この記事を読んでわかること
・小脳出血によって歩行や姿勢が障害されるメカニズムがわかる
・小脳出血に伴う構音障害の特徴がわかる
・小脳出血による巧緻運動のメカニズムがわかる
脳の一部位である小脳は運動機能において非常に重要な役割を担っており、小脳が障害されることで、歩行や発話をはじめとするさまざまな運動機能が障害されます。
これらの運動機能は日常生活の基本動作にも必要不可欠であるため、小脳障害は日常生活に与える影響も大きいです。
この記事では、小脳出血で起こる機能低下について詳しく解説します。
バランス感覚の低下(姿勢保持・歩行障害)
大脳の尾側に位置する小脳は脳全体の15%程度の容積であり、決して大きい部位ではないにも関わらず、脳全体の約半分の神経細胞が密集しており、神経機能において重要な役割を果たしています。
代表的な小脳の機能は下記の通りです。
- バランス感覚の保持
- 協調運動の制御
- 構音
上記のような機能を有する小脳が何らかの原因で障害されると、バランス感覚の低下や巧緻運動の障害、言語障害などの症状をきたすため、注意が必要です。
では、具体的になぜバランス感覚が低下し、どのような症状をきたすのでしょうか?
まず、人はなんらかの運動を行う際、大脳皮質から運動の指令が発せられ、中脳・脳幹・脊髄・末梢神経を経由して最終的に各筋肉に刺激が伝わり、運動が実施されます。
一方で、その運動を正確に実施するためには、各筋肉の収縮度合いや位置情報を把握しておく必要があり、小脳は大脳皮質や脊髄、末梢神経からの情報を統合し、これらの情報を元に大脳にフィードバックすることで、正確で適切な運動を可能としているのです。
だからこそ、小脳に異常が生じると姿勢保持が困難になったり、正常に歩行できなくなるのです。
実際に歩行を例にすると、まず歩行という運動の指令が大脳皮質から発せられ、その情報が小脳にインプットされます。
それと同時に、脊髄や末梢神経から手足の筋収縮の度合いや関節の曲がり具合、位置などの情報を抽出し、さらには迷路・前庭神経系から頭位の空間的位置感覚の情報、さらには視覚情報がインプットされます。
これらの情報を統合して、適切な筋肉の収縮を得られることで初めて、正常な歩行が可能となります。
小脳の障害によってこれらのメカニズムに支障をきたすと、手足が不揃いに運動したり、毎回の歩幅が不揃い、歩行速度の低下、酩酊様歩行など、歩行障害が出現するのです。
また、姿勢保持が困難となるのも歩行と同様です。
足からの床反力の情報や関節の位置、屈曲具合などの情報が小脳に集約され、その情報を元に、重心の変化に対して安定させるための各筋群の働きを調節して、常に姿勢を保っています。
そのため、小脳が障害されるとこれらの情報を適切にフィードバックできず、立位でも座位でも姿勢を保てず、動揺してしまいます。
巧緻運動の障害(手の震え・字が書きにくい)
巧緻運動の障害も、小脳障害の主な症状の1つです。
巧緻運動とは、箸を持つ、ボタンをかける、紐を結ぶなど、手指の微細な運動を指し、小脳が障害されることでこれらの運動を上手にできなくなります。
では、なぜこの様なことが起こるのでしょうか?
先述したように、大脳皮質からの運動の指令は内包前脚・大脳基底核を経由し小脳に至り、その情報が小脳で処理されて大脳基底核・視床などを経て、大脳皮質にフィードバックされます。
この神経回路のいずれかが障害されると、大脳が行うであろう運動を精密に制御することができなくなり、これを一般的に小脳性運動失調といいます。
小脳性運動失調では、特に筋肉の微細なコントロールが求められる巧緻運動が障害されるのです。
言語障害(構音障害・スムーズに話せない)
小脳性運動失調によって、舌を普段通り動かせなくなるため、スムーズに話せなくなったり、上手く音を奏でることができなくなる、いわゆる構音障害を発症します。
構音障害自体は脳梗塞など、他の疾患でも生じうる症状ですが、特に小脳は構音に対して空間的調節、もしくは時間的調節を行っているため、下記の様な特徴的な発話になります。
- 話しことばの音が崩れ不明瞭になる
- 音の高さや大きさが不自然になる
- リズムが乱れる
- 「ますます」など、連続する言葉を上手く言えない
上記の様な構音障害によって、聞き手にとっては、「呂律が回っていない」「酔っ払っている」と聞こえる方が多いそうです。
まとめ
今回の記事では、小脳出血によって生じる機能低下について詳しく解説しました。
小脳が大脳皮質・大脳基底核・末梢神経などと連携することで身体のスムーズで正確な運動を可能としているため、小脳出血によってこれらの運動機能が障害されます。
特に、姿勢障害や歩行障害、巧緻運動障害など、どれも日常生活に大きな支障をきたすため、非常に厄介です。
小脳が障害される原因にもよりますが、小脳出血の場合は小脳の細胞が虚血に陥り、これらの症状が後遺症として残ってしまう可能性が高いです。
後遺症に対して基本的にリハビリテーションを行いますが、神経症状を根治することは困難です。
一方で、近年では小脳出血の後遺症に対する新たな治療法として再生医療が大変注目されています。
ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、脊髄や神経の治る力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善の困難であった小脳出血の症状改善が期待できます。
よくあるご質問
- 小脳出血はどのような機能に影響しますか?
- 小脳出血によって小脳が障害されると、身体のバランス保持や協調運動が障害されます。
また、言語機能や認知機能にも支障をきたすことが知られており、記憶力や集中力が低下する可能性があります。 - 小脳から出血するとどんな症状が出るのか?
- 小脳から出血すると、後頭部の頭痛や嘔気・嘔吐、歩行障害などの症状が出現します。
(1)日本機械学会:https://www.jsme.or.jp/rmd/robomec2008/pdf/Yanagihara.pdf
(2)神経メカニズムから捉える失調症状|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/2/56_56.88/_pdf
(3)小脳と構音障害|日本神経学会:https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/052110997.pdf
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