<この記事を読んでわかること>
・蘇生後脳症の病態がわかる
・蘇生後脳症に対する再生医療の可能性がわかる
・最新の治療「自己臍帯血由来間葉系幹細胞を用いた治療」の概要がわかる
致死的不整脈や外傷などが原因で心肺停止に陥った場合、一般市民であっても心肺蘇生を行うことで救命が目指せます。
一方で、救命はできても長期間の低酸素状態が続くと、脳に不可逆的な後遺症が残ってしまうことがあり、これを蘇生後脳症といいます。
ここでは、蘇生後脳症の幹細胞治療による再生医療の可能性について詳しく解説します。
蘇生後脳症の発症メカニズムと脳への影響
蘇生後脳症とは、心肺停止状態から奇跡的に蘇生できた患者における低酸素脳症のことです。
近年、AEDの普及などに伴い心肺停止からの蘇生率は向上しておりますが、その一方で蘇生後脳症の患者も増加傾向です。
では、なぜ蘇生後脳症になってしまうのでしょうか?
理解する上では心臓と肺の本来の機能を知っておく必要があります。
まず、心臓はポンプのような機能を持ち、酸素を多量に含んだ新鮮な動脈血を全身に送り届けています。
全身の臓器に酸素を共有し、逆に臓器からの二酸化炭素や老廃物を回収した静脈血は、その後心臓に戻り、肺に到達すると二酸化炭素を排出し、酸素を受け取ることで再び新鮮な動脈血として心臓に戻っていくのです。
心肺停止状態になると、呼吸が止まることで酸素を取り入れることができず、さらに心臓が止まることで全身に血液を供給できなくなるため、全身の臓器は酸欠状態に陥ります。
中でも、脳は非常に酸素需要の高い臓器であり、たった数秒の酸欠で意識消失を起こし、3〜5分以上の酸欠によって何らかの脳障害、いわゆる蘇生後脳症を抱えるのです。
蘇生後脳症の経過は主に3パターンです。
- 一時的な後遺症から回復へ向かう
- 植物状態
- 脳死
軽度の後遺症であれば認知機能の低下や注意障害などが挙げられますが、重度だと重度の麻痺・てんかん・昏睡状態などの後遺症が残ります。
大脳が広範に障害され、自発呼吸は保たれていても意識がない状態を植物状態と言います。
一方で、大脳だけではなく脳幹も障害され、自発呼吸すら保たれない状態を脳死と言い、この場合は仮に心臓が動いていても数日以内に結局は心停止に陥ることが一般的です。
再生医療がもたらす低酸素脳症後遺症の改善への希望
一度低酸素脳症に陥ると、軽度後遺症であれば患者の年齢や予備能力次第で改善も見込めますが、重度の後遺症や高齢者の場合、後遺症の改善は困難です。
これまで唯一の治療法として、低体温療法が一般的でしたが、低体温療法は脳の酸素消費量を抑えることで症状の悪化を予防する治療法であり、損傷した脳細胞そのものを再生させるような治療法ではありません。
そこで、近年では新たな治療法として再生医療が注目されています。
再生医療で用いる幹細胞には、全身のさまざまな系統の細胞に分化できる多分化能と、自身の遺伝子情報をコピーして全く同じ細胞を複製する自己複製能が備わっており、これにより損傷した細胞の機能を補う効果が期待されます。
自身の骨髄や脂肪から採取した幹細胞を、培養・増殖させて体内に戻すことで、幹細胞は損傷した脳細胞に分化し、さらに増殖することで機能を代償するわけです。
もしこれが可能となれば、これまで改善不可能であった後遺症の改善や、植物状態からの脱却が目指せる可能性もあります。
脳性麻痺への応用と効果と再生医療の最前線
現在、大阪市立大学主体の「自己臍帯血由来間葉系幹細胞」を用いた脳性麻痺患者に対する再生医療が臨床試験の真っ最中です。
投与した幹細胞やその培養液には、脳血管の保護・新生、それに伴う脳血流改善、各種成長因子の分泌、マイクログリアの反応調整を含めた免疫調整および抗炎症作用、神経軸策の発芽促進など、さまざまな神経修復効果が期待されます。
すでに、治療の安全性確認のための第Ⅰ相試験は終了しており、安全性は確認されてます。
現在は、治療の有効性や実施可能性を確認するための第Ⅱ相試験を実施中であり、今後の知見が待たれるところです。
まとめ
今回の記事では、蘇生後脳症の幹細胞治療による再生医療の可能性について詳しく解説しました。
脳に不可逆的なダメージを及ぼす蘇生後脳症。
一度発症すれば約半数が1年以内に死亡するほど、神経学的予後の悪い病態です。
これまでは低体温療法による症状の緩和が一般的であり、唯一の治療法でしたが、近年では再生治療が新たな治療法として非常に注目されています。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善困難であった蘇生後脳症の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 蘇生後脳症の予後は?
- 蘇生後脳症の予後として、生存退院率は50〜60%と幅があります。
また、発症1年以内の生存率も約30〜60%と研究によって幅があり、どれほどの神経学的後遺症を認めるかが予後にとって重要です。 - 低酸素脳症の治療法は?
- 低酸素脳症の主な治療法は低体温療法です。
体温を下げることで全身の酸素消費量を低下させ、脳における酸素需要を低下させることで脳保護を行う治療法ですが、一度損傷した脳細胞は元には戻りません。
そこで、近年では新たな治療法として再生医療が注目されています。
日本臓器移植ネットワーク:https://www.jotnw.or.jp/kids/basic/brain_heart02.html
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000032171.pdf
J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/19/6/19_720/_pdf
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