<この記事を読んでわかること>
・リハビリテーションを行うことで、手術後の筋力低下や関節の硬化を防ぐことがわかる。
・神経への適切な刺激が神経回復を促進し、感覚や運動機能が改善する可能性があることがわかる。
・幹細胞治療が神経障害の修復を助け、再生医療として将来的に有望であることがわかる。
脊柱管狭窄症は、加齢などで脊柱管が狭くなり、神経が圧迫され、痛みや麻痺といった症状を引き起こす病気です。
手術によって症状の改善が期待できますが、術後に麻痺が残ることも少なくありません。
この記事では、脊柱管狭窄症の手術後の麻痺を克服するためのリハビリテーションの重要性や神経障害に対する再生医療の可能性について解説します。
手術後のリハビリテーションの重要性
脊柱管狭窄症の手術後にリハビリテーションが重要である理由には、いくつかの要素があります。
以下にその具体的な重要性を説明します。
1. 筋力と可動域の回復
手術後、体が痛みを避けるために動きを制限することがあります。
その結果、筋肉の硬直や萎縮、関節の可動域が狭くなることがあります。
リハビリでは、筋肉や関節を適切に動かし、筋力を再びつけていくことで、これらの問題を防ぎます。
術後の早期リハビリ開始は、特に筋力の維持や増強に役立ち、身体機能の低下を防ぐのに非常に効果的です。
2. 神経回復の促進
脊柱管狭窄症では、圧迫されていた神経が手術によって解放されますが、神経が完全に回復するには時間がかかります。
リハビリによって神経への刺激が適度に行われることで、神経回復を促進し、感覚や運動機能が改善する可能性が高まります。
神経可塑性を促すためには、正しい動作と運動を繰り返すことが大切です。
3. バランスと姿勢の改善
脊柱管狭窄症は、痛みや麻痺によって歩行やバランスに影響を与えることがあります。
手術後もこれらの問題が完全に解消されるわけではないため、リハビリでは、バランスや姿勢を改善するためのトレーニングが行われます。
特に、高齢者においては転倒リスクが高くなるため、バランスを改善することで安全に歩行できるようになります。
4. 痛みの管理と機能的回復
術後に残る痛みや不快感に対しても、リハビリは有効です。
物理療法や運動療法を通じて、筋肉や神経の緊張を和らげ、慢性的な痛みを軽減することができます。
また、痛みが軽減されることで、日常生活に必要な動作を再び行う自信を取り戻すことができます。
これにより、機能的な回復が進み、より自由な動作が可能になります。
5. 心理的なサポートとモチベーションの維持
手術後のリハビリでは、患者が長期的な回復に向けて前向きに取り組むための心理的サポートも重要です。
リハビリは、時に辛くて進展が感じにくいこともありますが、理学療法士や作業療法士が継続的にサポートすることで、患者のモチベーションを高く保ち、回復の過程における達成感を得られるようにします。
6. 社会復帰への準備
リハビリを通じて身体機能が回復することで、仕事や趣味、日常生活への早期復帰が可能となります。
社会的な活動に戻ることは、患者の心理的健康にも良い影響を与え、全体的な生活の質を向上させます。
麻痺を管理するための方法
術後の麻痺に対処するためには、リハビリテーションだけでなく、麻痺の管理に向けた具体的な方法を取り入れることが重要です。
例えば、痛みやしびれの症状を緩和するために、薬物療法や電気刺激療法などの治療が行われることがあります。
また、筋肉のこわばりや痙攣を抑えるためのストレッチやマッサージも有効です。
さらに、心理的なサポートも重要です。
麻痺による生活の質の低下は精神的なストレスを引き起こすことがあり、そのため、カウンセリングやメンタルヘルスケアの取り組みも推奨されます。
これにより、患者が積極的にリハビリに取り組む意欲を持ち続けることが可能になります。
神経障害に対する再生医療の期待と展望
脊柱管狭窄症の手術後に残る麻痺や神経障害に対して、従来の治療法では限界がありましたが、再生医療が新たな希望を提供しています。
再生医療は、幹細胞や生体材料を使用して損傷した神経組織を再生させ、神経機能の回復を図る新しい治療法です。
特に神経障害に対する再生医療の研究は進展しており、近い将来、治療の選択肢として実用化される可能性があります。
神経障害に対する再生医療の中核には、幹細胞が存在します。
幹細胞は、自分自身を複製する能力と、多様な細胞に分化する能力を持つ細胞であり、神経細胞やグリア細胞のような損傷した細胞を置き換えることができます。
以下の種類の幹細胞が再生医療で使用されています。
また、多能性幹細胞であるiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)は、多様な細胞に分化する能力を持ち、神経細胞にも分化可能です。
iPS細胞を利用した再生医療は、患者自身の細胞を利用することで、拒絶反応のリスクを低減できるメリットがあります。
さらに、間葉系幹細胞(MSC)といった骨髄や脂肪組織から採取される間葉系幹細胞も神経再生に役立つと考えられています。
これらの幹細胞は、抗炎症効果や神経保護効果を持ち、神経の修復をサポートします。
幹細胞培養上清液(幹細胞が培養される際に分泌される物質)は、直接的な細胞移植を行わなくても、神経再生を促進する可能性があることが示されています。
この上清液には、成長因子やサイトカインなど、神経の修復を助けるさまざまな生理活性物質が含まれています。
また、幹細胞培養上清液には、神経細胞の成長と修復を促進する神経成長因子(NGF)や脳由来神経栄養因子(BDNF)などが含まれています。
これらの成分は、損傷した神経細胞を修復し、機能回復の助けとなります。
再生医療は将来有望な治療法ですが、いくつかの課題もあります。
まず、安全性の確保が重要であり、特に幹細胞の分化が異常に進行するリスク(腫瘍形成など)に対する慎重な監視が必要です。
また、患者ごとに治療の効果が異なるため、個別化医療の発展も重要なテーマとなっています。
まとめ
今回の記事では、脊柱管狭窄症の術後の麻痺についてのアプローチや再生医療の効果について解説しました。
当院ニューロテック、脳梗塞脊髄損傷クリニックなどでは、脳卒中・脊髄損傷を専門として、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
リニューロ®では、同時刺激×神経再生医療®、骨髄由来間葉系幹細胞を用いて狙った脳や脊髄の治る力を高めた上で、神経再生リハビリ®を行うことで神経障害の軽減を目指します。
脊柱管狭窄症などの治療後に麻痺が残ってしまったという方は、ぜひ一度当院までご相談ください。
よくあるご質問
- 脊柱管狭窄症の手術後の予後は?
- 脊柱管狭窄症の手術後の予後は個人差がありますが、痛みや神経圧迫の改善が期待できます。
ただし、完全な回復には時間がかかり、リハビリテーションが重要です。
早期のリハビリ開始と適切な治療により、日常生活への復帰が促進されます。 - 脊柱管狭窄症の手術をしたら、しびれが残る?
- 手術後にもしびれが残ることがあります。
これは、長期間圧迫されていた神経が完全に回復するのに時間がかかるためです。
しびれが徐々に改善することが多いですが、リハビリテーションや適切な管理が必要です。
<参照元>
腰部脊柱管狭窄症 診療ガイドライン 2021 改定第2版 :https://minds.jcqhc.or.jp/common/wp-content/plugins/pdfjs-viewer-shortcode/pdfjs/web/viewer.php?file=https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00646.pdf&dButton=false&pButton=false&oButton=false&sButton=true#zoom=auto&pagemode=none&_wpnonce=3b871a512b
医学界新聞プラス [第1回]腰部脊柱管狭窄症の術後リハビリテーション 手術当日~2日目まで | 2021年:https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2021/dousuru_01
中枢神経疾患に対する再生医療 現状と展望.神経治療.2020;37:386-390.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/37/3/37_386/_pdf/-char/ja
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今回は脊柱管狭窄症による下肢の筋力低下とは?について解説します。脊柱管狭窄症とは、脊髄が通る脊柱管が狭くなることで、神経が圧迫される病気です。神経圧迫が原因となり、下肢の筋力低下が生じることがあります。具体的には、歩行の不安定、歩くとすぐに痛みやしびれが出て、休むとまた歩けるようになる症状などが現れます。
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