この記事を読んでわかること
・一過性脳虚血発作の病態がわかる
・一過性脳虚血発作の危険性がわかる
・一過性脳虚血発作による神経症状に対するリハビリが理解できる
一過性脳虚血発作とは、その名の通り一過性に脳血管が閉塞し、虚血に陥る病気です。症状はあくまで一時的なため、その後すぐに改善しますが、そこから数日以内に脳梗塞に発展する可能性が高く、重篤な後遺症を残す可能性もあります。そこでこの記事では、一過性脳虚血発作による神経症状や、後遺症に対して効果的なリハビリについて解説します。
回復に向けたリハビリの重要性
脳梗塞という病名は聞いたことがあっても、一過性脳虚血発作という病気は聞いたことがない方も多いのではないでしょうか?
一過性脳虚血発作とは、わかりやすく言えば「脳梗塞の一歩手前」のような病態であり、放置すればその後脳梗塞の完成に至る可能性が極めて高いです。
脳を栄養する血管が血栓や解離で完全に閉塞した状態が脳梗塞ですが、その前段階では一時的に脳血管が閉塞し、一時的な脳虚血に伴い短時間のみ神経症状が生じ、通常24時間以内に症状が消失します。
具体的な症状としては脳梗塞と同様で、突然の麻痺やしびれ、構音障害・嚥下障害・視力低下・めまいやふらつきなどであり、これらの症状が2〜30分ほど持続した後、完全に消失します。
これらの症状は1日に数回起こる場合もあれば、数年間に2〜3回だけの場合もありますが、症状が一時的だからといっても油断は禁物です。
一過性脳虚血発作(TIA)を起こしてから脳梗塞を発症する確率
TIAを起こしてから7日間以内に脳梗塞を発症する確率は8.6%、30日以内で12.0%、3ヶ月以内で15〜20%と報告されており、うち半数は2日以内に脳梗塞を発症するためTIA発症後は注意が必要です。
仮にTIAを認めた場合、本格的な脳梗塞を発症する前に薬物療法や手術療法・生活習慣の改善を行うことで脳梗塞への進行を予防できます。
一方で、対応が遅れて脳梗塞に至れば脳細胞は虚血・壊死に陥り、その部位が担っている機能は障害されるため、さまざまな神経症状や後遺症が残ってしまいます。
後遺症の改善に対しては、いかに早期からリハビリを行うかが重要です。
これまでは脳梗塞急性期は病状の安定のためにも安静を絶対としてきましたが、近年ではより発症早期からのリハビリが機能予後を格段に改善させることがわかっており、早期から無理のない範囲でリハビリを行います。
また、急性期を脱した後は回復期と呼ばれ、この時期は最もリハビリによる神経学的後遺症が改善しやすい時期でもあります。
歩行訓練・日常生活動作の訓練・嚥下訓練・言語訓練などを反復して行うことで、障害された神経ネットワークの再構築が促進され、残存機能の維持や後遺症の改善が見込めるため、リハビリは非常に重要です。
生活の質を向上させるためのリハビリ方法
生活の質を向上させるためには、日常生活動作を行う上で必要な筋肉や関節を重点的にリハビリする必要があります。
必要最低限の運動を行えるようになることが日常生活を送る上で非常に重要です。
具体的には下記のような運動をリハビリで鍛える必要があります。
- 寝返りを打つ
- 座位を保持する
- 自力で立つ・座る
- 車椅子や杖を用いた移動・歩行
- 食事
- 排泄
- 着衣
これらの機能を維持・改善するためには、まずその動作を行うにあたって、どの動きが問題となっているのかを把握する必要があります。
例えば、自力で食事摂取する場合、左手でお椀が持てないのか、利き手側の右肩が上がらないのか、箸を扱う右手指が思うように動かないのか、嚥下能力が低下しているのかによって行うべきリハビリも変わるため、まずは問題となっている動作を限定・把握することが肝要です。
筋力低下が問題ならその筋肉や関節の運動を行い、嚥下能力が問題なら嚥下訓練を行う必要があります。
上記のように、生活の質の向上のためには問題の把握と、それに応じた適切なリハビリを行うことが重要なのです。
家族や介護者のサポート体制とはどういうものか?
急性期や回復期は医療機関でのリハビリが主ですが、退院後は家族を中心とした介護者のサポート体制が重要です。
退院してからのリハビリ期間の方が、医療機関での時間よりも圧倒的に長いため、家族や介護者はサポート体制を整備しておく必要があります。
具体的には下記のようなことが重要です。
- 階段や廊下に手すりをつけたり、段差にはスリープを設置
- 必要性に応じてエレベーターの設置
- 地域包括支援センターなどによる公的支援を受ける
- 必要に応じて訪問介護を受ける
家族によるサポートは患者にとって非常にありがたく、無くてはならないものですが、一方で介護負担に悩む家族も少なくないため、訪問介護サービスやボランティアなどを積極的に活用して、一人で抱え込まないようにしましょう。
まとめ
今回の記事では、 一過性脳虚血発作のリハビリや、それによるQOLの向上について詳しく解説しました。
TIAの段階では脳細胞への血流は完全には途絶していませんが、放置すればその後脳梗塞を発症する可能性が非常に高いため、早期対策が非常に重要です。
もし対応が遅れ脳梗塞を発症すれば、なんらかの後遺症を残す可能性が高く、そうなれば現状、後遺症を完全に根治する方法はありません。
早期にリハビリ介入し、機能の維持・改善に努めることが重要ですが、失われた機能を元通りにすることは困難です。
一方で、最近では脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、脊髄や神経の治る力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、リハビリだけでは根治できなかった後遺症の改善が期待できます。
よくあるご質問
- TIAは心臓に関係しますか?
- TIAが生じる原因として心疾患の可能性があります。不整脈を認める場合、心臓内の血液の流れが淀み、血栓が形成されるため、その血栓が脳血管に飛ぶことでTIAの原因となります。他にも、人工弁や重篤な心不全では血栓形成リスクが高いです。
- 一過性脳虚血発作の再発予防には何がありますか?
- 一過性脳虚血発作の再発予防において最も重要なのは、生活習慣の改善です。高血圧・高脂血症・糖尿病などの生活習慣病や喫煙は動脈硬化をもたらし、TIAの原因となるため、規則正しい食生活や運動を行うことで再発予防すべきです。
<参照元>
TIAの症状 | MSDマニュアル家庭版:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-脳、脊髄、末梢神経の病気/脳卒中/一過性脳虚血発作-tia#:~:text=TIAの症状は突然,だけの場合もあります%E3%80%82
脳卒中急性期治療とリハビリテーション | J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/46/5/46_5_297/_pdf
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今回はアテローム血栓性脳梗塞とは何かについて解説します。アテローム血栓性脳梗塞は、脳血管内にコレステロールなどの脂質が沈着し、プラークと呼ばれる粥状の塊が形成され、このプラークが破綻することにより、その表面に血栓が形成され、血管が詰まる疾患です。高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などが原因となります。
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