<この記事を読んでわかること>
・TMS治療の原理がわかる
・TMS治療の視床痛に対する有効性がわかる
・視床痛に対するTMS治療の課題がわかる
内服療法や神経ブロックでも改善が困難な難治性視床痛に対し、最近では新たな鎮痛方法としてrTMS療法が注目されています。
頭部から磁気を当てて脳内の興奮性に変化を与え、除痛効果を得ることができます。
実際に視床痛に対してどのような効果があるのかを含め、この記事では視床痛に対するTMS治療の原理や有効性を詳しく解説します。
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が視床痛に効く理由
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)とは、特殊な機器を頭部に当てて、機器から発生した磁気によって脳細胞を刺激し、脳細胞の機能改善やさまざまな神経症状の改善を目指す治療法です。
2000年頃から登場したこの治療法は、「抗うつ薬による薬物療法の効果がみられない成人のうつ病患者」において保険承認を受けており、実際に国内でもいくつかの医療機関で実践されています。
(参照サイト:鬼頭伸輔先生に「反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」を訊く|日本精神神経学会)
一方、近年では欧米を中心に、難治性疼痛、主に神経障害性疼痛に対するrTMSの応用が注目を集めており、実際に欧州でのガイドラインでは疼痛治療として高頻度TMSがレベルAとされています。
(参照サイト:難治性疼痛に対する反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)の効果と適応|J STAGE)
神経障害性疼痛とは、主に温痛覚を知覚する神経回路である脊髄視床路(末梢神経⇨脊髄⇨脳幹⇨視床⇨大脳皮質)のいずれかが障害されることで生じる痛みのことです。
別名、視床痛とも呼び、疼くような深い痛みや灼熱感に悩まされる患者も少なくありません。
通常の骨折や切り傷による痛みと異なり、視床痛は神経が障害されることによる痛みであるため、治療や改善が困難であり、抗うつ剤や抗てんかん薬で改善を目指しますが、改善が得られないケースも少なくありません。
一方で、rTMSは特に上肢における難治性の視床痛に対して有効である報告も多いですが、そのメカニズムは明らかにはなっていません。
現状では、下記のようなメカニズムで鎮痛効果が得られていると考えられています。
- 磁気によって興奮性アミノ酸が主に関与するIntracortical Facilitation(ICF)が正常化する
- 磁気によってγ-アミノ酪酸(GABA)が主に関与するIntracortical Inhibition(ICI)が変化する
どちらも脳内の興奮性に関わる要因であり、これらに磁気が作用することで鎮痛効果が得られていると考えられています。
(参照サイト:難治性疼痛に対する反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)の効果と適応|J STAGE)
TMS治療の実際と視床痛に対する適応例
TMSは頭部の体表から磁気を当てるため、脳深部には磁気が届かず、深部に位置する下肢の視床痛よりも、より脳の表層に位置する顔面や上肢の視床痛に対してより有効であることが知られています。
脳出血や脳梗塞などによって視床を損傷し、一般的な抗てんかん薬や抗うつ薬、もしくは星状神経節ブロックなどの神経ブロックを行った患者において、有効な鎮痛が得られない場合は良い適応です。
生駒らの報告によれば、患側の一次運動野、一次感覚野、前運動野、補足運動野を1部位あたり、5Hzで10秒間、1分ごとに10回行った結果、一次運動野でのみ、特に刺激中に最大の除痛が得られたそうです。
また、上記手法を週に1回、連続して12週間行った結果、より持続的な効果が得られています。
(参照サイト:難治性神経因性疼痛に対する磁気刺激療法|J STAGE)
残念ながら日本国内では視床痛に対するrTMSは保険承認を受けておらず、自由診療で治療を受けるほか手段はありません。
痛み軽減の効果と持続期間:実例から見るTMSの可能性
先述したように、rTMSによる除痛の効果は特にrTMSの刺激中、上肢や顔面で高い効果が得られることが知られており、実際に齋藤らの報告では患者に対しマギル疼痛質問表で疼痛の評価を行ったところ、有意な除痛効果を認めております。
rTMSの除痛効果は刺激中が最も高く、その後は持続性に欠くため、持続的な鎮痛効果を得るために反復刺激を行う研究も盛んです。
しかし、除痛効果が1年近く効果が持続したケースもあれば、短期的にしか効果が得られなかったケースもあり、長期的な効果については報告にばらつきがあります。
今後、より長期的に効果を維持できるよう、刺激方法や刺激頻度、刺激回数についてさらなる知見が待たれるところです。
まとめ
今回の記事では、視床痛に対するTMS治療について詳しく解説しました。
視床痛は難治性疼痛であり、一般的な内服療法や神経ブロックでは改善を認めないことも少なくありません。
そこで、最近ではrTMSによる除痛が注目されています。
特にTMSの刺激中、顔面や上肢において良好な鎮痛が得られるため、視床痛に対する新たな治療法として近年注目されています。
一方で、rTMSでの長期的な鎮痛の成績は報告によってばらつきがあり、根治的な鎮痛法になり得ていないのが現状です。
そこで、近年では視床痛に対する再生医療の効果が大変注目されています。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、改善の困難である視床痛の改善が期待できます。
よくあるご質問
- TMS治療は何回目から効果を実感できますか?
- TMS治療は初回から効果を実感できることは稀であり、ある程度反復して行うことで効果が実感できるようになることが多いです。
およそ10〜20回程度が目安であり、継続することが大切です。 - TMS療法の効果とは?
- TMS療法は、頭部から特殊な機器を当てることで、脳内に磁気を発生させて、脳内の興奮性を変化させることでうつ病の治療や、難治性の神経障害性疼痛の治療に用いられます。
<参照元>
(1)鬼頭伸輔先生に「反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」を訊く|日本精神神経学会:https://www.jspn.or.jp/
(2)難治性疼痛に対する反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)の効果と適応|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/1/56_56.33/_pdf
(3)難治性神経因性疼痛に対する磁気刺激療法|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/53/8/53_626/_pdf
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脳出血を発症された患者様です。発症当時は飲酒や喫煙量も多かったとのことでした。発症後なるべく早い段階で再生医療をした方が効果が見込めることから、入院中でも再生医療を受けられる大阪にある回復期リハビリテーション病院へ転院。発症当時より嚥下障害など回復傾向でしたが、身体的な改善も目指すべく再生医療をご希望されました。
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