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脳卒中

 アテローム型脳梗塞が引き起こす高次脳機能障害

この記事を読んでわかること
高次脳機能障害の症状や種類がわかる
アテローム型脳梗塞が高次脳機能障害を引き起こす機序がわかる
高次脳機能障害に対するリハビリの現状がわかる

高次脳機能障害とは脳が障害された際に生じる、麻痺やしびれなどの身体症状とは別の、言語や思考などの知的能力に対する障害です。
脳梗塞などの脳血管障害で生じることが多く、特に広範囲の梗塞を起こしやすいアテローム型脳梗塞では注意が必要です。
そこで、この記事ではアテローム型脳梗塞が引き起こす高次脳機能障害について解説します。

高次脳機能障害の種類と症状

高次脳機能障害の種類と症状
高次脳機能障害とは、なんらかの原因で脳が損傷し、麻痺やしびれなどの身体症状とは別に、言語・思考・記憶・行為・学習・注意などの知的機能に障害が起こった状態を指します。
脳は部位によって担っている機能が異なるため、損傷部位によって出現する高次脳機能障害の種類や症状も異なります。
主な高次脳機能障害の種類は下記の通りです。

  • 遂行機能障害
  • 記憶障害
  • 注意障害

遂行機能障害

遂行機能とは、目的に応じて目標設定し、その目標の実現に向けた行動を計画し、最終的に結果を評価して利用する機能です。
主に前頭葉が司っており、前頭葉の損傷で遂行機能障害に陥ると、複数の情報を組織化して処理できなくなるため、行き当たりばったりの行動を取ったり、ひとつひとつ指示されないと動けなくなります。
発想や視点が1つにこだわってしまい、その状況に応じてうまく転換できなくなるため、日常生活や社会生活が困難となります。

記憶障害

人の記憶は海馬を含む内側側頭葉、視床前部、前脳基底部を含む広範なネットワークを基盤としており、そのいずれかが障害されることで記憶障害が出現するため、注意が必要です。
ここでの記憶障害とは、日々体験した出来事が情報として貯蔵されず、再利用できなくなることを指します。
つまり、親の名前や自転車の乗り方などの古くからの記憶が障害されることは稀で、物の置き場所を忘れたり、何度も同じことを話すなど、比較的最近の記憶が障害されます。
脳の損傷部位によって出現する記憶障害の性状も異なり、例えば前頭側頭葉が障害されると意味記憶が障害されます。
意味記憶とは、これまでに学んで得た言葉や名前、文字や知識、人の顔などの記憶です。
このように、記憶障害は脳のどこの部位を損傷するかでその発現様式が異なる点が特徴的です。  

注意障害

注意障害とは、わかりやすく言えば、意識を集中することができなくなる状態です。
注意能力は右大脳半球が優位であり、右大脳半球の損傷によって作業にミスが増え、気が散りやすくなります。
また、右頭頂葉を損傷すると片側の空間を集中して認識することができなくなり、見落としやすくなったり、ぶつかりやすくなる半側空間無視という症状も出現します。
一方で、注意のネットワークは脳幹や視床、大脳基底核、大脳辺縁系、連合野まで広く分布しており、広範な脳の障害であればなんらかの注意障害を伴うことが多いです。
他にも、言語能力が低下する失語症や、動作や作業などの行為能力が低下する失行など、高次脳機能障害にはさまざまな症状が含まれます。

アテローム血栓性脳梗塞による脳組織の損傷と機能障害

アテローム血栓性脳梗塞による脳組織の損傷と機能障害
日本医師会の報告によれば、高次脳機能障害の原因の多くは脳血管障害であり、その割合はなんと79.7%にも及びます。
脳血管障害とは脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの総称であり、特に脳梗塞の中でもアテローム血栓性脳梗塞は梗塞範囲が広く、高次脳機能障害を引き起こしやすいため注意が必要です。
脳内部の細い動脈が動脈硬化によって閉塞するラクナ梗塞の場合、梗塞範囲は通常1.5cm以下と言われています。
一方で、アテローム血栓性脳梗塞は比較的太い脳の動脈内に、動脈硬化によってアテロームと呼ばれるコブが形成され、そのコブが破綻して急速に血栓が形成されることで生じる脳梗塞です。
比較的太い動脈が閉塞するため梗塞範囲もラクナ梗塞と比較して広く、その梗塞範囲に応じてさまざまな高次脳機能障害が出現します。
例えば頭頂動脈領域の閉塞なら失認、Heubner動脈領域の閉塞なら失語が出現しやすいことが知られています。

症状の回復とリハビリテーションについて

高次脳機能障害の原因と治療について
高次脳機能障害に対して主に行われる治療はリハビリテーションです。
その内容は生じている症状の種類によっても異なりますが、共通して言えることは簡単な訓練から始めて、徐々に難易度を上げていき、最終的に実生活への適応を目指します。
例えば、記憶障害のある方では何回もメモを取るように訓練し、メモを取る習慣を身に付けることで物忘れの対策を行います。
一方で、一度損傷した脳細胞が再生するわけではないので、高次脳機能障害が完全に回復することはほぼありません
リハビリテーションや介護者の支援などを中心に、実生活への復帰を目指すことが主な目標です。

まとめ

今回の記事では、アテローム型脳梗塞が引き起こす高次脳機能障害について詳しく解説しました。
アテローム型脳梗塞は脳の比較的太い動脈に血栓を形成する脳梗塞であるため、障害を受ける脳の範囲も他の脳梗塞と比較して広範です。
そのため、麻痺やしびれなどの身体症状とともに、注意障害や遂行機能障害などの高次脳機能障害を伴いやすく、その後の日常生活に大きな支障を与えます。
現状、高次脳機能障害に対して特効薬などはなく、リハビリテーションによる生活への適応が主な治療です。
一方で、最近では「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、脊髄や神経の治る力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善困難であった高次脳機能障害の改善が期待できます。

よくあるご質問

脳梗塞による高次機能障害とはどういうものですか?
脳梗塞によって障害された脳の部位に応じて、記憶障害・遂行機能障害・注意障害・半側空間無視・失行・失認などのさまざまな高次機能障害が生じる可能性があります。
特に、梗塞範囲の広いアテローム血栓性脳梗塞では注意が必要です。

アテローム血栓性脳梗塞になるとどうなるの?
脳内部の細い動脈(これを穿通枝という)の梗塞であるラクナ梗塞に対し、アテローム血栓性脳梗塞では脳の比較的太い動脈が閉塞します。
そのため、比較的広範囲の脳細胞が虚血に陥り、出現する症状も派手になる可能性が高いです。

<参照元>
・東京都医師会:https://www.tokyo.med.or.jp/docs/handbook/358-375.pdf
・慶應義塾大学病院:https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000269.html
・アテローム血栓性脳梗塞の症状:https://neurotech.jp/medical-information/symptoms-of-atherothrombotic-stroke/

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Dr. 貴宝院 永稔 [Kihouin Nagatoshi]

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