・骨髄由来幹細胞の特性と再生能力について。
・脊髄損傷に対する骨髄由来幹細胞治療の効果について。
・脊髄損傷後の骨髄由来幹細胞治療のプロセスについて。
脊髄損傷は、外傷などで脊髄の神経細胞が障害を受けてしまう状態のことです。脊髄損傷の治療法として、再生医療に期待がもたれています。骨髄由来幹細胞(BMSCs)は、自己複製能力、多分化能、免疫調節能力、ホーミング能力などの様々な能力や効果を持ち、脊髄損傷治療に利用されています。今回の記事では、骨髄由来幹細胞治療の効果やプロセスなどについて詳しく解説していきます。
骨髄由来幹細胞の特性と再生能力
骨髄由来幹細胞(BMSCs: Bone Marrow-Derived Stem Cells)は、骨髄内に存在する多能性のある細胞で、以下の特性と再生能力を持っています。
自己複製能力
BMSCsは、長期間にわたって自己複製する能力を持っています。
これにより、損傷した組織の修復や脊髄再生に必要な細胞数を維持することができます。
多分化能
BMSCsは、骨、軟骨、筋肉、脂肪、骨髄支持組織など、複数の細胞型へと分化する能力を持っています。
この多分化能により、様々な組織の再生に寄与することができます。
免疫調節能力
BMSCsは、免疫細胞と相互作用し、免疫反応を調節する能力や効果を持っています。
これにより、炎症の抑制や自己免疫疾患の治療に有用であると考えられています。
ホーミング能力
BMSCsは、体内で損傷した組織や炎症部位へ移動する能力を持っています。
これにより、必要な部位での細胞の修復や再生を促進することができます。
脊髄損傷における幹細胞治療のプロセス
脊髄損傷における骨髄由来幹細胞(BMSCs)治療のプロセスは以下のように進行します。
幹細胞の採取
患者自身またはドナーの骨髄から、骨髄由来幹細胞を採取します。
幹細胞の分離と培養
採取した骨髄から幹細胞を分離し、培養して増殖させます。
この段階で、幹細胞の純度と活性を確認します。
幹細胞の移植
増殖させた幹細胞を患者の脊髄損傷部位に直接注入するか、静脈内に点滴投与します。
この移植により、損傷した神経組織の修復や再生をしていきます。
治療効果はどの投与方法でも効果を得られており、それぞれに有意差はみとめないため、投与経路としては静脈内投与が一番安全であると考えられます。
リハビリテーション
移植後、患者はリハビリテーションプログラムを受け、移植された細胞の機能をサポートし、神経機能の回復を促進します。
幹細胞治療が神経組織の再生や機能の回復を促進することを目的としているため、リハビリテーションはこれらの成果を最大限に引き出すことに重点を置きます。
幹細胞治療後のリハビリテーションの主な内容
運動機能の強化:幹細胞治療による神経回復を支援するため、筋力トレーニング、関節可動域の維持・改善、バランス訓練などが行われます。
歩行訓練や立ち上がり訓練など、機能回復に向けた特定の運動プログラムが実施されることがあります。
感覚機能の回復:感覚障害がある場合、感覚刺激や感覚再教育を通じて感覚機能の回復を促進します。
神経学的リハビリテーション:幹細胞治療によって回復が期待される神経機能に焦点を当て、神経学的リハビリテーションが行われます。
これには、細かい手の動きや協調運動の訓練が含まれることがあります。
生活スキルの再獲得:日常生活動作(ADL)の訓練を通じて、食事、着替え、トイレなどの基本的な生活スキルの再獲得を目指します。
心理的サポート:幹細胞治療後のリハビリテーション期間中も、患者の心理的なサポートが重要です。
不安やストレスの管理、適応支援などが提供されます。
定期的な評価:リハビリテーションの進捗を定期的に評価し、必要に応じてリハビリテーション計画を調整します。
幹細胞治療後のリハビリテーションは、治療の成果を最大限に活かし、患者の機能回復と生活の質の向上を目指すために、多職種の専門家によるチームアプローチで行われます。
幹細胞治療の効果と期待される成果
骨髄由来幹細胞治療(BMSC治療)の効果と期待される成果には以下のようなものがあります。
神経組織の修復
BMSC治療は、損傷した神経組織の修復を促進することが期待されています。
これにより、脊髄損傷による運動や感覚の障害が改善する可能性があります。
神経可塑性の促進
また、骨髄間葉系幹細胞からは、脂肪由来間葉系幹細胞などと比較して、BDNF(脳由来神経栄養因子)、NTF(神経成長因子)などの液性因子がたくさん放出されます。
それら液性因子は、神経回路の伝導性を改善したり、幹細胞の分化誘導を促進したりするなどの効果があります。
投与タイミングに合わせて狙った回路を同時に刺激することで、その神経回路の伝導性を改善し軸索伸長を促したり、神経回路を再構築するための脳の可塑性高めることが神経再生医療の役割になります。
炎症の抑制
BMSCは免疫調節作用を持ち、損傷部位の炎症を抑制することが期待されています。
これにより、二次的な損傷の防止や症状の緩和が期待されます。
組織再生の促進
BMSCは多能性を持ち、様々な細胞型に分化する能力があるため、損傷した組織の再生を促進することが期待されています。
機能回復
BMSC治療による神経組織の修復や再生が進むと、脊髄損傷によって失われた運動機能や感覚機能の回復が期待されます。
生活の質の向上
機能回復に伴い、患者の日常生活の質が向上し、自立した生活が可能になることが期待されます。
BMSC治療の効果は個々の患者の状態や損傷の程度によって異なります。
また、この治療法はまだ研究段階にあり、臨床試験を通じてその安全性と有効性が評価されています。
そのため、治療を受ける際には、専門医と十分に相談することが重要です。
まとめ
今回の記事では、骨髄由来幹細胞治療の効果や治療のプロセスについて解説しました。
骨髄由来幹細胞治療は、脊髄損傷を始めとしたさまざまな病態に対しての効果が期待されています。
そして、『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』を、ニューロテック®と定義しました。
さらに、脳卒中や脊髄損傷、神経障害の患者さんに対する『狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療』を、リニューロ®と定義しました。
リニューロ®は、同時刺激×神経再生医療、骨髄由来間葉系幹細胞、神経再生リハビリにて『狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療』です。
骨髄由来間葉系幹細胞は、他由来間葉系幹細胞より神経系幹細胞や血管系幹細胞に分化することが多く報告され、最も研究された歴史が長い間葉系幹細胞です。
それら幹細胞を特殊な培養方法により機能強化した幹細胞を治療には使用しています。
脊髄損傷後の再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。
よくあるご質問
- 幹細胞治療ができない人は?
- 幹細胞治療が適さないのは、重篤な感染症を持つ人や悪性腫瘍(がん)がある人、免疫系の疾患を持つ人、血液凝固障害がある人、重篤な心血管疾患を持つ人、妊娠中の女性などがあがります。その他の場合でも、幹細胞治療を受ける治療の適応や安全性について、専門医と十分に相談することが重要です。
- 幹細胞治療の危険性は?
- 幹細胞治療の危険性には、感染リスク、移植後の拒絶反応、腫瘍形成の可能性、治療効果の不確実性などがあります。幹細胞治療はその効果も期待できるものですが、危険性についても専門医とよく相談しておくことが重要です。
<参照元>
・脊髄損傷に対する再生医療 | J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/116/2/116_53/_pdf
・Pittenger, M. F., Mackay, A. M., Beck, S. C., Jaiswal, R. K., Douglas, R., Mosca, J. D., … & Marshak, D. R. (1999). Multilineage potential of adult human mesenchymal stem cells. Science, 284(5411), 143-147.: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10102814/
・Uccelli, A., Moretta, L., & Pistoia, V. (2008). Mesenchymal stem cells in health and disease. Nature Reviews Immunology, 8(9), 726-736.:https://www.nature.com/articles/nri2395
・Fehlings, M. G., & Vawda, R. (2011). Cellular treatments for spinal cord injury: the time is right for clinical trials. Neurotherapeutics, 8(4), 704-720.:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22002087/
・再生医療研究開発2020 | AMED:https://www.amed.go.jp/content/000064136.pdf
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