<この記事を読んでわかること>
脳梗塞に対する標準的な治療がわかる。
脳梗塞に対する最新治療がわかる。
脳梗塞治療に対する考え方の経時的な変化がわかる。
脳梗塞にはさまざまな治療法があり、どの治療法を選択するかは個々の病状によって異なります。
また、近年では新たな脳梗塞治療も次々に開発されており、日本の標準治療に対する考え方も徐々に変化しています。
この記事では、脳梗塞の治療法や最強の治療法を紹介します。
脳梗塞の標準治療とは?

脳梗塞に対する標準治療は多岐にわたり、脳梗塞の病型や発症時期、患者の全身状態などによって治療法の選択も異なります。
特に重要なのは発症から治療開始までの時間であり、時間によって治療法も異なるため、ここでは急性期と慢性期に分けて治療法を解説します。
急性期
脳梗塞に対する急性期の標準治療は主に下記の通りです。
- 発症から4.5時間以内:t-PA静注投与
- 発症から24時間以内:血管内治療
- 発症から24時間以降:保存治療
発症から4.5時間以内であれば、t-PA(アルテプラーゼ)と呼ばれる血栓を直接的に溶解する薬を静脈に注射し、血栓を溶かす血栓溶解療法が選択されます。
しかし、t-PA静注を行うと出血リスクが高まるため、厳格な適応基準が設けられています。
また、就寝中に起こった脳梗塞などの場合、発症時刻が明瞭でないため、これまでt-PAは適応外でした。
しかし、近年は医療技術の向上に伴い、MRI検査で発症時期がある程度特定できるようになったため、発症時刻が明瞭でない場合もt-PAの使用が考慮されるようになりました。
t-PA静注の適応外、もしくは発症から4.5時間以上経過した場合に検討される治療法は、カテーテルによって血栓を回収、もしくは吸引する血管内治療です。
血管内治療では血管からデバイスを入れて梗塞巣にアプローチし、原因となる血栓を回収することで再開通を目指します。
しかし、これらの治療は十分な設備や対応可能な医師が配置されている高度な医療機関でないと受けることができません。
発症から24時間を超えてしまった場合は上記治療は適応外となり、それぞれの病型に合わせて下記のような保存治療を行います。
- 抗血小板薬:ラクナ梗塞やアテローム性血栓性脳梗塞に良い適応
- 抗凝固薬:心原性脳梗塞に良い適応
- 脳保護剤:どの脳梗塞にも良い適応
- 血圧管理など:どの脳梗塞にも良い適応
慢性期
急性期を脱して病状が落ち着いた慢性期には、再発予防と後遺症の改善が主な治療目的です。
再発予防のためには、下記のような治療が実施されます。
- 抗血小板薬や抗凝固薬の内服
- 高血圧や糖尿病などの生活習慣対策
- 不整脈治療
脳梗塞の原因にもよりますが、抗血小板薬や抗凝固薬の内服や生活習慣の改善は血栓形成の予防において必要不可欠です。
また、心房細動などの不整脈による心原性脳梗塞の場合、抗不整脈薬やカテーテルアブレーションによる不整脈治療を行うことも、予防的観点から重要です。
テネクテプラーゼとアルテプラーゼの違いとは?
t-PA(アルテプラーゼ)は2005年に国内で承認されていますが、アメリカではその9年も前から承認されています。
一方で、欧米諸国ではアルテプラーゼをさらに改良してより効果を高めたテネクテプラーゼと呼ばれる新薬もすでに使用されています。
日本の医療技術は確かに世界トップクラスですが、新薬の承認においてはどの分野の処方も大きく遅れを取っているのが現状です。
このテネクテプラーゼとアルテプラーゼの違いは、下表の通りです。
| テネクテプラーゼ | アルテプラーゼ | |
|---|---|---|
| 血栓への親和性 | 高い | 低い |
| 作用時間 | 長い(アルテプラーゼの6倍) | 短い |
| 投与方法 | ワンショットで静注 | 10%を急速静注し、残りを1時間かけて静注 |
| 出血リスク | 低い | 高い |
| 血流再開通率 | 高い | 低い |
これを見るとわかる通り、テネクテプラーゼは完全にアルテプラーゼの上位互換であり、有効性・安全性ともにアルテプラーゼを上回ると考えられています。
脳梗塞に対する最強の治療法は?
結論から言えば、脳梗塞に対する最強の治療法は個々の病態や梗塞の原因にもよるため、断言できません。
しかし、あくまで一般論で、かつ適応がある前提で言えば、テネクテプラーゼと血管内治療の併用が最も効果は高いです。
ナタリー氏らが2021年に報告した研究によれば、血管内治療単独と血管内治療+アルテプラーゼ併用の治療効果を検証した結果、脳梗塞発症後90日時点における障害の転帰に有意差を認めませんでした。
一方で、先ほど紹介したアルテプラーゼの上位互換であるテネクテプラーゼも同様の検証が行われています。
Zhongming氏らが2025年に報告した研究によれば、血管内治療単独と血管内治療+テネクテプラーゼ併用の治療効果を検証した結果、脳梗塞発症後90日時点における障害の転帰は併用群で有意に改善を認めたそうです。
残念ながらまだテネクテプラーゼを国内で使用することはできませんが、今後国内でも承認されれば、これまで改善困難であった急性期脳梗塞治療に変革をもたらす可能性が期待されます。
まとめ
テネクテプラーゼを筆頭に、脳梗塞に対する治療は日々進化しており、ガイドラインで定められている標準治療も時代の流れとともに変化していきます。
一方で、慢性期の治療においてはいまだにリハビリテーションが主な治療法であり、残った後遺症が完璧に元に戻ることは現状不可能です。
しかし、近年では後遺症に対しても新たな治療法として再生医療の分野が大変注目されています。
さらに近年では、神経障害が「治る」を当たり前にする取り組みとして注目されている「ニューロテック®」という考え方があります。
これは、脳卒中や脊髄損傷に対して「狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療」再生医療「リニューロ®」を軸とするアプローチで、骨髄由来間葉系幹細胞や神経再生リハビリ®を組み合わせた治療法です。
脳梗塞後の神経障害に対しても、今後このような先進的な治療法が希望となる可能性があります。
回復への選択肢を広げるためにも、医療機関と連携しながら一人ひとりに合った支援を継続することが大切です。
よくあるご質問
- 脳梗塞の治療にはどれくらいの時間がかかりますか?
- 脳梗塞の治療にかかる時間は個人差も大きいですが、一般的には急性期は1週間ほどで脱し、症状が軽ければ自宅に帰れます。
一方で、後遺症が重い場合はリハビリ病院に転院し、自宅復帰を目指すことになります。 - 脳梗塞になると長生きできないですか?
- 脳梗塞が余命に与える影響は、その症状の程度や発症した年齢によっても異なります。
症状が重く、年齢が高齢であればあるほど、余命は短縮する傾向にあります。
症状がごく軽微な場合、その後再発などしなければ余命にはほとんど影響を与えません。
(1)日本脳卒中学会:静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2019 年3月:https://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA03.pdf
(2)日本脳卒中学会:脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025):https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2025_kaiteikoumoku.pdf
(3)豊田一則:わが国の脳梗塞血栓溶解のためのテネクテプラーゼ開発.日本血栓止血学会誌.2025年36巻3号p. 414-423:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/36/3/36_2025_JJTH_36_3_414-423/_html/-char/ja
(4)Natalie E. LeCouffe. A Randomized Trial of Intravenous Alteplase before Endovascular Treatment for Stroke. N Engl J Med 2021;385:1833-1844.DOI:10. 1056/NEJMoa2107727:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2107727
(5)Zhongming Qiu. Intravenous Tenecteplase before Thrombectomy in Stroke. N Engl J Med 2025;393:139-150.DOI: 10.1056/NEJMoa2503867:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2503867
関連記事
脳梗塞を発症した場合、できるだけ早期からのリハビリテーションの開始が重要とされています。この記事では脳梗塞発症後の段階にそった効果的なリハビリテーションプログラムや家族のサポートが与える影響について、さらに社会復帰を目指すためのステップと活用できる支援制度について解説しています。
脳出血と脳梗塞はどちらも脳血管に異常をきたす疾患であり、その血管に栄養されている脳細胞の機能が障害されることで後遺症を來します。しかし、脳梗塞と違って脳出血は頭蓋骨内に蓄積した血腫が正常な脳を圧迫するため、一般的に脳梗塞より予後が悪く、致死率も高いです。この記事では、脳出血と脳梗塞の病態の違いや予後について解説します。
外部サイトの関連記事:脳梗塞後の予後と生活の質(QOL)向上のためのポイント
