<この記事を読んでわかること>
・横断性脊髄炎とは、脊髄に炎症が生じることで感覚障害や運動障害、排泄機能の問題などを引き起こす病態であることがわかる。
・横断性脊髄炎の主な症状、考えられる原因(多発性硬化症、感染症、自己免疫疾患など)、およびMRI検査や髄液検査による診断法と治療法がわかる。
・幹細胞治療やiPS細胞を用いた再生医療が脊髄再生の治療法として期待されている一方で、安全性や有効性などの課題が存在することがわかる。
横断性脊髄炎は、特定の高さでの脊髄の炎症による感覚障害や運動麻痺などを引き起こす病気です。
本記事では、症状や原因、MRI検査を用いた診断方法、静脈内ステロイドや免疫療法などの治療法を詳しく解説します。
さらに、幹細胞治療やiPS細胞を用いた再生医療の最新研究と、その課題についても紹介します。
横断性脊髄炎とは?症状と治療法の選択肢
横断性脊髄炎は、脊髄の炎症によって様々な症状を引き起こす病態のことです。
背骨の中には、神経の太い束である脊髄が頭からお尻の方まで走っています。
そして、脊髄の一部、特に胸のあたりのレベルである胸髄(きょうずい)で、炎症が起こりやすいといわれています。
この炎症は、脊髄の働きに関わる灰色の部分や白い部分(灰白質と白質)の両方に影響します。
脊髄は、その高さによって運動や感覚を司る機能が機能が異なっています。
そのため、横断性脊髄炎が起こると、そのレベル以下のすべての体の部分が影響を受けます。
横断性脊髄炎の患者さんの多くは、症状が始まってから3ヶ月以内に回復します。
しかし、中には後遺症が残ってしまう方もいます。
横断性脊髄炎の症状は、体幹の帯状の感覚障害や、脊髄が障害を受けた部位より下の感覚症状や筋力低下などがあります。
急性横断性脊髄炎は、多発性硬化症という病気によって生じる場合が最も多いとされています。
しかし、血管炎や全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群、その他の自己免疫性疾患、あるいはマイコプラズマ感染症やライム病、梅毒、結核、COVID-19などの感染症でも起こることがあります。
特定の薬物が原因となることもあります。
急性横断性脊髄炎が疑われる症状が現れた場合、MRI検査によって脊髄に炎症の所見があるかどうかを調べます。
また、髄液検査も有効です。
その他、感染症や薬物、栄養不足、腫瘍性病変などの他の原因がないかも調べます。
そうした結果、治療しうる原因がある場合にはその疾患の治療をします。
そして、横断性脊髄炎そのものに対しては、以下のような初期治療を行います。
- 静脈内コルチコステロイド療法
- 血漿交換療法
- IV免疫グロブリン
その他、筋肉痛を改善する薬や、抗けいれん薬、抗ウイルス薬なども用いられます。
こうした治療はあくまで対症療法となります。
ただし、これらの治療法には副作用もあります。
特にステロイド療法では高血圧や血糖値の上昇、骨粗しょう症などが起こる可能性があるため、注意が必要です。
横断性脊髄炎の発症メカニズムと主な症状
横断性脊髄炎がなぜ起こるのか、そのメカニズムは不明であることが多いです。
しかし、ウイルス感染後またはワクチン接種後に発症する症例がみられるため、自己免疫反応が関係しているのではないかと推測されています。
脊髄が炎症を起こすと、神経の神経線維を覆っているミエリンという絶縁物質が損傷を受けてしまうことがあるのです。
横断性脊髄炎が発症すると、以下のような症状が現れます。
これらが、数時間から数日をかけて現れます。
- 首や背中、頭の痛み
- 胸や腹部の周囲に帯状に広がる緊張
- 足や下半身の筋力低下、ピリピリ感、しびれ
- 排尿や排便困難感
さらに、数日をかけ、以下のような症状へ進行していきます。
- 対麻痺(左右両方の下肢の筋力が低下し、歩行困難になる)
- 横断性脊髄炎になってしまったレベルの脊髄以下の感覚消失
- 尿閉、便失禁
なお、典型的には、位置覚(自分の体の各部位がどこにあるのかを判断する感覚)や振動覚は初期の段階では失われません。
幹細胞治療が脊髄再生に与える期待と実績
横断性脊髄炎になると、脊髄の損傷が起こり、麻痺や感覚障害が生じてしまいます。
そのような方の根本的な治療の一つに、再生医療があります。
例えば、札幌医科大学の研究グループは、脊髄損傷の患者さんを対象とした、脊髄損傷の患者さんを対象とした医師主導治験を実施しました。
そして、「自己骨髄間葉系幹細胞(治験薬識別コード:STR01)」が脊髄損傷に伴う神経症状や機能障害に対して一定の治療効果と安全性を示すことを確認しました。
現在(2024年12月時点)、ステミラック注®という薬が、患者さんの治療に用いられています。
今後も、治療効果などの結果の集積が望まれるところです。
再生医療の課題と横断性脊髄炎への未来の展望
脊髄損傷に対しては、自己骨髄間葉系幹細胞の他にも、iPS細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療の臨床研究も進められています。
また、横断性脊髄炎に対しては、グリア細胞というミエリンを作る細胞の研究や、遺伝子の研究、あるいは神経細胞の再生などの研究が進められています。
再生医療が横断性脊髄炎の患者さんの症状改善に効果を発揮することが、今後期待されます。
一方で、再生医療はまだ研究の途中という側面があることも課題です。
例えば、安全性や有効性が十分に証明されていない場合も多いのです。
そのため、再生医療を受けるという希望がある場合には、こうした課題があることも十分知っておくことも大切です。
まとめ
今回の記事では、急性横断性脊髄炎とはどのような病気なのか、その原因や症状、治療法について詳しく解説しました。
また横断性脊髄炎に対する再生医療の可能性についてもご紹介しました。
当院では、急性横断性脊髄炎や多発性硬化症に対する再生医療は行っておりません。
しかし、脳梗塞や脊髄損傷による後遺症に対しては、幹細胞点滴療法(ニューロテック®)を提供しています。
また、この治療に加え、リハビリテーションを同時に実施する「神経再生医療×同時リハビリ™」を取り入れることで、より効果を高めることを目指しています。
より詳しく知りたいという方は、ぜひ一度当院までご相談くださいね。
よくあるご質問
- 横断性脊髄症の症状は?
- 横断性脊髄症では、脊髄に炎症が起こることで、体幹や腹部周囲に帯状に広がる感覚異常やしびれ、両足や下半身の筋力低下や麻痺、排尿や排便のコントロールが難しくなる(尿閉、便秘、または失禁)、背中や首、頭の痛みなどが起こります。
重症化すると、炎症が起きた脊髄の高さより下の感覚や運動が大きく損なわれることがあります。 - 急性横断性脊髄症とは何ですか?
- 急性横断性脊髄症とは、脊髄が急に炎症を起こし、感覚や運動、排泄機能などに障害を引き起こす病気です。
脊髄の炎症は、脊髄を通る神経信号の伝達を妨げるため、脊髄の炎症部位以下の部分に影響が及びます。
この病気の原因には、多発性硬化症(MS)や感染症、自己免疫疾患、薬物やワクチン接種後の免疫反応などがあります。
急性横断性脊髄炎 – 07. 神経疾患 – MSDマニュアル プロフェッショナル版:https://www.msdmanuals.com/
対麻痺|本日の臨床サポート:https://clinicalsup.jp/
Transverse Myelitis | National Institute of Neurological Disorders and Stroke:https://www.ninds.nih.gov/
2018年度 研究事業成果集 脊髄損傷治療のための自己骨髄間葉系幹細胞の実用化:https://www.amed.go.jp/
「亜急性期脊髄損傷に対する iPS 細胞由来神経前駆細胞を用いた 再生医療」の臨床研究について|慶應義塾大学:https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2022/1/14/220114-1.pdf
治療として提供される再生医療、安全性・有効性に疑問 ―再生医療法に構造的課題か―|京都大学 iPS細胞研究所:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220902-000000.html
関連記事
全身性エリテマトーデス(SLE)による脊髄炎は、免疫系の異常が引き起こす脊髄の炎症性疾患です。早期発見と適切な治療が回復の鍵となります。再生医療やリハビリも、脊髄炎の症状緩和に役立ちます。この記事では、SLEと脊髄炎の関連性、発症メカニズム、初期症状の見極め方、治療方法、そしてリハビリの重要性について詳しく解説します。
脱髄性疾患の主な症状には、筋力低下、感覚障害、視力障害、運動失調、慢性的な疲労感があります。この記事では、こうした症状や脱髄の原因となる自己免疫反応、ウイルス感染、遺伝的要因、さらに後遺症と余命、再生医療の最新の治療法としての幹細胞療法や遺伝子治療の進展と将来の可能性についても述べていきます。
外部サイトの関連記事:横断性脊髄炎という自己免疫によるとされる神経障害