など、さまざまな障害が起こり得ます。
完全麻痺の原因と治療による改善策
脊髄損傷は、その障害の程度に応じて下記のように分類されます。
- 完全麻痺:損傷部以下のレベルの運動・感覚の機能の完全消失
- 不全麻痺:脊髄の一部が損傷したことで、損傷部以下のレベルの運動・感覚の機能が一部残存した状態
日本では年間5000人、新規に脊髄損傷が発生していますが、その原因として多いのは交通事故・転倒や転落・スポーツなどです。
このうち、スポーツにおいては各運営元でこれまで脊髄損傷の予防策が練られており、例えば下記のような対策が実施されています。
- 水泳飛び込み:ポスターによる注意喚起
- ラグビー:危険なタックルなどに対するルールの見直し
- アメフト:ヘルメットやショルダーパッドの着用
一方で、交通事故・転倒や転落は未然に予防することが困難ですが、実際に脊髄損傷になってしまった人を一般の方が移動させることで、さらに脊髄損傷が悪化してしまう可能性があります。
そのため、交通事故・転倒や転落の場合はいかに二次被害の拡大を未然に防ぐかが重要です。
完全麻痺の主な後遺症と予後
完全麻痺の主な後遺症は下記の通りです。
- 四肢の麻痺やしびれ
- 膀胱直腸障害
- 褥瘡
- 呼吸筋麻痺
- 体温・血圧の調節障害
これらの後遺症はどれも予後に悪影響を与えることが知られており、脊髄損傷患者の標準化死亡率は健常者の約6倍にも達すると報告されています。
例えば、四肢の麻痺やしびれによって体動が減れば、仙骨や踵骨に褥瘡が生じ、敗血症に陥って死亡する例は少なくありません。
また、上位頸髄の損傷による呼吸筋麻痺は、誤嚥性肺炎や呼吸不全の原因であり、これも命に関わります。
ほかにも、膀胱直腸障害に伴う腎不全や、脊髄損傷に伴う精神的ショックによる自殺など、後遺症がさまざまな形で命を脅かしていることがわかります。
以上のことからも、脊髄損傷発症後の後遺症に対する適切なケアが予後にとって非常に重要です。
まとめ
今回の記事では、 脊髄損傷による完全麻痺や、さまざまな後遺症と予後の関係について詳しく解説しました。
脊髄損傷によって完全麻痺に陥ると、運動・感覚・自律神経がそれぞれ機能障害に陥り、さまざまな神経機能が障害されます。
特に、四肢麻痺や膀胱直腸障害・呼吸筋麻痺などの障害をきたす高位頸髄損傷は、身体的にも精神的にも負荷がかかる病態です。
一度廃絶してしまった神経機能を元に戻す術は現状なく、リハビリテーションなどの理学療法で残存した機能の維持・改善を目指すのが一般的です。
しかし、最近では障害された神経細胞に対する再生医療が大変注目されており、脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、脊髄損傷による不可逆的な後遺症のさらなる改善が期待できます。
よくあるご質問
- 脊髄損傷の完全麻痺とはどういう状態ですか?
- 脊髄損傷の完全麻痺とは、損傷したレベル以下における全ての運動機能・感覚機能が完全に消失した状態で、機能が残存していない状態を指します。
頸髄における完全麻痺であれば、手足が完全に動かなくなり、感覚も失われた状態です。 - 運動完全麻痺とは何ですか?
- 運動完全麻痺とは、何らかの原因によって運動機能が完全に失われた状態を指します。
主な原因は脊髄損傷であり、脳からの運動の指令が上肢や下肢に伝達されなくなることで起こります。
<参照元>
日本脊髄外科学会:https://www.neurospine.jp/original62.html
J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsatj/6/1/6_3/_pdf/-char/ja
MSDマニュアル:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/25-%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%A8%E4%B8%AD%E6%AF%92/%E8%84%8A%E6%A4%8E%E3%83%BB%E8%84%8A%E9%AB%84%E6%90%8D%E5%82%B7/%E8%84%8A%E6%A4%8E%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%84%8A%E9%AB%84%E3%81%AE%E6%90%8D%E5%82%B7#%E4%BA%88%E5%BE%8C%EF%BC%88%E7%B5%8C%E9%81%8E%E3%81%AE%E8%A6%8B%E9%80%9A%E3%81%97%EF%BC%89_v743981_ja
厚生労働科学研究成果データベース:https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2005/057071/200500591A/200500591A0005.pdf
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