・脊髄損傷とは
・嚥下機能とは
・脊髄損傷による嚥下障害はなぜ起こる
脊髄損傷は主に交通外傷や転落によって脊髄を損傷してしまうことです。
脊髄には様々な神経が走行しており、損傷によって多くの機能に障害が起こる可能性があります。
麻痺やしびれの他に嚥下機能が障害になることもあり、食事摂取困難や誤嚥性肺炎のリスクを高めてしまう可能性もあります。
この記事では、脊髄損傷による嚥下障害について分かりやすく解説していきます。
脊髄損傷とは
脊髄損傷とはなんらかの原因で脊髄を損傷する疾患です。
脊髄は神経の束のようなもので、脳からの指令を体に伝えたり、逆に体からの情報を脳に伝えたりする架け橋のような役割を担っています。
脊髄の中には運動神経だけでなく、感覚神経や交感神経など様々な種類の神経が通っていますので、脊髄損傷の高さが高位であればあるほど症状も多岐に渡ります。
特に脊髄の中でも最も損傷しやすい部位は頸髄であり、損傷による神経症状はより広範囲に及びます。
主に上肢や下肢の麻痺や痺れ、さらには自律神経が損傷することで血圧や脈拍、排泄や睡眠などが障害になりますが、脊髄損傷の患者様の中には嚥下機能(えんげきのう)が障害となってしまう方もいます。
嚥下機能とは?
そもそも嚥下機能とはどういった機能なのでしょうか?
嚥下機能とは「何かを飲み込んだり食べたりする能力」のことで、嚥下障害とはなんらかの原因で嚥下機能が障害になった状態のことです。
症状が進行すると、飲み込んだものが食道ではなく気管に入ってしまいますが、これを誤嚥といい、場合によっては誤嚥性肺炎を招き命の危険性があります。
正常な嚥下機能では、口腔内の顎や舌の運動、唾液分泌が正常に機能し、食塊を上手に口から咽頭に流し込みます。
咽頭の奥へたどり着いた食塊は、舌咽神経や迷走神経と呼ばれる神経に感知され、それらが食塊に反応し嚥下反射という反射を引き起こします。
嚥下反射の結果、咽頭部の筋群が連動して働き、食塊が気管に入らないように喉頭蓋という構造物が気管に蓋をしたり、食道への入り口を広げたりすることでスムーズに食塊が食道へ導かれていきます。
しかし、脳梗塞、加齢、または脊髄損傷によって、嚥下機能が障害を受けることがあります。
脊髄損傷が起きた場合、なぜ嚥下機能に障害が生じるのでしょうか?
脊髄損傷による嚥下障害はなぜ?
前述したように脊髄の損傷に伴い多くの神経が損傷します。
しかし、嚥下機能に関わる舌咽神経や迷走神経は脳から直接分岐しているため、脊髄損傷だけでは本来嚥下障害は起こらないはずなのです。
これは解剖学的にも明らかで、舌咽神経や迷走神経と呼ばれる嚥下をコントロールする神経はあくまで延髄と呼ばれる脳の一部から分岐しています。
どんなに高位の頸髄損傷であっても、延髄には影響を及ぼさないためこれらの神経の機能は障害にならないはずです。
しかし、実際には脊髄損傷の患者様で嚥下障害を併発する方がいます。
その原因にはいくつかの説があります。
外頸筋過緊張
人間の呼吸は、横隔膜とそのほかの呼吸補助筋の運動で成り立っています。
頸髄損傷の場合、横隔膜の動きをコントロールする横隔神経が損傷される可能性があり、横隔膜の動きが制限され、うまく呼吸ができなくなってしまいます。
逆に、その他の呼吸補助筋は横隔膜が使えない分も頑張ろうとして過緊張状態になり、これが咽頭部にも影響して嚥下障害を起こすと言われています。
頸髄損傷による下咽頭の浮腫
頸髄損傷や、それに対する頚椎前方固定術などの手術による侵襲で下咽頭に炎症が発生すると浮腫が生じ、解剖学的変化をきたして嚥下障害をきたす可能性があります。
特に急性期には炎症が強いため嚥下機能が障害されやすいと言われています。
気管内挿入物の影響
前述したように、特に頸髄損傷患者様では横隔膜を中心とする呼吸筋麻痺を併発しやすいです。あまりにも呼吸筋麻痺症状が強い場合、気管チューブや気管カニュレと呼ばれる気管内挿入物を入れて人工呼吸器で呼吸をアシストします。
これらの気管内挿入物が長期的に留置された場合、咽頭浮腫などの解剖学的異常や、嚥下反射低下などの機能的異常をきたし嚥下障害を併発する可能性が高くなります。
ここまで記載した通り、脊髄損傷における嚥下障害のほとんどは頸髄損傷によるものです。
胸髄損傷患者様でも一部嚥下障害が報告されており、胸髄にある自律神経の損傷が原因の1つとして報告されていますが、理論上自律神経と嚥下機能は直接的な繋がりはありません。
まとめ
本書では、脊髄損傷による嚥下障害の発症機序について詳しく解説しました。
嚥下障害が残存すれば、経口摂取に問題が生じ、場合により誤嚥性肺炎を繰り返せば命に関わる危険性があります。実際になぜ嚥下障害が発症するのか複数の要因があるため一概には言えませんが、神経機能の回復が見込めれば発症率を下げられる可能性が高いです。
残念ながら既存治療では神経細胞の機能回復は見込めませんが、近年では再生医療の発達が目覚ましいです。
骨髄から採取した幹細胞を点滴から投与することで、自前の幹細胞が損傷した神経細胞に定着し機能が蘇る可能性があります。
再生医療を併用すれば、嚥下機能のリハビリによる機能回復にさらなる期待も持てます。
現在、多くの治療結果を積み重ねており、その成果が期待されています。
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