点滴×同時刺激リハビリで神経障害の後遺症を改善へ

脊髄損傷

 再生医療による頸椎・頚髄損傷治療について

<この記事を読んでわかること>
再生医療が脊髄損傷に有効なメカニズムがわかる
脊髄損傷に実施される再生医療の種類がわかる
再生医療の改善事例がわかる

一度損傷すると機能が再生しにくい心筋細胞や脳細胞・神経細胞に対して、再生医療を用いた治療が注目されています。幹細胞を用いた再生医療によって、これまで治療困難であった脊髄損傷患者の後遺症が改善する事例も出てきており、今後さらに臨床応用が期待されます。そこでこの記事では、再生医療による頸椎・頚髄損傷治療について解説します。

再生医療の原理と損傷治療への応用

再生医療はこれまで治療の難しかった脊髄損傷や脳梗塞の後遺症への新たな治療法として、近年その注目度が増しています。
特に、脊髄損傷に対する再生医療は実臨床でもさまざまな方法が試されており、今後さらなる進化・普及が期待されます
では、どのような原理で損傷した脊髄の形態や機能を再生させるのでしょうか?

まず再生医療を理解する上で欠かせないのは幹細胞に対する知識です。
幹細胞とは分化能と自己複製能を併せ持つ細胞のことであり、ヒトの体内にも普通に存在しています。
分化能とは、異なる系統の細胞に変身する能力のことです。
例えば、爪を切っても爪しか生えてこないのは、爪の細胞がすでにほとんど分化能を失っているからであり、逆に分化能が高ければ爪を切った後に異なる種類の細胞が生えてきてしまいます。
再生医療に用いる幹細胞は損傷した臓器や組織を形成する細胞に分化する必要があるため、高い分化能が必須です。

次に、自己複製能とは自身と同じ細胞をコピーして増殖する能力のことです。
仮に分化能が高くても、自己複製能が低ければ細胞の数は不足し、損傷した組織を再生するには至りません。
以上を踏まえ、再生医療には分化能と自己複製能を併せ持つ幹細胞が必須なわけですが、この幹細胞はどこにいるのでしょうか?
一番身近な幹細胞は、いわゆる受精卵です。
ヒトの始まりとなる最初の細胞で、ありとあらゆる臓器や組織に分化可能な最強の幹細胞と言えます。
しかし、受精卵を臨床に応用したES細胞は倫理的観点から日本では使用できません

そこで、日本の山中教授はES細胞を参考に、人工的に幹細胞を作り出し、いわゆるiPS細胞が生まれました。
しかし、製造コストの問題からなかなか臨床の場に普及することもなく、現状では人体から簡易的に採取可能な間葉系幹細胞が主に使用されています。
頚椎や頚髄の損傷に対して国内で実施されている再生医療は主に下記の3つです。

  •  大阪大学:自身の嗅粘膜を損傷した脊髄に移植
  •  札幌医科大学:自身の骨盤から採取した幹細胞を点滴製剤にして静脈投与
  •  慶應義塾大学:iPS細胞を用いて脊髄に移植

それぞれ異なる方法での脊髄機能の再生を目指しています。

保険適応される再生医療の種類と費用相場

再生医療の製剤
2024年4月時点で、国内では下記の再生医療等製品が承認を受けています。

  • アベクマ:多発性骨髄腫
  • ルクスターナ:遺伝性網膜ジストロフィー
  • ビズノバ:水疱性角膜症
  • ジャスミン:白斑
  • ブレヤンジ:大細胞型B細胞リンパ腫など
  • イエスカルタ:大細胞型B細胞リンパ腫など
  • カービクティ:多発性骨髄腫
  • キムリア:B細胞性急性リンパ芽球性白血病
  • サクラシー:角膜上皮幹細胞疲弊症
  • アロフィセル:複雑痔瘻
  • オキュラル:角膜上皮幹細胞疲弊症
  • ネピック:角膜上皮幹細胞疲弊症
  • ゾルゲンスマ:脊髄性筋萎縮症
  • コラテジュン:慢性動脈閉塞症
  • ジャック:外傷性軟骨欠損症又は離断性骨軟骨炎
  • ステミラック:脊髄損傷
  • ジェイス:重症熱傷など
  • ハートシート:重症心不全
  • テムセル:急性移植片対宿主病

上記製剤はどれも非常に高額です。
通常、保険適応であれば薬を含む治療費の窓口負担は1~3割ですが、月ごとの自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」が適応されるため、実際の支払額はその人の標準報酬月額に応じて規定されています。

再生医療による改善事例と現時点での限界

札幌医科大学の提供する、脊髄損傷患者に対するステミラックを例に再生医療の効果を見ていきましょう。
札幌医科大学の報告によれば、治療に伴う重篤な合併症を認めることなく、13例の投与患者において90%以上で四肢の動きの改善を確認しています。
とはいえ、再生医療で完全に機能が元に戻るわけではなく、再生医療とリハビリを併用して機能を維持・改善していくのが現状です。
また治療効果が十分であっても、再生医療を日常診療に浸透させるためには高額な医療費がハードルになります。
保険適応を広げれば多くの患者が救われる一方で、高額な医療費は財政負担を悪化させるため、経済的な要因も今後の課題になります。

まとめ

今回の記事では、 脊髄損傷などの難治性疾患に対する再生医療の効果などについて詳しく解説しました。
脊髄損傷や脳梗塞などの難治性疾患に対して、これまではリハビリテーションでの機能維持が主な選択肢でしたが、今後は再生治療の担う役割も増えていくでしょう。
一方で、いまだにステミラックなどの再生医療は誰もが希望すれば受けられる治療ではなく、各実施施設が公表する募集要項を満たす症例のみが選ばれます。
さらに、再生医療単一での機能再生は現状困難であり、最近ではリハビリとの併用が主です。
その1つとして、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んで、脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「神経再生医療×同時リハビリ™」によって、これまで改善が困難であった脊髄損傷の改善が期待できます。

よくあるご質問

頚椎損傷の治療法は?
頚椎損傷の治療法は、痛みに対する鎮痛剤の投与や、不安定になった脊椎の固定のための脊椎固定術が選択されます。また、後遺症に対してはリハビリが主ですが、近年では神経細胞の再生を促す再生医療が注目度を増しています。

脊髄損傷の再生医療の費用相場は?
脊髄損傷の再生医療の費用相場は、実施する医療機関によって大きく異なります。札幌医科大学で保険適応を受けて行う場合は、高額療養費制度によって費用を抑えられます。自由診療で行う場合は医療機関によっても異なりますが、数十万から数百万円が相場です。

<参照元>
脳梗塞と脊髄損傷の再生治療|札幌医科大学 神経再生医療科:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/suisin/suisin_dai18/siryou6.pdf
脊髄再生医療|慶應義塾大学整形外科: http://spinalcord.keio-ortho.com
再生医療ポータル:https://saiseiiryo.jp/approval/

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