<この記事を読んでわかること>
・脊椎損傷による蓄尿障害のメカニズムがわかる
・脊椎損傷による排尿障害のメカニズムがわかる
・神経因性膀胱の症状がわかる
脊髄は脳と身体を繋ぐ架け橋のような役割を担っており、排尿や排便の機能にも大きく関わっています。
そのため、脊椎損傷によって脊髄を損傷すると正常な排尿が得られなくなり、尿失禁や残尿など、神経因性膀胱と呼ばれる病態を引き起こします。
この記事では、脊椎損傷が引き起こす神経因性膀胱について詳しく解説します。
神経因性膀胱とは?排尿障害のメカニズムを解説
神経因性膀胱とは、膀胱の機能を司る神経がなんらかの原因で障害され、正常な膀胱機能が失われる病態を指します。
では、膀胱はどのような神経回路によってその機能をコントロールされているのでしょうか??
まず、膀胱に尿が溜まり始めると、膀胱壁が伸展し、その伸展刺激は知覚神経を経由して仙髄に伝達され、脊髄を上行して最終的に脳に情報が到達します。
情報を受け取った大脳から延髄に指示がわたり、まだまだ膀胱に尿が溜まるよう、その指示は仙髄から下腹神経を経由して膀胱壁の弛緩や、内尿道括約筋の収縮を促すわけです。
内尿道括約筋は膀胱から尿が出る出口の部分の筋肉であるため、内尿道括約筋の収縮によって尿は膀胱内から出ることができなくなります。
このようなメカニズムで徐々に尿が蓄積し、膀胱が充満すると、再びその情報は膀胱から脳に伝達され、橋と呼ばれる部位を経由して仙髄に排尿刺激が入ります。
仙髄の興奮は骨盤神経を刺激し、排尿筋が収縮・内尿道括約筋が弛緩することで、膀胱が収縮し、出口である尿道が開くため、排尿が起こるのです。
この時、随意筋(自分の意思で収縮させることができる筋肉)である外尿道括約筋を収縮させることで、排尿を一時的に止めることも可能です。
これが正常な蓄尿・排尿のメカニズムですが、どちらも指令は脊髄を経由するため、脊椎損傷によって内部を走行する脊髄が障害されれば、排尿、もしくは蓄尿が障害され、尿失禁や残尿などの症状を引き起こす可能性があります。
脊椎損傷が膀胱機能に与える影響
脊椎損傷によって近辺を走行する脊髄が損傷すると、排尿機能と蓄尿機能、両方が障害を受けます。
特に、神経因性膀胱で重要な症状は尿失禁です。
十分膀胱が充満していないにも関わらず膀胱が不随意、かつ頻回に収縮するため、尿失禁が起こりやすくなります。
また、頻回に膀胱が収縮するため、尿意で夜間起きてしまうことも少なくありませんが、尿が溜まっていないため、尿意に見合った排尿は得られません。
逆に、膀胱の収縮が機能せず、尿が膀胱に残ってしまうこともあります。
この場合、膀胱内に尿が溜まってしまうことで膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症を併発する可能性があるため、注意が必要です。
また尿の貯留が増えると、徐々に腎臓が貯留した尿に圧迫され、水腎症や腎後性腎不全などの腎機能障害を負う可能性もあるため、やはり注意が必要です。
特に尿路感染症は、重篤化すると命に関わる危険性もあるため、脊髄損傷後の排尿障害においては間欠的に導尿を行うなど、何らかの対策が必要となります。
症状の種類:排尿困難から尿失禁まで
脊椎損傷に伴う神経因性膀胱の蓄尿障害の症状は主に下記の通りです。
- 頻回に尿意を感じ、トイレに行きたくなる(尿意切迫感)
- 頻尿
- トイレに間に合わず失禁する(尿失禁)
脊椎損傷に伴う神経因性膀胱の排尿障害の症状は主に下記の通りです。
- 尿が途中で止まる
- 尿に勢いがない
- 残尿感がある
- お腹を外から押さないと尿が出ない
上記のように、脊椎損傷に伴う神経因性膀胱では、排尿に関する多彩な症状を認め、また蓄尿障害と排尿障害を併発する可能性があります。
日常生活のADLを保ち、また尿路感染症を予防するためにも、普段から蓄尿や排尿をコントロールする内服療法や導尿などを用いて、適切な排尿管理を行うことが肝要です。
まとめ
今回の記事では、脊椎損傷が引き起こす神経因性膀胱排尿障害について詳しく解説しました。
排尿や蓄尿には骨盤神経や下腹神経、さらには脊髄や脳などさまざまな神経組織が複雑に関わっており、これらの神経組織が障害されると正常な排尿が得られなくなります。
特に、膀胱に尿が残存・貯留してしまう排尿障害の場合、膀胱内に細菌が繁殖する尿路感染症を併発する可能性があり、腎盂腎炎に至れば死に至る可能性もあるため、注意が必要です。
現状、脊髄損傷によって発症した神経因性膀胱排尿障害を改善させる術は乏しく、根治することは困難であるため、内服療法や間欠的導尿が必要となります。
一方で、近年では脊椎損傷が引き起こす神経因性膀胱に対する再生医療の効果が大変注目されています。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、脊椎損傷が引き起こす神経因性膀胱の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 脊髄損傷による神経因性膀胱とは?
- 膀胱の正常な排尿・蓄尿は、膀胱にかかわるさまざまな神経と、脳や脊髄が複雑に関与して可能となっています。
そのため、脊髄損傷によって排尿機能・蓄尿機能・もしくはその両方が障害され、神経因性膀胱を発症します。 - 神経因性排尿障害とは何ですか?
- 神経因性排尿障害とは、脊髄損傷や末梢神経障害などの神経疾患によって膀胱の排尿機能が障害されることです。
これにより、膀胱に尿が蓄積していてもうまく排出できず、残尿や尿路感染症の原因となります。
<参照元>
MSDマニュアル 神経因性膀胱:https://www.msdmanuals.com/
高齢者脊髄損傷の予後|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1964/37/5/37_5_282/_pdf
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脊髄損傷が原因で、膀胱をコントロールする神経がうまく働かなくなり、排尿に問題が起きる状態をいいます。膀胱の収縮や弛緩、尿道括約筋の開閉がうまく機能しないため、排尿困難や尿失禁を起こします。適切な管理を行わない場合、尿路感染症や腎機能障害のリスクが高まるため、薬物療法や導尿などの治療が重要です。

運動神経や感覚神経、自律神経など多くの神経が束になった脊髄を損傷することで多岐に渡る神経障害が出現します。中でも、最も下位のレベルに存在する仙髄は障害を受けやすく、仙髄の障害によって排尿や排便に障害をきたし、日常生活にも多くの支障を来してしまいます。そこで本書では、脊髄損傷における排尿障害に関して詳しく解説していきます。
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