<この記事を読んでわかること>
線条体黒質変性症の進行速度や日常生活への影響がわかる。
余命に関わる重要な症状や評価方法がわかる。
利用できる支援制度や将来を見据えた生活設計のポイントがわかる。
線条体黒質変性症は、多系統萎縮症の一つに分類される進行性の神経疾患で、運動障害や自律神経症状、生活機能の低下を引き起こします。
この記事では、発症から症状が進むスピード、平均的な余命、日常生活にどのような変化が生じるのかを丁寧に解説し、医療費助成や介護保険などの公的支援など将来に備えるためのヒントをお届けします。
平均的な進行速度と生活の変化
線条体黒質変性症は、小脳失調、パーキンソン症状、自律神経障害を特徴とする多系統萎縮症の一つです。
この多系統萎縮症は、40歳代以降の方に多く発症し、αシヌクレインという異常な蛋白が神経細胞とオリゴデンドログリアにたまり、徐々に細胞が変性し脱落していく病気です。
特に、線状黒質変性症では診断時にパーキンソン症状が主なものとなります。
なお、その他の病型としては、小脳性運動失調が目立つオリーブ橋小脳萎縮症、規律性低血圧などの自律神経障害が目立つシャイ・ドレーガー症候群があります。
進行すると、これらの症状は混ざり合っていきます。
MRIなどの検査や、病理検査で、脳幹や小脳の萎縮、線条体の異常がわかる病気のため、多系統萎縮症と言われるようになりました。
さて、この多系統萎縮症は、同じく脳の神経細胞の変性疾患として知られるパーキンソン病よりも、予後は不良とされています。
多系統萎縮症全体としては、日本では発症後5年ほどで車椅子が必要となります。
さらに、8年ほどで寝たきりとなり、9年ほどで命を落とすことが多いとされています。
線条体は、脳の大脳基底核の一部で、運動の制御、意思決定、認知機能、感情、動機づけなど、様々な神経活動に関与する重要な脳領域です。
特に運動機能に関わる役割がよく知られています。
そのため、黒質や線条体の機能が低下すると、筋強剛、無動、姿勢反射障害といった症状が認められます。
パーキンソン病と似ているものの、パーキンソン病と比べて、安静時振戦が少なく、進行が早く、抗パーキンソン病薬が効きにくいという特徴があります。
進行に伴い、歩行や排泄、食事、会話などの日常生活全般に支援や介助が必要となる場面が増えていきます。
初期にはふらつきや転倒が多くなり、徐々に車椅子での生活へと移行することもあります。
さらに、会話が不明瞭になったり、嚥下機能が低下して食事に時間がかかるなど、コミュニケーションや栄養摂取にも影響が及ぶことがあります。
余命に影響を与える要因とは?
多系統萎縮症においては、嚥下・呼吸障害が生命予後を決める重要な因子となります。
そのため、早期に障害を発見し介入することが大切です。
嚥下障害の検査としては、嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査が行われます。
これらを組み合わせて、嚥下機能を評価します。
多系統萎縮症になってから5年以上たった方は、嚥下障害のリスクが高まります。
そのため、ルーチンでも嚥下造影検査と嚥下内圧測定を行うことが推奨されています。
また、呼吸障害の評価も大切です。
上気道閉塞つまり喉や鼻の問題による呼吸機能障害と、中枢性つまり脳神経の問題からくる呼吸器機能障害があります。
ポリソムノグラフィーは、睡眠時無呼吸の検出に有効とされています。
現在、在宅での睡眠時無呼吸のスクリーニングのために活用されているものとして、携帯用装置による簡易睡眠時無呼吸検査があります。
この検査は、保険収載されています。
さらに、上気道閉塞による呼吸障害の検出には、喉頭内視鏡も有用とされています。
予後を見据えた生活設計と支援体制
多系統萎縮症は、現時点ではまだ根本的な治療法はありません。
そのため、さまざまな症状に応じて適切なケアを行っていくことが大切です。
例えば、小脳症状やパーキンソニズムによって転倒しやすいという場合には、自宅に手すりをつけたり、歩行器を購入したりといった対策が有効です。
次に、こうしたケアにも役立つ、社会的な支援について解説しましょう。
多系統萎縮症は、難病法の第一次指定難病に含まれており、公的な医療費助成の対象となっています。
また障害者総合支援法という法律によって、難病患者さんは障害福祉サービスが公費負担されるようになりました。
日常生活の介助や介護施設の入所、機能訓練、職業・就労支援など、生活面から就業面まで多種多様なサービスを受けることができます。
さらに、多系統萎縮症の方は40歳から介護保険の認定対象となります。
訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、介護療養施設サービス、介護予防訪問看護、訪問リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導があります。
なお、訪問看護については、要介護認定の有無にかかわらず、医療的管理が必要な場合は健康保険が優先されます。
まとめ
線条体黒質変性症は進行性の神経疾患であり、現在の医療では根治が難しいとされています。
しかし、早期からの適切な支援や生活設計に加え、今後は神経再生医療による新たな治療の可能性にも期待が高まっています。
例えば脳卒中や脊髄損傷などの神経障害に対しては、ニューロテック®の概念に基づいた狙った脳・脊髄の治る力を高める治療リニューロ®という治療が注目されています。
これは、幹細胞と神経再生リハビリ®を組み合わせ、狙った神経回路の再構築を目指すものです。
線条体や黒質といった運動機能に関わる部位への応用も、将来的には期待されています。
現在の支援とあわせて、こうした先端医療の発展にも目を向けていくことが大切です。
よくあるご質問
- 線条体黒質変性症の症状は?
- 初期には手足のこわばりやふらつき、声の小ささなどが見られ、転倒しやすくなります。
進行すると動作がさらに緩慢になり、歩行や着替え、食事などの日常動作にも支援が必要になります。
発話が不明瞭になったり、排尿・排便の調整が難しくなることもあります。 - 線条体が障害されるとどうなるのか?
- 線条体は運動の調整に深く関わっており、ここが障害されるとスムーズな動きが難しくなります。
たとえば、動き始めるまでに時間がかかったり、歩行中に足がすくむような感覚が出ることがあります。
また、感情表現が乏しくなったり、意欲の低下が目立つようになる場合もあります。
(1)多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17):https://www.nanbyou.or.jp/entry/221
(2)脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン 2018:https://www.neurology-jp.org/guidelinem/sd_mst/sd_mst_2018.pdf
(3)多系統萎縮症のケア | 健康長寿ネット:https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/takeitouishukushou/care.html
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多系統萎縮症は、進行性に神経が変性する疾患であり、主に中枢神経と自律神経が障害されます。現時点では、有効な治療法は無く、症状に応じた対症療法が中心となります。最終的には、運動機能が完全に失われ、呼吸不全や心停止により死に至ります。平均余命は診断後5〜9年であり難治性で予後が悪い疾患です。

目の奥の痛みはさまざまな神経疾患と関連しています。例えば、片頭痛や群発頭痛では、血管の拡張や三叉神経の刺激が関与し、強い痛みを起こします。視神経炎は視神経の炎症によって発症し、多発性硬化症の一症状としても知られています。また、動脈解離や髄膜炎などの重篤な疾患が原因となることもあります。
外部サイトの関連記事:線条体黒質変性症とは?パーキンソン病との違いを解説