・構音障害・失語症の最先端治療がわかる
・より効果的な言語療法の実施法がわかる
脳血管障害などで構音障害・失語症などが出現すると、会話の表出や理解に支障が出るため、うまくコミュニケーションを取れなくなってしまいます。
それに対し、これまで言語療法が行われてきましたが、最近では医療の発達とともに新たな治療法も評価されています。
そこでこの記事では、構音障害と失語症のための最新治療技術について紹介します。
最前線の治療法
構音障害や失語症はどちらも脳血管障害や頭部外傷による合併症の1つです。
構音障害は、音を作り出す筋肉や神経に異常が生じることで、言語は理解できていてもうまく発声できなくなる状態を指します。
一方で、失語症とは脳の前頭葉に存在するBroca野や側頭葉に存在するWernicke野が障害されることで、言語が理解できない、もしくは理解できても自分の言葉がうまく出てこない状態となる病気です。
これまで、構音障害に対しては、正しい音を出せるように発声方法を練習する構音訓練が主な治療とされてきました。
また、失語症に対しては、言語や文字に対する理解・描出を促すようなコミュニケーションを取る言語聴覚療法が主な治療です。
しかし、近年では医学の発達に伴い新たな治療法も評価されており、2021年脳卒中治療ガイドラインでも失語症および構音障害に推奨される治療内容が一部変更されました。
ここでは、その概要を紹介します。
rTMS
rTMSとは、repetitive transcranial magnetic stimulation:反復経頭蓋磁気刺激の略で、頭皮の上から脳に反復的に磁気を与える、失語症への新たな治療法です。
反復的に磁気を与えることで大脳皮質の興奮性を変化させ、言語の神経ネットワークの再構築を促進することを目指します。
2021年脳卒中治療ガイドラインで新たに推奨され、その推奨度はC(使用を考慮しても良い)程度ですが、特に慢性期の失語症には有意な効果を示しています。
Barwoodらの報告によれば、rTMSによる刺激によって呼称と絵の叙述が有意に回復し、その効果は2ヶ月間も持続したそうです。
今後の知見が待たれるところであり、既存の言語療法との併用でより良い治療効果が期待されます。
r-TMSでは、電磁コイルを用いて大脳局所を刺激します。磁気刺激を加えることによって、損なわれた神経機能の代償が促進されると考えられています。現在、各分野においてさまざまな有効例が報告されており、欧州のガイドラインでは、疼痛治療としての高頻度r-TMSがレベルAとして治療が推奨されています。
失語症CI療法
失語症CI療法とは、constraint-induced aphasia therapyの略であり、短期集中的に健側上肢の使用を抑制し、麻痺側上肢を強制的に使用させて、制限をかけることで機能回復を目指す治療です。
また、これを言語能力に応用する場合は、ジェスチャーなどの使用を禁止し、あくまで口頭言語を強制的に使用させて短期集中的に発話の改善を目指します。(これをCIATと呼ぶ)
ただし、CIATの効果については報告によって異なり、特に急性期・亜急性期では改善を認めにくいという研究が多いです。
伝統的な治療から最新技術へ
上記からもわかるように、構音障害・失語症の治療分野は現在大きな転換点を迎えているように感じます。
特に、失語症の改善のためには左大脳半球において言語ネットワークが再構築されることが肝要であり、そのメカニズムの解明が進んだことで最新技術を駆使した新たな治療法も登場しています。
これまでの伝統的な言語療法から、rTMSやtDCSなど最新の治療も取り入れられてきました。
tDCSとは、transcranial direct current stimulation:経頭蓋直流電気刺激法の略です。
rTMSが磁気であるのに対して、tDCSでは微弱な電流を流すことで脳の言語ネットワークを刺激します。
しかし、tDCSはrTMSと異なり、狙った部位にピンポイントで刺激できるわけではない点で注意が必要です。
言語療法の進化
従来までの言語療法も近年は進化しています。
これまで蓄積された知見として、より短期間に集中的に言語療法を行うことが結果として良好な治療結果をもたらすことが分かっています。
具体的には、1日2時間程度の言語療法が好ましく、無駄に長時間行うことは好ましくないとされています。
発症以後どのタイミングで言語療法を行うのがベストなのかについては、議論の分かれるところですが、より効率的に言語療法を行うように新たな潮流も生まれています。
今後さらなるエビデンスが得られれば、より効果的かつ洗練された言語療法を実践できるでしょう。
まとめ
今回の記事では、 構音障害と失語症のための最新治療技術について詳しく解説しました。
構音障害や失語症はなんらかの脳の病気によって生じる合併症として代表的であり、どちらも他者との会話に支障をきたすため日常生活に与える影響は大きいです。
そこで、これまでは言語療法によって発声練習などが行われてきましたが、近年は様々な医療技術の発達とともに、革新的な治療法も徐々に普及されつつあります。
本書で紹介したようなrTMSや、これまでの言語療法をより効果的なものとするCI療法などによって、失われた機能の改善が期待されます。
また、最近では「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、脳損傷部の治る力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「再生医療×同時リハビリ™」によって、これまで根治の難しかった構音障害や失語症の改善・再生が期待できます。
よくあるご質問
失語症とはどんな症状?
失語症は大きく分けて、感覚性失語と運動性失語に大別されます。
言語が理解できなくなってしまうのが感覚性失語であり、言語は理解できるのにも関わらず自身の言葉の表出がうまくできなくなるのが運動性失語です。
構音障害はなぜ起こるのですか?
構音障害が起こる理由として、咽頭や喉頭の筋肉、もしくはその筋肉をコントロールする神経(舌咽神経など)が障害されることで生じます。
具体的には、脳卒中・頭部外傷・口唇口蓋裂などが挙げられます。
MSDマニュアル:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/07-神経疾患/脳葉の機能および機能障害/失語
Pub Med:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21138505/
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