<この記事を読んでわかること>
・脊髄損傷に対する幹細胞治療の最新の知見がわかる
・脊髄損傷に対する電気刺激療法の効果がわかる
・脊髄損傷に対する医療工学の進歩がわかる
脊髄損傷は一度発症すると四肢麻痺などの重篤な後遺症が残り、基本的に後遺症を改善させる術のない病気です。
しかし、近年では幹細胞治療や電気刺激療法、医療工学の併用など、新しいアプローチの治療法も増えてきています。
そこでこの記事では、幹細胞治療をはじめとする脊髄損傷治療の最新の知見について紹介します。
幹細胞治療が脊髄損傷に与える新たな希望
近年、脊髄損傷に対する新たな治療法として幹細胞治療が非常に注目を浴びています。
脊髄損傷は従来治療で根治困難な病気であり、生じる後遺症も基本的に不可逆的ですが、幹細胞治療であれば将来的に根治を目指せる可能性が高いためです。
まず、幹細胞治療とはざっくり言えば、さまざまな系統の細胞に分化でき、かつ自己複製能力の高い幹細胞を用いて、損傷した臓器や組織を修復する治療のことです。
投与された幹細胞は体内の損傷した臓器の細胞に分化し、大量に自己複製することで損傷した臓器の機能や構造を修復・修飾します。
つまり、この治療の肝は幹細胞であり、これまでさまざまな種類の幹細胞が研究・開発されてきました。
例えば、人工胚から形成されるES細胞や、人工的に生成されたiPS細胞などが有名ですが、とりわけ日本国内で脊髄損傷の治療に用いられる幹細胞としては、自身の骨髄から抽出した間葉系幹細胞が有名です。
実際に、現在日本で脊髄損傷に使用される幹細胞治療薬は自身の骨髄由来間葉系幹細胞から生成した製剤「ステミラック注」といい、急性期の脊髄損傷に対して保険承認されている唯一の幹細胞治療薬です。
(参照サイト:脊髄損傷に対する再生医療等製品「ステミラック注」を用いた診療について|札幌医科大学附属病院)
厚生労働省の報告によれば、ステミラックによる治療では重篤な合併症を認めることなく、13例の投与患者において90%以上で四肢の動きの改善を確認しています。
(参照サイト:最適使用推進ガイドライン(案) ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞 (販売名:ステミラック注) ~脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善~|厚生労働省)
既存の治療法と比べればその効果は目を見張るものがありますが、それでも、製造コストや製造可能な数などに課題も多く、今後のさらなる開発が待たれるところです。
2021年には慶應大学を中心としたチームで、iPS細胞由来の神経前駆細胞の細胞移植に、世界で初めて成功しました。
完全麻痺の脊椎損傷患者に対し、ヒトiPS細胞由来の神経前駆細胞を約200万個、損傷脊髄の中心部に移植し、その後の安全性もすでに確認されています。
(参照サイト:世界初、iPS細胞を用いた脊髄再生医療の実現へ|慶應義塾大学)
この研究が進めば、現在ステミラックの抱える様々な課題解決につながり、より多くの脊髄損傷患者が幹細胞治療を受けられる可能性があります。
電気刺激療法と神経機能の再生
電気刺激療法とは、幹細胞治療とは全く異なるアプローチで脊髄損傷による神経障害を改善させる治療法です。
脊髄損傷の場合、末梢の神経や筋肉に運動の指令を送る脊髄は損傷しているものの、末梢の神経や筋肉そのものは基本的に障害されていないため、筋肉や末梢神経に体外から電気刺激を送ることで、その機能を代償できると考えられてきました。
しかし、最近では末梢神経や筋肉に刺激を送ることで、脳や脊髄などの上位運動ニューロンの可塑性や神経ネットワークの再構築が促進される効果も期待されており、脊髄損傷の新たな治療法として期待されています。
(参照サイト:運動障害以外の疾患に対するエビデンスに基づいた電気刺激療法|J STAGE)
テクノロジーを活用した機能回復支援の未来
ほかにも、近年ではICTやAIなど、最新のテクノロジーを医療工学に活用するケースも増えてきています。
今後の日本では、理学療法士などリハビリに必要不可欠な労働力の減少が見込まれ、どんなに革新的な医療が出現しても、それを実際に患者に供給する労働力の不足が問題です。
理学療法士が不足すれば患者は十分なリハビリを行うことができず、神経機能の改善・維持は困難となります。
そこで、最近ではリハビリの質を向上させる歩行支援ロボットの活用や、AIを活用した患者状態の分析などがすでに実装されており、将来的にさらなる開発・普及が予想されます。
まとめ
今回の記事では、脊髄損傷治療に対する再生医療の可能性や、そのほかの最新の知見について詳しく解説しました。
脊髄損傷は年齢問わず発症する可能性があり、一度発症すれば四肢麻痺などの重篤な後遺症が残る病気です。
これまで後遺症を改善させる術はリハビリに限られ、またリハビリでも根治することは基本的に不可能でしたが、近年では再生医療や電気刺激療法、医療工学による支援など、新しい治療アプローチも増えてきています。
ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善の困難であった脊髄損傷の後遺症の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 脊髄損傷は治る可能性ありますか?
- 脊髄損傷は損傷の程度によっては治る可能性もありますが、完全に四肢麻痺が残った状態からの改善は現状の医療技術では困難です。
しかし、今後は再生医療の発達によってさらなる機能の改善が強く期待されています。 - 再生医療はなぜ高額になるのですか?
- 再生医療が高額になる主な理由は、開発コストが高額であったり、抽出した幹細胞の培養や保存にもコストがかかるためです。
また、保険適応されない場合は自費で治療を受ける必要がある点も課題です。
(1)脊髄損傷に対する再生医療等製品「ステミラック注」を用いた診療について|札幌医科大学附属病院:https://web.sapmed.ac.jp/hospital/topics/news/stemirac.html
(2)最適使用推進ガイドライン(案) ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞 (販売名:ステミラック注) ~脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善~|厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000481004.pdf
(3)世界初、iPS細胞を用いた脊髄再生医療の実現へ|慶應義塾大学:https://www.med.keio.ac.jp/features/2022/3/8-122695/index.html
(4)運動障害以外の疾患に対するエビデンスに基づいた電気刺激療法|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/54/8/54_590/_pdf
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