<この記事を読んでわかること>
ヘルニア手術後のしびれや痛みに対し、再生医療が有望な新しい治療法であることがわかる。
幹細胞治療が神経や椎間板の損傷にどのように作用し、痛みやしびれを改善するのかが理解できる。
PRP療法が分子レベルで組織修復を促進し、慢性痛の軽減に寄与する可能性があることがわかる。
腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けた後も、しびれや慢性的な痛みといった後遺症に悩まされる人は少なくありません。
従来のリハビリや鎮痛薬では十分な改善が見られないケースも多く、日常生活に支障をきたすことも。
近年ヘルニア後遺症に対して「再生医療」が注目されはじめています。
本記事では幹細胞治療やPRP療法について詳しく解説します。
再生医療が拓くヘルニア後遺症の新たな治療法
再生医療とは、失われた組織や臓器の機能を再生させる治療法の総称です。
これまで治療困難とされてきた神経や軟骨の損傷に対しても、再生医療を活用することで機能回復が期待されています。
椎間板は、2つの椎骨の間にある線維軟骨組織で、脊椎にかかる圧を分散させることができます。
ヘルニアは、親水性の高い核である髄核で構成されており、その外側は線維輪というコラーゲン層で囲まれています。
椎間板の細胞が徐々に減少し、老化していくと、椎間板の劣化が起こります。
すると、椎間板が周囲に飛び出し、神経を圧迫する事態となります。
椎間板ヘルニアは、早期の段階では理学療法や鎮痛薬の投与で治療をしていきます。
しかし、症状が改善しない場合には外科的な治療法が取られます。
一般的には、飛び出した椎間板の切除や、椎間板の完全除去に引き続き関節形成術または関節固定術が含まれます。
しかしながら、手術を行っても脊髄や神経の圧迫症状が改善しない場合があります。
ヘルニア後遺症においては、手術後も神経が圧迫された状態が長く続いていたことによる神経障害や、炎症に伴う組織の損傷が原因となる場合があります。
再生医療は、これらのダメージを直接修復し、根本的な改善を目指せる点で大きな可能性を秘めています。
幹細胞治療の原理とヘルニア後遺症への応用
幹細胞は、さまざまな細胞に分化できる能力を持つ特殊な細胞です。
患者自身の脂肪や骨髄から採取した幹細胞を培養・加工し、損傷部位に注入することで、壊れた神経組織や椎間板の修復を促進します。
特に「間葉系間質細胞(MSC)」は、炎症を抑えたり神経細胞の再生を助けたりする働きがあり、ヘルニア後の慢性痛やしびれといった神経症状に対して効果が期待されています。
MSCは、骨髄や脂肪組織、末梢血、または臍帯から採取されることが最も多いとされています。
また、自己由来の細胞を用いるため、拒絶反応のリスクが低い点も大きな利点です。
18 人の患者を対象とした脂肪由来 MSC (AD-MSC) 試験に関する 2 つの報告によると、1 年間の追跡調査で椎間板内注射を行ったところ、視覚的アナログ疼痛スコア (VAS) とオスウェストリ障害指数 (ODI) の両方で改善傾向、もしくは有意が示されたことが示唆されています。
PRP療法による組織再生と痛みの軽減効果
PRP療法(多血小板血漿療法)は、患者の血液を遠心分離にかけることで血小板を高濃度で抽出し、それを患部に注射する治療法です。
血小板には、成長因子と呼ばれる組織修復を促す成分が豊富に含まれており、炎症の抑制や組織再生を助ける働きがあります。
特に、整形外科分野では膝関節症患者においてPRP使用の安全性と有効性が認められており、痛みなどの臨床症状が改善したとされています。
変形性膝関節症は、関節軟骨の加齢変化に加え、肥満や遺伝的素因、さらに骨折や靱帯・半月板損傷といった外傷、化膿性関節炎などが主な原因となって発症します。
例えば、加齢による変性では、関節軟骨の弾力が低下し、日常的な使用によってすり減ることで関節が徐々に変形していきます。
同時に、分子レベルでは組織の修復と破壊のバランスが崩れ、痛みやさらなる関節変形を引き起こします。
PRP療法は、この分子レベルでの修復バランスを整える作用があり、痛みの軽減や変形の進行抑制を目的とした治療として期待されています。
一方で、ヘルニア後遺症に対するPRP療法では、神経周囲の微細な損傷や椎間板の変性に対して自然治癒力を高め、慢性的な痛みの緩和が期待できます。
施術も比較的簡便で、日帰りで行えるケースも多く、低侵襲な選択肢として注目されています。
最新の臨床研究が示す再生医療の有効性
藤田医科大学では、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の患者に対し、自己脂肪由来幹細胞を用いた再生医療の臨床研究が行われています。
患者の腹部脂肪から採取した幹細胞を培養し、損傷した椎間板周辺に注入することで、神経の炎症や損傷の修復を図る治療法です。
初期の結果では、安全性が確認されただけでなく、痛みやしびれの軽減など自覚症状の改善が報告されています。
この研究は国の再生医療等提供計画にも登録されており、倫理審査を経た上で実施されています。
今後はさらなる症例の蓄積により、有効性のエビデンス強化が期待されており、慢性化しやすいヘルニア後遺症への新たな治療の選択肢として注目されています。
まとめ
ヘルニア手術後のしびれや痛みに悩む方にとって、再生医療は「治らない」を覆す可能性を持った、新たな選択肢となります。
幹細胞治療やPRP療法によって、損傷した神経や組織の修復が期待されており、実際に臨床研究でも有効性が報告されています。
中でも、ニューロテックメディカルでは、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』という独自の治療概念を提唱しています。
これは、幹細胞治療と神経刺激を同時に行う、「同時刺激×神経再生医療®」を軸に、骨髄由来間葉系幹細胞の投与と神経再生リハビリ®を組み合わせることで、神経回路の再構築を図る治療法です。
ヘルニア後遺症に限らず、脳卒中や脊髄損傷など神経障害に悩む方にも、新たな希望をもたらすアプローチと言えるでしょう。
よくあるご質問
- ブロック注射でヘルニアは治りますか?
- ブロック注射は神経の炎症や痛みを一時的に抑える治療であり、ヘルニア自体を根本的に治すものではありません。
ただし、症状の緩和により自然治癒を促す効果は期待できます。 - 椎間板ヘルニアは完治しますか?
- 多くの場合、保存療法で症状が改善し、自然に治癒することもあります。
ただし、重度の神経圧迫や再発を繰り返す場合には、手術や再生医療などが必要になることもあります。
(1)Sakai D, Schol J, Watanabe M. Clinical Development of Regenerative Medicine Targeted for Intervertebral Disc Disease. Medicina (Kaunas). 2022 Feb 10;58(2):267. doi: 10.3390/medicina58020267. PMID: 35208590; PMCID: PMC8878570.:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8878570/
(2)特定認定再生医療等委員会の承認のもと、国内で初めて椎間板への多血小板血漿(PRP)注射の安全性と有効性を検証 | 藤田医科大学 – Fujita Health University:https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv000000smbj.html
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