<この記事を読んでわかること>
脊髄損傷を受けた場合の平均余命や生活の質(QOL)が、損傷部位や重症度、年齢によってどう変化するかがわかる。
事故の種類(バイク事故、転落事故など)や年齢層によって、脊髄損傷の原因と影響にどのような違いがあるのかがわかる。
リハビリや福祉制度、再生医療の進歩を活用することで、脊髄損傷後でも自立した生活を目指せることがわかる。
脊髄損傷を受けた方の平均余命や生活の質(QOL)は、損傷部位の違いや事故の種類、年齢、リハビリの有無、そして支援制度の活用によって大きく左右されます。
本記事では、交通事故や転倒などの発生要因から、日常生活への影響、平均寿命の傾向、利用可能な福祉制度、リハビリテーションまでを解説します。
脊髄損傷者の平均余命は健常者と変わらないのか?
最新の文献では、外傷性脊髄損傷患者さんの平均余命は一般の方と比較して短いことが示されています。
また、四肢麻痺は下半身麻痺のみの場合と比べて平均余命が短いことも示唆されています。
若い頃に完全な脊髄損傷を受けると寿命が短くなる傾向があることがわかっています。
さらに、若い頃の脊髄損傷は、長期的に呼吸器系や心血管系、排尿や排便の機能の問題、褥瘡や慢性疼痛などの二次的な合併症のリスクが高まります。
脊髄損傷の死亡リスクを高める要因としては、嚥下障害や神経性腸機能障害、神経因性膀胱、膀胱がん、感染症、精神疾患(特にうつ病)が含まれています。
中には、自殺につながる可能性があるものもあります。
そうした理由から、脊髄損傷の方ではそうでない方よりも平均寿命が短くなってしまうのではないかと推察されています。
事故の種類(バイク事故、転落事故など)による影響
下半身麻痺と四肢麻痺では生存率に可能性があることが示唆されています。
脊髄損傷は、日本では交通事故、高所からの転落、転倒の順に多いことが知られています。
脊髄損傷の原因としては、若い方はスポーツ、特に水飛び込みの事故や自動二輪(バイク)の事故が多いとされています。
一方で、高齢者の場合には転倒や転落事故が多く、交通事故は各年齢層を通じて多いことが知られています。
バイク事故や転落事故などでも、強い衝撃が脊椎や脊髄に加わることで脊髄損傷が起こってしまうことがあります。
しかしながら、転落事故は特に50歳代後半から増え始め、60〜70歳代が半数以上を占めていたという報告もあります。
加齢によって身体や認知などさまざまな面での機能が衰え、若い方のようにバランスをとったり同時にさまざまなことを並行で行うことが難しくなったりします。
そのため、転落事故につながる場合も多いのです。
こうした転落事故の場合、特に首の骨において、背骨の骨(脊椎)の損傷のみならず、脊髄つまり神経にまで損傷が及ぶことが、胸の骨(胸椎)や腰の骨(腰椎)よりも多かったという報告もあります。
高齢の方の場合、もともと頸椎症があるなどの場合には、骨折の程度は軽かったとしても頸髄損傷が起こってしまうことも想定されます。
このように、事故の影響は、なりやすい人達の年齢や背景によっても異なる形で現れます。
なお、一般的に胸腰髄損傷のときには対麻痺(左右どちらかの手足の麻痺)、頸髄損傷のときには四肢麻痺となりますが、麻痺の現れ方は複雑で個人差があります。
生活の質(QOL)を向上させるためのリハビリと支援
脊髄損傷後は、損傷を受けた部位によって健全に機能する一番下の髄節(脊髄の各部位を、神経根の出入り口によって分けたもので、脊髄の各レベルを指す)によって、運動機能がどれくらい残るかが変わってきます。
例えば、頸髄2、3番が残存している歳には、残された機能としては頭部の前屈や回転になるため、日常生活は全介助が必要となります。
人工呼吸器や電動車椅子が必要となります。
一方、頸髄6番以下が残存している際には、自力での車椅子移動などや松葉杖などで歩行可能のこともあります。
一般的には、運動機能に関しては脊髄損傷後6週間までに神経学的な回復が期待できます。
完全に麻痺しているわけではない不完全麻痺の場合には、それ以降の回復も期待できます。
脊髄損傷を受け、治療開始からまもない急性期のリハビリテーションも大切です。
例えば、座った姿勢や立った姿勢を保つことなどがあり、機能維持・回復のみならず救命の成功にもつながるのです。
その他、車椅子スポーツも運動機能を高めるために注目されています。
また、脊髄損傷者の生活の質を向上させるためには、医療的リハビリだけでなく、さまざまな社会的支援制度の活用も重要です。
例えば、日本では身体障害者手帳を取得することで、医療費の助成、交通機関の割引、福祉用具の貸与などの支援を受けられます。
等級によって内容は異なりますが、生活の幅を広げるための基盤になります。
介護保険制度を利用することで、訪問介護やデイサービス、住宅改修費の助成などが受けられ、日常生活の自立を支援してくれます。
特に65歳以上、または40歳以上で特定疾病と認定された方が対象となります。
就労支援制度では、就労継続支援A型・B型や障害者雇用促進制度などがあり、身体的な制約があっても働ける環境が整いつつあります。
実際に、電動車椅子を使いながら在宅勤務で活躍している方や、障害者雇用枠で一般企業に勤める方も増えています。
このような制度を活用し、医療・福祉・就労の各方面から支えを得ることで、脊髄損傷者も自分らしい生活を築くことが可能となります。
まとめ
脊髄損傷後の平均余命は、損傷の部位や程度、年齢や合併症の有無によって大きく異なります。
特に四肢麻痺の場合は、日常生活の支援が必要となる場面が多く、生活の質(QOL)にも影響を及ぼします。
しかし、適切なリハビリテーションや支援制度の活用により、QOLの維持・向上は十分に可能です。
身体障害者手帳や介護保険制度、就労支援といった公的制度に加え、車椅子スポーツや社会参加を促進する取り組みなど、多角的な支援が広がっています。
近年では、脊髄損傷後の機能回復において再生医療の可能性も注目されています。
ニューロテック®という取り組みの中で、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』が導入されており、骨髄由来間葉系幹細胞を用いた同時刺激×神経再生医療®と、神経再生リハビリ®の併用により、神経機能の回復促進が期待されています。
こうした医学の進歩と支援の充実により、脊髄損傷者が自分らしく生きるための選択肢は着実に広がっています。
よくあるご質問
- 脊髄損傷は日常生活にどのような影響がありますか?
- 損傷部位によっては歩行や排泄、呼吸など基本的な動作に支障が出ることがあります。
特に頸髄を損傷した場合は、介助が必要となる場面が多くなりますが、支援機器や環境の整備により自立度を高めることも可能です。 - 脊髄損傷患者の主な死因は?
- 感染症(肺炎・尿路感染)、排泄機能障害、嚥下障害に伴う誤嚥、さらに精神的ストレスによる自殺などが報告されています。
早期の医療的介入と長期的な支援が重要です。
(1)Zadra A, Bruni S, DE Tanti A, Saviola D, Ciavarella M, Cannavò G, Bonavita J. Life expectancy and long-term survival after traumatic spinal cord injury: a systematic review. Eur J Phys Rehabil Med. 2024 Oct;60(5):822-831. doi: 10.23736/S1973-9087.24.08462-4. Epub 2024 Jun 5. PMID: 38842067; PMCID: PMC11559252.:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11559252/
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