・幹細胞治療の投与量、速度
・当院での幹細胞治療の実際
幹細胞治療を含む再生医療はどんどん注目を浴びていますが、実施するにあたって安全性の確保は必須と言えます。
一口に幹細胞治療といってもどの組織からとるのか、どの程度培養するのかなどの情報は重要となります。
この記事では当院での具体的な方法も述べながら、投与速度や採取方法について述べていきます。
幹細胞の安全な投与は何に基づくのか
医療における効果や安全性の議論は、臨床研究により明らかになります。
理論や動物実験だけではわからなかった効果や有害事象が、ヒトへの投与で初めて明らかになることもあるのです。
幹細胞治療や再生医療も例外ではありません。
動物実験や少数のヒトを対象とした研究が重なり、今では発表された文献を更にまとめて解析した論文で効果が検証されています。
脳梗塞の文献
脳梗塞への幹細胞治療にまとめた論文を紹介します。
この論文では質が高いと判断された24本の論文を解析しています。
それぞれの研究で用いられた幹細胞とその量は、骨髄単核球由来が6本(1,000 万~5 億個)、間葉系幹細胞が5本(50万~1億5000万)、造血幹細胞が10本(数の記載なし)、神経幹細胞が2本(200万〜12億個)、神経と間葉系幹細胞の複合が1本でした。
投与の経路別で見ると静脈投与が11、皮下投与が6、脳内投与が4、動脈内投与が3でした。
動脈内投与は静脈内投与に比較して、塞栓症のリスクが高いと考えられています。
幹細胞治療自体は比較的安全であり有害事象は最小限に管理が可能と結論付けています。
投与する幹細胞や細胞数、投与経路などでどれが一番よいかについては、一定の結論を出すのが難しく今後の研究課題として残っています。
幹細胞培養上清液の役割とその投与法
幹細胞を培養する際、成長因子と呼ばれるサイトカインが多く放出されます。
このサイトカインは培養後の上澄みに蓄積され、これを幹細胞培養上清液と呼びます。
上清液には成長因子が豊富に含まれており、体内に入ると幹細胞の活性化と自己修復を促進すると考えられています。
このサイトカインによる効果は広い分野で期待されており、再生医療だけでなく美容でも近年は注目されています。
対象となるのは皮膚の再生、肝機能障害の改善、AGA、アンチエイジングなどの身近な問題から、脳梗塞後遺症、脊髄損傷後遺症、パーキンソン病、糖尿病など根治的な治療が難しいと思われてきたものまであります。
投与方法は点滴、点鼻があります。点鼻の場合は自宅でも行える安全な治療となっています。
幹細胞治療での採取方法と培養期間
幹細胞には造血幹細胞、間葉系幹細胞、iPS細胞、ES細胞などがあります。
このうち造血幹細胞や間葉系幹細胞は人体からの採取が必要です。
造血幹細胞は血液もしくは骨髄から、間葉系幹細胞は骨髄もしくは脂肪から採取を行って培養することが多いです。
血液の採取は一般的な採血と同様です。
骨髄の場合は麻酔下(局所もしくは全身)で、骨盤(腰骨)から骨髄を穿刺して骨髄液を採取します。
脂肪由来間葉系幹細胞を利用した場合は、腹部や臀部、大腿から脂肪のかけらを採取します。
培養期間は概ね1ヶ月前後が多いです。
当院での幹細胞投与
当院での再生医療は、安全かつ効果的に実施できるように以下のような条件で行っています。
- 対象:脳卒中もしくは脊髄損傷
- 採取場所:骨髄
- 培養期間:4〜6週間
- 投与量目標:8,000万〜1億個
- 投与経路:静脈点滴(幹細胞)、点鼻(上清液)
- 点滴速度:30~60分
まとめ
この記事では幹細胞投与の具体的な方法について解説しました。
幹細胞治療がどれだけ有用な可能性があっても、安全性が担保されないと意味がありません。
脳梗塞・脊髄損傷クリニックではニューロテック®という「神経障害は治るを当たり前にする取り組み」を行っています。
取り組みの中の一つであるリニューロ®では、脳卒中と脊髄損傷の後遺症を対象に、同時刺激×神経再生医療™、骨髄由来間葉系幹細胞を用いて脳や脊髄の治る力を高めた上で、神経再生リハビリをおこなうことで神経障害の軽減を目指します。
後遺症で悩む方が安心して再生医療を受けられるように、具体的な方法や安全性にも留意しながら取り組んでいきたいですね。
よくあるご質問
- 幹細胞の投与方法は?
- 幹細胞治療の投与方法には、静脈投与、鼻腔投与、髄腔投与、局所投与(冠動脈、関節、筋肉、心膜、腹腔内)などがあり、目的とする臓器により選択されます。
脳や脊髄を目的とする際には静脈投与や髄腔投与が選択されることが多いです。 - 再生医療における幹細胞の効果は何ですか?
- 幹細胞は他の細胞に変化することができる細胞です。
幹細胞を全身もしくは局所に投与することで、器質的・機能的に障害を受けた組織・臓器そのものを修復することができ、再生医療の核とも言えます。
<参照元>・Stem Cell Therapies for Ischemic Stroke: A Systematic Review:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7936858/
・Clinical Trials of Stem Cell Therapy for Cerebral Ischemic Stroke:
https://www.mdpi.com/1422-0067/21/19/7380
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