<この記事を読んでわかること>
脳出血による脳細胞破壊のメカニズムがわかる
脳梗塞の脳細胞に与える影響がわかる
脳出血と脳梗塞の後遺症の出方の違いがわかる
脳出血と脳梗塞はどちらも脳血管に異常をきたす疾患であり、その血管に栄養されている脳細胞の機能が障害されることで後遺症を來します。
しかし、脳梗塞と違って脳出血は頭蓋骨内に蓄積した血腫が正常な脳を圧迫するため、一般的に脳梗塞より予後が悪く、致死率も高いです。
この記事では、脳出血と脳梗塞の病態の違いや予後について解説します。
脳出血は「脳の破壊」が大きく残りやすい
脳出血と脳梗塞はどちらも脳血管障害(いわゆる脳卒中)に分類され、名前も似ていることから混同されがちですが、病態は異なる疾患です。
まず、脳出血は脳を栄養する血管のいずれかが破綻し、頭蓋骨内で出血を引き起こす病気であり、脳梗塞よりも脳の破壊が大きく残りやすい点が特徴です。
出血の原因はさまざまですが、多くの場合は長期的な高血圧・糖尿病・高脂血症などによって血管が動脈硬化を来たし、脆くなってしまうことで出血を引き起こします。
特に出血が起こりやすい部位としては被殻・視床・小脳・大脳皮質下などが挙げられ、特に頻度の高い被殻・視床は、運動を司る神経回路である錐体路や、感覚を脳に伝導する神経回路である脊髄視床路が走行する部位であるため、麻痺やしびれなどの神経症状が出現しやすいです。
また、小脳や脳幹で出血が起これば、スムーズな運動が得られなくなったり、脳幹の司る呼吸や循環にまで影響が出るため、命の危険性もあります。
脳出血で「脳の破壊」が大きく残りやすいメカニズムは、出血にすることによってその先にある脳細胞に十分な酸素や栄養が行き届かなくなるためだけではなく、血腫による正常脳の圧迫も大きく影響します。
脳は軟膜・クモ膜・硬膜の3つの膜に包まれて保護されており、さらにその外側を硬い頭蓋骨で覆われているため、基本的に閉鎖空間に存在している臓器です。
そこで出血を引き起こすと、特に動脈からの出血の場合、血液がどんどん頭蓋骨内を満たしていき、血腫によって正常な脳すらも圧迫されてしまいます。
その結果、その血管に栄養されていない脳細胞すらも障害を受けてしまうことで神経学的後遺症が残りやすくなってしまうのです。
つまり、出血量が多いほど脳が圧迫を受けやすく危険であり、実際に、多くの文献でも出血量や脳室穿破の有無がその後の予後規定因子として挙げられています。
脳梗塞は「詰まった場所」によって症状に大きな差
次に、脳梗塞とは脳出血とは異なり、何らかの原因で脳の血管が閉塞してしまう病気です。
脳出血とは異なり、脳梗塞の場合は血腫の形成などがないため、詰まった血管の先にある脳細胞が障害され、その脳細胞が担っている機能に支障をきたします。
そのため、脳梗塞ではどの血管が詰まったかで出現する症状に大きな違いが生まれます。
当然、大きな血管の主幹部で閉塞を引き起こせば広範囲の脳細胞が虚血に陥るため、出現する神経症状や後遺症も重篤になりやすく、注意が必要です。
一方で、末梢の細い血管で閉塞を引き起こした場合は、障害される脳細部もごく一部に留まるため、通常、被害が限定的です。
しかし、たまたま運悪くその領域が重要な機能を担っている部位であった場合、梗塞範囲に関わらず出現する神経症状も重篤になります。
脳梗塞はその病態別に下記の3つに分類されますが、中でも特に注意が必要なのは心原性脳梗塞とアテローム血栓性脳梗塞です。
- ラクナ梗塞:動脈硬化によって脳深部の細い動脈が閉塞する
- アテローム血栓性脳梗塞:動脈硬化によって形成されたアテロームが太い動脈を閉塞する
- 心原性脳梗塞:心房細動などによって形成された心腔内血栓が脳血管に飛び閉塞する
このうち、脳深部の細い動脈が閉塞するラクナ梗塞は梗塞範囲も限定期です。
同じ動脈硬化が原因となるアテローム血栓性脳梗塞は、脳を栄養する太い動脈においてアテロームと呼ばれるコブが形成され、アテロームが破綻することで一気に血栓が形成されて閉塞するため、梗塞範囲が広くなる可能性が高いです。
また、心房細動などによって心腔内に形成された血栓が、心臓の拍動によって駆出されてしまう心原性脳梗塞では、血栓がパラパラと左右の脳の血管に飛散するため、梗塞が広範囲に及ぶ可能性があります。
言語・麻痺・高次脳機能障害など後遺症の出方とリハビリの違い
脳梗塞や脳出血による神経学的後遺症としては麻痺やしびれが代表的であり、これらの後遺症は食事や歩行などの基本的な日常生活動作に大きな支障を与えます。
一方で、言語や注意能力、記憶能力などが障害される高次脳機能障害も日常生活に与える影響は決して少なくないため、いずれにせよリハビリによる機能の維持・向上が必要です。
例えば、言語能力1つとっても、舌が麻痺して言葉を紡げなくなる構音障害、言葉のインプットが困難となる記憶障害、言葉の理解能力が低下する失語症など、さまざまな後遺症があります。
また、言語障害に対しては言語訓練を、記憶障害には反復訓練や記憶のためのツールの利用、失語症に対しては文章読解の訓練や語彙の再獲得など、リハビリのアプローチも異なるため、脳出血・脳梗塞ともに、各症状に見合った最適なリハビリの実施が肝要です。
まとめ
今回の記事では、脳出血や脳梗塞が全身に与える影響や、後遺症の比較について詳しく解説しました。
どちらも脳細胞に対する血流が低下する病気ではありますが、脳出血の場合は形成された血腫によって正常な脳も圧迫されるため、一般的に脳梗塞よりも後遺症が重篤化しやすいです。
どちらも対応が遅れれば重篤な神経学的後遺症を残し、日常生活に大きな支障を与えるため、早期発見・早期治療が肝要です。
一方で、近年では脳血管疾患の後遺症に対する新たな治療法として、再生医療が非常に注目されています。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善困難であった脳血管疾患に伴う神経学的後遺症の改善が期待できます。
よくあるご質問
- :脳出血の後遺症は治るのでしょうか?
- 脳出血の後遺症は適切な治療や早期からのリハビリによって改善する可能性があります。
一方で、重度の麻痺やしびれが残った場合に完全に身体機能が元に戻る可能性は決して高くありません。 - 一度壊れてしまった脳は回復しますか?
- 脳細胞は自己再生能に乏しく、一度壊れてしまった脳は基本的に回復しません。
しかし、積極的なリハビリによって脳の機能が代償的に回復したり、再生医療によって構造・機能ともに再生できる可能性があります。
(1)脳内出血患者における急性期病院退院時の機能予後とその要因|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/43/3/43_11130/_pdf/-char/ja
(2)脳梗塞|京都大学医学部附属病院:https://neurosur.kuhp.kyoto-u.ac.jp/patient/disease/dis26/
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