・高次脳機能障害の原因がわかる
・高次脳機能障害の症状がわかる
・高次脳機能障害に対するリハビリテーションの詳細がわかる
高次脳機能障害とは、麻痺やしびれなどの身体的症状とは異なり、思考や言語・記憶などの脳機能が障害される病態です。
主な原因は脳血管障害や頭部外傷であり、一度発症すると日常生活に与える影響が大きく、厄介な病態です。
この記事では、頭部外傷による高次脳機能障害の原因や症状、リハビリテーションの概要について解説します。
高次脳機能障害の定義と主な症状
高次脳機能障害とは、何らかの外傷や病気によって脳が部分的に障害され、言語や思考・記憶・行為・学習・注意力や集中力などの知的機能が障害される病気です。
主要な症状は下記の通りです。
- 記憶障害:新しい情報を記憶できない・物の置き場所を失念する
- 注意障害:注意力の低下・マルチタスクを実行できない
- 遂行機能障害:自分で物事の計画を立てることができない
- 社会的行動異常:暴力性や興奮性が高まる・自己中心的になる
- 半側空間無視:左右いずれかの空間を認識できなくなる
- 言語障害:言語をうまく表出できない・言語を理解できない
東京都医師会の報告によれば、症状は頻度の多い順に、言語障害(56.9%)、注意障害(29.8%)、記憶障害(26.2%)であり、これらの症状によって、日常生活および社会生活を正常に送ることが困難となる状態を指します。
また、神経学的後遺症として代表的な麻痺やしびれなどの場合、歩行などに支障が出るため、一見してわかりやすいですが、高次脳機能障害の場合は見た目では周囲が理解しにくいため、周囲からの理解を得られにくいと言うデメリットがあります。
さらに、高次脳機能障害では認識能力も低下するため、発症した本人がその異常を自覚できない場合もあるため、注意が必要です。
頭部外傷が高次脳機能障害を引き起こす理由
高次脳機能障害が生じる原因として、下記のような原因が挙げられます。
- 脳血管障害:脳出血・脳梗塞・くも膜下出血
- 頭部外傷:硬膜外血腫・硬膜下血腫・脳挫傷
- 感染症:脳炎
- 自己免疫性疾患:SLE・ベーチェット病
- 中毒疾患:アルコール中毒・一酸化炭素中毒・何らかの薬物中毒
このうち、約8割が脳血管障害由来の高次脳機能障害であり、次いで頭部外傷が約1割と多いです。
では、なぜこれらの疾患で高次脳機能障害が生じてしまうのでしょうか?
例えば頭部外傷では、頭部に加わった衝撃がそのまま直接的に脳を障害したり、もしくは頭部外傷に伴う頭部の回転や回旋によって脳に回転加速度が加わり、間接的に障害されます。
頭部外傷においては、特に前頭葉や側頭葉が障害されやすく、前頭葉の障害では遂行機能障害、側頭葉の障害では言語障害や記憶障害が出現しやすいです。
また、外傷に伴う低血圧や低酸素によって脳への栄養供給が不足し、脳に二次的障害を引き起こします。
その結果、虚血に脆弱な海馬、小脳、大脳皮質に障害がおよび、結果として脳のさまざまな部位が障害されて多彩な神経症状をきたすわけです。
高次脳機能障害の治療と健康管理
まず結論から言えば、一度広範に障害された脳細胞が再生することは困難であり、出現した症状を完全に根治する特効薬などもありません。
そこで、主な治療はリハビリテーションになりますが、高次脳機能障害の治療と健康管理については、どのような症状が出現するかや、発症からの時期によって、行うべきリハビリテーションも異なります。
ここでは、それぞれの症状に対するリハビリテーションを紹介します。
注意障害
注意障害は、記憶力や遂行機能・認知機能などの全ての高次脳機能において基礎となる能力であり、リハビリテーションの専門家の中では、まずは注意障害の改善を優先すべきという意見が多いです。
注意障害のリハビリテーションの内容においては、エビデンスの高い報告に乏しいですが、主に下記のような訓練が実践されています。
- グループ訓練
- ドリル学習
- コンピューターによる訓練
- 就労・就学のための実践訓練
記憶障害
記憶障害に対するリハビリテーションとしてエビデンスの高いものは、メモ帳や手帳を用いた記憶補助法です。
しかし、記憶の保持のために実際にメモ帳や手帳を使う場合、下記のような条件を満たしている必要があります。
- 頭部外傷受傷前にメモ帳などを使用したことがある
- 本人が記憶障害を自覚している
- メモ帳などの補助手段を運用できるだけの知的能力がある
言語障害
言語障害に対するリハビリテーションでは、どの言語能力が障害されているのかによってリハビリテーションの内容も異なります。
例えば、話す能力が欠如しているなら、言語の復唱や、絵を見て名前を言わせるなどの方法でリハビリを行います。
読む能力が欠如している場合、簡単な本や文章を読んでもらい、その内容について質問して返答してもらうなどのリハビリを行うことで能力の改善を目指すわけです。
症状の程度や性質に合わせてリハビリテーションの内容を変えることが肝要です。
まとめ
今回の記事では、頭部外傷による高次脳機能障害について詳しく解説しました。
頭部外傷によって脳のさまざまな部位が障害を受けると、障害された部位に応じた高次脳機能障害が出現します。
特に多いのは言語障害・注意障害・記憶障害などであり、日常生活の質を大きく低下させるため、注意が必要です。
これらの高次脳機能障害に対して、現状ではリハビリテーションしか改善する術はありませんが、近年では再生治療が新たな治療法として非常に注目されています。
また、脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善困難であった高次脳機能障害のさらなる改善が期待できます。
よくあるご質問
- 外傷性脳損傷後にみられやすい症状は?
- 外傷性脳損傷後にみられやすい症状として一過性の意識障害、混乱や健忘が見られます。
これらの急性期症状とは別に、言語障害・記憶障害・遂行機能障害などの高次脳機能障害が残存する可能性もあります。 - 外傷による高次脳機能障害で最も頻度が高いのはどれか?
- 東京都医師会の報告によれば、高次脳機能障害で最も頻度が高い症状は失語症であり、56.9%の患者で認められたそうです。
それについで、注意障害が29.8%、記憶障害が26.2%、半側空間無視が20.2%という結果でした。
<参照元>
東京都医師会:https://www.tokyo.med.or.jp/docs/handbook/358-375.pdf
J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/44/10/44_10_598/_pdf
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