・感覚異常が日常生活に与える影響とリハビリの効果がわかる。
・認知機能低下に対するリハビリの具体的な方法と重要性がわかる。
・リハビリを継続することで生活の質を向上させる方法がわかる。
感覚異常と認知機能の低下は、脳梗塞や外傷などで起こることがあり、日常生活に大きな影響を与えます。
本記事では、感覚異常と失行や失認に対するリハビリの重要性について解説します。
また、感覚の再教育や認知トレーニングなど、リハビリの具体的な方法やその効果を理解するための情報を紹介します。
頭頂葉の役割とその損傷がもたらす感覚障害とは?
頭頂葉の役割とその損傷がもたらす感覚障害について解説します。
1. 頭頂葉の役割
頭頂葉は大脳の一部で、脳の中央に位置し、体の感覚情報の処理に重要な役割を果たします。
この部分は、皮膚からの触覚、温度、痛み、圧力などの感覚情報を受け取り、処理するのに関与しています。
また、空間認識や物体の位置を把握する能力、さらには手足の動きの制御や物をつかむなどの動作の調整も担っています。
日常生活において、物を持つ、歩く、他者とコミュニケーションを取るといった行動に、この頭頂葉の正常な機能が不可欠です。
2. 頭頂葉の損傷による感覚障害
頭頂葉が損傷を受けると、さまざまな感覚障害が生じる可能性があります。
主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 触覚の低下または喪失:損傷した側の身体の一部が触れられていることを感じにくくなります。
- 位置感覚の障害:自分の手足がどこにあるかを認識しづらくなることがあります。
これにより、動作がぎこちなくなり、バランスを保つのが難しくなることがあります。 - 空間認識の問題:物の位置関係を把握するのが難しくなり、右と左の区別がつきにくくなる場合があります。
また、空間における自分の体の位置を正しく認識できないため、物にぶつかりやすくなることもあります。 - 失行症:特定の動作や行為を計画・実行する能力が低下し、複雑な動作をスムーズに行うのが難しくなります。
例えば、服を着る、歯を磨くなどの一連の動作が困難になることがあります。
頭頂葉は、日常生活における感覚情報の処理と身体の動作の調整に重要な役割を果たします。
その損傷により、触覚の低下や位置感覚の障害、空間認識の問題、失行症などの感覚障害が引き起こされることがあります。
これらの障害は生活の質に大きな影響を及ぼすため、早期の診断と適切なリハビリテーションが重要です。
脳梗塞が引き起こす失行と失認の神経学的な背景
脳梗塞は、脳の特定の領域への血流が遮断されることにより、その領域の神経細胞が損傷を受ける病態です。
この損傷により、さまざまな神経機能障害が生じることがあります。
特に、失行と失認は、脳梗塞によって引き起こされる代表的な高次脳機能障害の一つです。
それぞれの障害とその神経学的な背景について詳しく見ていきましょう。
1. 失行(Apraxia)
失行とは、運動機能や感覚が正常であるにもかかわらず、目的のある動作を適切に行うことが困難になる状態を指します。
脳梗塞によって失行が引き起こされる場合、主に以下の領域の損傷が関与しています。
- 頭頂葉:特に左頭頂葉の損傷は、失行の主な原因となります。
この領域は、複雑な動作の計画と実行を統合する役割を持っています。
頭頂葉の損傷により、動作の順序や適切な筋肉の選択、動作の調整がうまくいかなくなります。 - 前頭葉:運動前野と前頭連合野が関連します。
これらの領域は、動作の計画と実行の最終的な指示を出す役割を担っています。
前頭葉の損傷により、動作を開始したり、適切なタイミングで動作を行う能力が損なわれることがあります。
失行にはさまざまなタイプがあり、代表的なものに観念失行(物の使い方がわからなくなる)、観念運動失行(特定の動作の仕方がわからなくなる)、構成失行(物の組み立てや図形の模写が困難になる)などがあります。
2. 失認(Agnosia)
失認とは、感覚機能自体に問題がないにもかかわらず、視覚、聴覚、触覚などの感覚情報を正しく認識することができなくなる状態です。
脳梗塞によって失認が引き起こされる場合、以下の領域の損傷が主に関連します。
- 側頭葉:視覚的な情報の処理に関与する側頭葉の損傷により、視覚失認(見ているものが何であるかわからない)が生じることがあります。
側頭葉はまた、聴覚失認(聞こえている音が何であるかわからない)にも関与しています。 - 頭頂葉:触覚情報の処理に関与する頭頂葉の損傷により、触覚失認(触ったものが何であるかわからない)が生じます。
また、空間認識に関連する頭頂葉の機能障害により、身体の左右の認識が難しくなる半側空間無視が生じることもあります。 - 後頭葉:視覚情報の初期処理に関与する後頭葉の損傷が重度である場合、視覚失認の一部として物の形状や色の認識が困難になることがあります。
感覚異常と認知機能の低下に対するリハビリの重要性
感覚異常と認知機能の低下に対するリハビリの重要性について解説します。
1.感覚異常に対するリハビリの役割
感覚異常に対するリハビリは、損傷を受けた感覚機能の回復や、代替手段を用いた生活の適応を目的としています。
リハビリテーションの方法は、損傷の部位や程度によって異なりますが、主に次のような方法があります。
- 感覚の再教育:触覚や視覚の異常に対して、感覚の刺激を繰り返し与えることで、脳が新たに感覚情報を処理する回路を形成することを促します。
これにより、感覚の回復や改善が期待されます。 - 適応訓練:感覚が完全に回復しない場合、患者が日常生活でどのように感覚異常に対応するかを学ぶ訓練が行われます。
具体的には、視覚や触覚の補助具の使用方法を学んだり、生活環境を調整することが含まれます。 - バランス訓練:感覚異常がバランス感覚に影響を及ぼす場合、バランスを改善するためのリハビリが行われます。
これにより、転倒のリスクを軽減し、日常生活の安全性が向上します。
2. 認知機能低下に対するリハビリの重要性
認知機能の低下は、日常生活での意思決定や問題解決能力に大きく影響します。
認知機能を改善するためのリハビリテーションは、脳の可塑性を活かして、損傷した部分の機能を他の部位が補うようにすることを目的としています。
主な方法には以下のようなものがあります
- 認知トレーニング:記憶力や注意力、問題解決能力を向上させるための認知訓練が行われます。
パズルや計算、ゲームなどを用いて脳を刺激することにより、認知機能を向上させます。 - 作業療法:日常生活で必要なスキルを回復するための訓練です。
例えば、料理や買い物、書類の整理といった具体的な作業を通じて、脳の認知機能を再訓練します。 - 社会的相互作用の促進:認知機能低下がコミュニケーション能力や対人関係に影響を与えることがあります。
そのため、家族や介護者との対話を通じて、患者が社会的なつながりを維持できるようにすることも重要です。
まとめ
失行と失認は、脳梗塞による特定の脳領域の損傷により生じる高次脳機能障害です。
失行は主に頭頂葉や前頭葉の損傷によって動作の計画と実行が妨げられる状態であり、失認は側頭葉や頭頂葉の損傷によって感覚情報の認識が困難になる状態です。
これらの症状は、患者の日常生活に大きな影響を与えるため、早期の診断と適切なリハビリテーションが重要です。
当院脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、脳梗塞後の後遺症などの神経障害に対し、再生医療とリハビリテーションを組み合わせた狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療リニューロ®を行っております。
これは、同時刺激×神経再生医療®、骨髄由来間葉系幹細胞を用いて狙った脳や脊髄の治る力を高めた上で、神経再生リハビリ®を行うことで神経障害の軽減を目指します。
ご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談くださいね。
よくあるご質問
- 頭頂葉の構成失行とは?
- 構成失行は、頭頂葉の損傷により生じる症状で、物を組み立てたり、図形を模写する能力が低下する状態です。
例えば、簡単な図形の描写やブロックの組み立てなどが困難になり、日常の動作に支障をきたすことがあります。 - 頭頂葉障害とはどんな障害ですか?
- 頭頂葉障害は、触覚、空間認識、位置感覚などの感覚情報の処理が難しくなる状態です。
具体的には、触覚の低下、空間認識の問題、物の操作の困難さなどが見られ、日常生活での行動やコミュニケーションに影響を与えることがあります。
<参照元>
Parietal Lobe: What It Is, Function, Location & Damage Cleveland Clinic:https://my.clevelandclinic.org/health/body/24628-parietal-lobe
Apraxia – an overview | ScienceDirect Topics:https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/apraxia
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