<この記事を読んでわかること>
・幹細胞治療の概要がわかる
・難治性の神経疾患に対する幹細胞治療の効果がわかる
・自己免疫性疾患に対する幹細胞治療の効果がわかる
近年注目されている幹細胞治療は、投与した幹細胞が損傷した臓器や組織の細胞に分化し、失われた機能を補います。
これまで治療することが困難と言われる病気(脳梗塞や脊髄損傷など)に対しても、新たな治療法として幹細胞治療が注目されています。
この記事では、幹細胞治療が期待される主な対象疾患とその効果について詳しく解説します。
脳梗塞や脊髄損傷への幹細胞治療の可能性
幹細胞治療は、多系統の細胞に分化可能で(多分化能を持つ)、かつ自身の細胞情報をコピーして同じ細胞を複製できる(自己複製能を持つ)幹細胞を用いて、本来修復や再生が困難である臓器・組織の再生を目指す治療法です。
特に、心筋細胞や脳細胞は自己複製能に乏しく、一度損傷すると改善することが困難であることが知られています。
そのため、脳梗塞や脊髄損傷などの神経疾患では麻痺やしびれなどの後遺症が残ってしまうわけですが、これまではリハビリテーションで機能の維持・改善を目指してきました。
しかし、リハビリのみで後遺症が根治に至るケースは稀であり、そこで近年では損傷した細胞そのものを再生できる幹細胞治療が非常に注目されているわけです。
実際に、日本国内でも脳梗塞や脊髄損傷に対する幹細胞治療の臨床治験が進んでいます。
札幌医科大学を中心とした研究チームが開発した外傷性脊髄損傷に対する幹細胞治療薬「ステミラック」は、これまで改善困難であった外傷性脊髄損傷に対して幹細胞を投与して症状改善を目指す治療です。
13名の外傷性脊髄損傷患者に対して、受傷後40±14日に5000万~2億個の自家骨髄幹細胞を投与した結果、13例中12例が220日後に少なくとも1段階以上、ASIAスケール(神経機能の評価尺度)の改善が得られています。
(参照サイト:最適使用推進ガイドライン(案) ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞 (販売名:ステミラック注) ~脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善~|厚生労働省)
また、米国・英国が共同で行っている研究では、脳梗塞急性期(発症後24〜48時間)に中等度の脳梗塞患者に対し幹細胞を投与し、90日後の神経機能を評価した結果、90日後の神経機能では有意差を示さなかったものの、1年後には有意な改善が得られています。
(参照サイト:中枢神経疾患に対する再生医療|J STAGE)
一方で、日本国内では脳梗塞慢性期患者への幹細胞治療の治験は実施されておらず、今後の知見が待たれるところです。
難治性疾患における幹細胞治療の活用例
脳梗塞や脊髄損傷以外にも、これまで改善困難であった難治性疾患に対して幹細胞治療が活用されている実例は少なくありません。
例えば、京都大学ではパーキンソン病に対する新たな治療法として、幹細胞治療を行なっています。
パーキンソン病とは、脳内の主に大脳基底核の変性をきたす疾患であり、ドパミンと呼ばれる神経伝達物質が枯渇することでさまざまな神経症状をきたす疾患です。
京都大学の研究グループでは、人工的な幹細胞であるiPS細胞を用いてドパミン神経細胞を作りだし、脳内に移植することで症状の改善を目指す治療の開発を進めていました。
その結果、マウスに対する実験では脳内に成熟したドパミン神経細胞を効率的に生着させられることが明らかになっており、今後ヒトへの臨床研究が待たれるところです。
(参照サイト:世界初、iPS細胞を用いたパーキンソン病患者への再生医療|日本医療研究開発機構)
ほかにも、失明のリスクがある角膜上皮幹細胞疲弊症、アトピー性皮膚炎、変形性関節症など、さまざまな難治性疾患への活用が進んでいます。
自己免疫疾患に対する幹細胞治療の効果とは
幹細胞治療は難治である自己免疫性疾患に対しても有効です。
自己免疫性疾患とは、本来自身の身体を異物(病原菌やがん細胞)から守る免疫細胞が、誤って自身の正常な細胞を攻撃することでさまざまな組織・臓器が障害される疾患です。
幹細胞は培養の過程でさまざまなサイトカインを分泌することが知られており、そのサイトカインには免疫抑制因子や抗炎症因子が多分に含まれているため、自己免疫性疾患における過剰な免疫反応を抑えることができます。
重症筋無力症やSLE、多発性筋炎など、さまざまな自己免疫性疾患に対し、今後更なる臨床応用が期待されます。
まとめ
今回の記事では、幹細胞治療が期待される主な対象疾患とその効果について詳しく解説しました。
これまで難治性で改善困難であった神経疾患や自己免疫性疾患に対し、最近では幹細胞治療が新たな治療法として非常に注目されています。
現在多くの疾患に対して治験も進んでおり、今後さらに幅広い疾患での臨床応用が期待されます。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善の困難であった疾患の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 幹細胞治療の対象疾患は?
- 幹細胞治療の主な対象疾患は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血、心筋梗塞、脊髄損傷、パーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、重症筋無力症などが挙げられます。
どの疾患も根治することの難しい病気です。 - 再生医療に期待されることは?
- 再生医療には、心臓病や脳血管障害、自己免疫性疾患など、これまで改善困難であった難病に対して治療効果が期待されます。
特に、自身の能力では再生するのが困難である心筋や脳細胞の再生は革新的です。
<参照元>
(1)最適使用推進ガイドライン(案) ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞 (販売名:ステミラック注) ~脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善~:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000481004.pdf
(2)中枢神経疾患に対する再生医療|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/37/3/37_386/_pdf/-char/ja
(3)世界初、iPS細胞を用いたパーキンソン病患者への再生医療|日本医療研究開発機構:https://www.amed.go.jp/pr/2018_seikasyu_04-03.html
関連記事
横断性脊髄炎は、特定の高さでの脊髄の炎症による感覚障害や運動麻痺などを引き起こす病気です。本記事では、症状や原因、MRI検査を用いた診断方法、静脈内ステロイドや免疫療法などの治療法を詳しく解説します。さらに、幹細胞治療やiPS細胞を用いた再生医療の最新研究と、その課題についても紹介します。
TIA(一過性脳虚血発作)は、脳への一時的な血流不足によって引き起こされる短時間の神経障害で、脳卒中の警告サインとされています。この記事では、幹細胞治療の基本的な特徴とその応用例を解説し、一過性脳虚血発作(TIA)に対する幹細胞治療の研究成果を紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
外部サイトの関連記事:骨髄由来の幹細胞はなぜ脂肪由来の追随を許さないのか