<この記事を読んでわかること>
・同名半盲のメカニズムがわかる
・同名半盲の治療法がわかる
・同名半盲への治療の効果を知れる
同名半盲とは、両目の視野の左右いずれかが失われる病態であり、脳梗塞などによって発症する症状です。
後遺症として残ってしまった場合、視覚リハビリテーションや補助具を用いて、生活に支障が出ないようにサポートするのが主な治療です。
この記事では、脳梗塞による同名半盲への治療法やその効果について詳しく解説します。
脳梗塞後の同名半盲に対する最新の治療法とは?
脳梗塞後には、同名半盲と呼ばれる後遺症を残す可能性があり、同名半盲とは、両目ともに左側、もしくは右側半分が見えなくなる状態のことです。
正常な人の視野は、下記のようなメカニズムで保たれています。
- 外界の視覚情報が角膜→水晶体→硝子体と眼球内部を透過し、網膜に照射される
- 網膜から視神経を介して視覚情報が脳へ伝達される
- 視神経→視交叉や視索→外側膝状体→視放線→後頭葉の順に伝達される
- 後頭葉で視覚情報が処理され、目で見ている景色を認識する
通常、目で見ている景色の右半分は、左右眼球の網膜の左半分に投射され、左視神経はそのまま左側に、右視神経は視交叉を経由して左側に情報が伝達され、左側の視索・外側膝状体に情報が集約されます。
その後、左側の視放線は同側、つまり左後頭葉にインプットされます。
逆に、目で見ている景色の左半分の場合は上記と全て左右反転するため、左右の眼球の網膜の右半分に投射され、右視神経はそのまま右側に、左視神経は視交叉を経由して右側に情報が伝達され、右側の視索・外側膝状体に情報が集約されるわけです。
上記からもわかる通り、左右の視野の後頭葉への伝達経路は異なるわけです。
そのため、脳梗塞によって視放線や後頭葉が広範に障害されると、左右反対側の同名半盲に陥ります。
同名半盲は両目の視野半分を失うわけですから、当然、生活に及ぼす影響も大きいです。
そこで、同名半盲には主に下記のような治療が選択されます。
- 原因疾患(脳梗塞など)に対する治療
- プリズムレンズ
- 視覚リハビリテーション
まず優先すべきは原因疾患に対する治療です。
プリズムレンズとは、欠けている視野部分の情報を、光の屈折を利用して視野内に移動させることで、欠損した視野の視覚情報を認識できるようにする治療法です。
視覚リハビリテーションとは、視機能の変化に合わせて生活様式を適応させ、補助具などを用いて自身の生活に必要な行為ができるようになるためにトレーニングすることであり、見えない部分を補うための技術を習得します。
最新の視覚リハビリテーションとして、下記のような手法が挙げられます。
- 代償療法:患者の残された機能を使って視覚機能を代償する方法
- 視覚回復療法:残された視野の拡大を図り、視覚を回復させる方法
例えば、Spitzynaらの研究では、右から左に動くテキストを読ませることで、左から右への眼振を誘発し、読書速度を向上させて視覚機能の向上を成功させています。
現在、様々な視覚リハビリテーションが新たに試されており、改善することの難しい同名半盲の改善を目指しているところです。
視覚リハビリと併用可能な最新技術によるアプローチ
同名半盲などの視覚障害を抱えた方に対し、最近では従来の視覚リハビリテーションと併用して、AIなどの最新技術を駆使した視覚サポートも注目されています。
例えば、「AIスーツケース」という自律走行型ナビゲーションロボットは、見た目は普通のスーツケースと同様ですが、搭載されたAIが周囲を認識しながら、人や障害物を回避し、目的地まで誘導してくれます。
安全性にも十分配慮されており、また周囲からはスーツケースを運んでいる人にしか見えないため、視覚障害者であると気付かれずに周囲に溶け込めるのも利点です。
また、Microsoft社のサービスの1つである「Seeing AI」は、スマホで撮影している画面内の情報を音声で読み上げてくれるサービスです。
画面内の文字はもちろんのこと、人の名前や表情、着ている洋服の色や形など、さまざまな情報をAIが認識して、音声で教えてくれます。
AI分野は近年急速に発達しているため、今後更なる進歩が期待できるでしょう。
同名半盲を治療するための選択肢とその効果
先述したように、同名半盲の主な治療は下記の3つです。
- 原疾患の治療
- プリズムレンズ
- 視覚リハビリテーション
原因によって同名半盲が改善するかどうかも変わってきますが、脳腫瘍や脱髄性疾患が背景にある場合は、原疾患の治療によって比較的著明に改善することが多いです。
一方で、脳出血や脳梗塞では改善を得られないことも多く、脳梗塞の場合は発症から4ヶ月目くらいまではある程度の改善も見込めますが、それ以降は症状が残ってしまいます。
また、プリズムレンズや視覚リハビリテーションの効果は患者個々人によっても異なり、必ずしも改善するわけではないです。
それぞれの症状に合わせて、適切な補助具・リハビリテーションを併用し、社会生活に支障が出ないよう、機能を補っていくことが重要です。
まとめ
今回の記事では、脳梗塞による同名半盲の治療について解説しました。
脳梗塞による同名半盲は、視界の左右いずれかの視野が失われるため、日常生活に大きな支障を与える後遺症です。
発症早期は改善が見込まれるものの、長期間症状が残ると後遺症として残ってしまいます。
また根治する術は現状ないため、プリズムレンズや視覚リハビリテーションなどによって、日常生活に支障が出ないように補っていく治療が主です。
一方で、近年では脳梗塞後の同名半盲に対して再生治療が新たな治療法として非常に注目されています。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、同名半盲の改善も期待できます。
よくあるご質問
- 脳梗塞は再生医療で治せますか?
- 脳梗塞に対する再生医療は現在さまざまな治験が行われており、機能の改善が期待されています。
再生医療によって投与された幹細胞が、損傷した脳細胞の機能を補ったり、組織修復を高めるためです。 - 同名半盲の病巣部位はどこですか?
- 同名半盲の主な病変部位は、後頭葉、もしくは視放線です。
左側の後頭葉、もしくは視放線が損傷すれば、右の同名半盲になります。
逆に、右側の後頭葉、もしくは視放線が損傷すれば、左の同名半盲になります。
Pub Med:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17536049/
Microsoft:https://news.microsoft.com/
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