・エクソソームとは何かわかる
・エクソソームとサイトカインの違いがわかる
・幹細胞治療におけるエクソソームとサイトカインの効果がわかる
幹細胞治療では、幹細胞から分泌されるエクソソームとサイトカインと呼ばれる2つの要因がさまざまな効果をもたらします。
その作用機序は異なりますが、どちらも抗炎症作用・組織修復・免疫調節など、再生医療にとって必要不可欠な効果があります。
ここでは、エクソソームとサイトカインがもたらす生理学的効果について詳しく解説します。
エクソソームとサイトカインの相互作用による免疫調節
みなさんはエクソソームやサイトカインをご存知でしょうか??
どちらも幹細胞から分泌される成分で、幹細胞を培養する際の上清液に含まれます。
大きな違いは、その効果や役割です。
エクソソーム
エクソソームとは、体を構成する細胞から放出される直径わずか30〜100nmの小型膜小胞のことです。
1980年代にその存在が発表され、それ以降、エクソソームはずっと細胞内の不要な成分を排出するためのゴミ袋のようなものだと認識されてきました。
しかし、近年の研究によって、エクソソームが実は細胞間のさまざまな情報伝達の媒体となっていることが明らかとなってきており、担う役割も下記のように多様です。
- 免疫の制御
- がんの発生・進行、もしくはその抑制
- 組織再生
例えば、がん細胞から分泌されるエクソソームは他のがん細胞の増殖を促進したり、周囲の血管増生を促進したり、転移先の環境を調整するなど、がん細胞がより成長しやすい状態を作り上げる能力を持ちます。
逆に、正常な細胞から分泌されるエクソソームはがん細胞の増殖を抑制する働きがあります。
このように、各細胞から分泌されるエクソソームにはさまざまな機能・役割があるわけですが、免疫機能においてはどのような役割があるのでしょうか??
免疫細胞から分泌されたエクソソームは、周囲の免疫細胞に抗原の情報を共有することで、細胞間相互作用の仲介役として役立ちます。
例えば、体内に侵入した病原菌をいち早く察知した免疫細胞が、その病原菌の情報をエクソソームによって周囲の免疫細胞に伝達することで、ほかの免疫細胞もより早く抗原に対する攻撃の準備ができるわけです。
サイトカイン
サイトカインとは、細胞から分泌されるタンパク質の一種で、細胞の増殖、分化、移動、炎症などの調節に重要な役割を果たしています。
免疫機能における役割としては下記のようなものが挙げられます。
- 過剰な免疫反応の抑制
- 免疫細胞の分化・増殖の活性化
- 免疫細胞を活性化させて、ウイルスなどの増殖抑制
以上のように、免疫反応のアクセルとブレーキ両方の機能を兼ね揃え、免疫反応を適切に調整しているわけです。
組織修復におけるエクソソームとサイトカインの役割
幹細胞から分泌されるエクソソームとサイトカインには組織修復効果も認められます。
エクソソームは、障害された部位の細胞に作用して修復効果をもたらすことが知られています。
また、幹細胞から分泌されるサイトカインは、他の幹細胞の損傷部位への移動を促し、損傷部位と同じ細胞への分化を促す効果があり、組織修復において効果的です。
炎症反応に対するエクソソームとサイトカインの影響
エクソソームとサイトカインには抗炎症作用も認められます。
神戸大学の研究によれば、骨格筋由来の細胞から分泌されたエクソソームが、免疫細胞であるマクロファージの機能を抑制し、過剰な炎症反応を抑制する効果を認めたそうです。
次に、サイトカインの中にはIL-22やIL-12と呼ばれる抗炎症作用を持つサイトカインが存在し、免疫反応を抑制することで過剰な炎症反応を抑制する働きがあります。
過剰な炎症反応は組織の損傷にもつながるため、エクソソーム・サイトカインの抗炎症作用は組織の修復という観点でも有用です。
このように、サイトカインとエクソソームは双方ともに異なる作用機序で、抗炎症作用やそれに伴う組織修復などの効果をもたらすことが知られています。
まとめ
今回の記事では、 幹細胞治療で有用なエクソソームとサイトカインがもたらす生理学的効果について詳しく解説しました。
どちらも幹細胞から分泌される点では共通ですが、その構造や作用機序は異なります。
また、互いに多細胞間における情報伝達の役割を担い、抗炎症作用や組織修復・免疫調節などさまざまな効果をもちます。
近年では、このエクソソームとサイトカインの効果をさまざまな疾患への治療に応用する幹細胞治療が注目を浴びており、実際に臨床でも応用が進んでおります。
特に、自己の再生力では組織修復が困難である神経疾患においては新たな治療法として非常に注目されており、リハビリテーションと併用することで相乗効果が得られることもわかってきました。
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よくあるご質問
- エクソソームと成長因子の関係は?
- エクソソームと成長因子はどちらも細胞から分泌され、周囲の細胞間での情報伝達に役立ちます。
ただし、エクソソームは小型膜小胞であるのに対し、成長因子はタンパク質であり、構造や細かな役割は異なります。 - エクソソームは薄毛に効果がありますか?
- エクソソームには薄毛を改善させる効果が期待できます。
エクソソームに含まれる発毛・育毛効果や、脱毛抑制効果、抗炎症作用などが、AGAなどの脱毛症を改善させる効果が期待できます。
<参照元>
J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/29/2/29_140/_pdf
The Journal of Immunology:https://journals.aai.org/jimmunol/article/180/5/3081/78637/Exosomes-As-a-Short-Range-Mechanism-to-Spread
神戸大学:https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/2023_03_30_02/
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エクソソームは細胞が分泌する膜小胞で、タンパク質、RNA、脂質を含み、細胞間コミュニケーションを行います。サイトカインは、免疫応答や炎症反応を調節するシグナル分子で、エクソソームとともに生理的プロセスに重要な役割を果たします。エクソソームとサイトカインの基本的な働きとその相互作用のメカニズムについて詳しく解説します。
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