点滴×同時刺激リハビリで神経障害の後遺症を改善へ

くも膜下出血について

くも膜下出血は、脳の血管から出血する病気で、脳卒中の1つです。
脳は髄膜と呼ばれる柔らかい膜に覆われています。
この髄膜は外側から硬膜、くも膜、軟膜の3層にわかれており、くも膜と軟膜の間にはくも膜下腔があります。
くも膜下出血は、動脈瘤が破れくも膜下腔に血液が流れる状態を指します。

脳卒中とは

くも膜下出血とは?

脳を覆う3層の髄膜のうち2番目と3番目の間に出血が生じ、脳脊髄液に血液が混入した状態です。
くも膜下出血は、とくに40代以降の女性に多く見られ、発症者数は女性が男性の約2倍となっています。

おもな原因は、脳内の動脈の一部が異常に膨らみ、突然破裂することによる出血です。
異常に膨らんだ動脈のコブを「脳動脈瘤」と呼びます。くも膜下出血の80%〜90%は、脳動脈瘤の破裂によるものです。

くも膜下出血の症状には、以下のものがあり、症状の程度は人によって異なります。

突然の激しい頭痛

吐き気

おう吐

意識障害

昏睡状態

手足の麻痺

視覚の異常

くも膜下出血の発症時年齢の平均は、女性が70歳、男性は61歳で、脳梗塞や脳出血と比べて比較的若い年齢で発症することがわかっています。
また、くも膜下出血は女性の方が男性よりも高い割合で発症し、全体の発症者の70%を占めます。
日本での年間の発症率は、人口10万人あたり約20人です。

くも膜下出血は、予後が非常に悪い疾患の1つで、社会復帰できる方は、全体のわずか20-30%程度となっています。

くも膜下出血が起こる前触れと症状

くも膜下出血が発症する前に起こる前触れと発症したときの症状をそれぞれ解説します。

くも膜下出血の前触れ

くも膜下出血が起こる少し前に、いくつかの前兆と思われる症状があらわれることがあります。
症状は一時的なもので、自然におさまることが多いです。具体的には、次のような症状が挙げられます。

  • 急な頭痛(警告頭痛)
  • 片頭痛のような軽いものから、激しいものまで
  • 理由のない血圧の変動
  • 突然の眼の痛み、二重視
  • 吐き気、おう吐
  • 頭部の違和感

くも膜下出血の症状

くも膜下出血が起こると、激しい頭痛に襲われます。
「これまで経験したことのない痛み」や「ハンマーで殴られたような痛み」など、個人によって痛みの表現はさまざまです。
急速に意識レベルが低下し、吐き気やおう吐、手足の麻痺が生じることもあります。

また、頭痛を伴わない場合もあります。
ある調査によると、くも膜下出血であるにもかかわらず、頭痛を感じていなかった人が4割程度を占めていました。
頚部の痛みやかぜ症状を訴えていたため、頚椎症(頚部の骨の痛み)や感冒(かぜ)といった他の診断がなされていました。
このような例もあるため「日頃感じる痛みやかぜとは何か違う」と感じた場合は、注意深く様子をみてください。

くも膜下出血の原因と危険因子

くも膜下出血で1番多い原因が、脳動脈瘤の破裂です。
全体の約80〜90%を占めています。
その他の原因には、脳血管の壁が裂ける脳動脈解離や、先天的な脳動静脈奇形(正常な血管より壁が薄く破れやすい)などが挙げられます。

脳動脈瘤は、脳の血管が分岐する場所にできやすく、若い頃から徐々に大きくなる場合と、中年以降にできて大きくなる場合の2パターンです。
動脈瘤が存在しても通常は症状があらわれません。
本人も気づかないことが多く、脳ドックを受けたときに初めて発見されることもあり、無症状で発見される割合は、約5%といわれています。

ビールと枝豆

脳動脈瘤が破裂する原因には、明確なトリガーがないことが多いです。
そのため、普段通りの生活をしているなかで突然激しい頭痛に見舞われます。
ただし、脳動脈瘤の破裂につながる危険因子は存在します。
おもな危険因子は、次の4点です。

  • 高血圧
  • 喫煙
  • 過度の飲酒(日本酒1合=20gとした場合、1週間に150g以上)
  • 家族にくも膜下出血の病歴がある場合

当てはまる方は、生活習慣の改善や定期的な検診を受けましょう。
日頃から注意しておくことが重要です。

身近な人がくも膜下出血を起こしたときの対応

もし家族や周囲の人が急な頭痛を訴えて倒れた場合、次の対応を取ります。

  • 頭を動かさず、運びやすい布団などの上に横たえ、救急車を呼ぶ
  • 病状が悪化する可能性があるため「寝かせておけば治るかも」という判断は避ける
  • おう吐の可能性があるため、横向きにする
  • お薬手帳過去の病院受診記録を準備する

くも膜下出血の治療は、まず脳動脈瘤の有無や場所、大きさ、形状の確認から始めます。
病院に到着すると、呼吸や全身状態が確認され、CTやMRIなどの画像検査を行います。

再出血を防ぐための手術

くも膜下出血の原因や出血の場所が特定されると、再出血を防ぐためにできるだけ早く手術を行います。
動脈瘤はそのままにしておくと、再出血のリスクが高いためです。
場合によっては24時間以内に再出血が起こることもあります。

再出血の発生は、症状の悪化だけでなく回復の見込みが著しく低下する可能性があるため、早期の手術が必要になります。

手術方法は、かつては頭蓋骨を外して脳を露出させ、血管にクリップをかけて留めるクリッピング術が一般的でした。
しかし、最近では多くの病院でコイル塞栓術が行われています。
どちらも脳動脈瘤を再破裂させないために行われますが、動脈瘤の位置や形状によって適切な方法が選択されます。

しかし、場合によっては手術を行わずに経過を観察することがあります。
手術をしないのは、次のような場合です。

  • 病院に到着した時点ですでに著しく状態が悪く、回復の見込みが少ない
  • 高齢で手術のリスクが高い
  • 動脈瘤の位置が手術に適さない

上記のような場合、全身状態の管理、とくに血圧のコントロールが重要になります。

発症後の問題点

くも膜下出血の発症後は「遅発性脳血管れん縮」「水頭症」などの症状があらわれる場合があります。
それぞれ解説します。

遅発性脳血管れん縮

くも膜下出血の発症後、4日〜14日の間に、出血した箇所の周辺の血管が縮んで、血流が滞ることがあります。
出血に対して体が反応したことによるもので、遅発性脳血管れん縮と呼ばれます。
脳の血流が滞ると、脳梗塞を引き起こす危険性もあります。
手術を受けたとしても、油断せず、しっかりとした管理が必要です。
また、発症時の出血量が多いほど、脳血管の収縮リスクは高くなります。
症状の変化を注意深く観察してください。

水頭症

水頭症とは、脳内に髄液がたまる病気です。
くも膜下出血を発症すると、血の塊が髄液の循環を阻害してしまい、脳内に髄液がたまった状態になります。
水頭症になると、認知障害などの症状があらわれることもあり、血の塊や脳内の髄液を外に出すための管を留置します。

くも膜下出血の予防法

くも膜下出血の80〜90%は脳動脈瘤の破裂が原因です。
しかし、現時点では脳動脈瘤の発生を防ぐ方法がありません。
そのため、脳動脈瘤の破裂を、どう防ぐかが重要になります。
動脈瘤の破裂をさせないためにも、次のポイントが重要です。

早期の脳動脈瘤の認識

脳動脈瘤の存在を早く発見し、定期的な検査を受けることが大切です。
徐々に大きくなるなど破裂の危険性がある場合、血管内治療の手術などの選択肢があります。

血圧の管理

高血圧は脳動脈瘤の破裂リスクを高めます。
食事や運動などの生活習慣を管理し、必要に応じて薬物治療を行うことが必要です。

喫煙と飲酒の管理

喫煙や大量の飲酒は、くも膜下出血を引き起こすリスクを高めます。
とくに、家族にくも膜下出血の病歴がある場合は、喫煙や飲酒を控えましょう。

これらの予防策を実践し、くも膜下出血の発症リスクを軽減することが大切です。

くも膜下出血の後遺症

出血の場所や量、治療開始までの時間などにより、後遺症の症状は異なります。
軽度の場合は、通常と変わらない生活を送れますが、以下の場合はさまざまな後遺症が残ってしまいます。

  • 出血が多く脳の損傷が激しい場合
  • 治療が遅れた場合
  • 脳梗塞や水頭症を発症した場合

代表的な後遺症の症状を、それぞれ解説します。

高次機能障害

高次機能障害は、思考や記憶に関わる脳の前方に損傷を受けた場合に起こる障害です。
おもな症状は、物を認識できなくなる「失認」や、服の着方や物の使い方がわからなくなる「失行」の症状が出ます。
そのため、考えられないミスをする、直前の会話を覚えていないなどが起こります。

運動障害(片麻痺)

おもな運動障害の症状は、体の片側にあらわれ、脳の障害が起きている反対側に影響を及ぼします。
力が入りにくい、痺れを感じるなどの軽度なものから、手足が動かなくなる重度な症状までさまざまです。

感覚障害(痛み・違和感・感覚がにぶる)

感覚障害も多くが体の片側に症状があらわれます。
触覚や痛覚が鈍くなり、熱さや冷たさを感じにくくなるのがおもな症状です。
反対に、感覚が過敏になり、痛みを感じやすくなることもあります。

嚥下障害(えんげしょうがい)

嚥下障害は、食べ物や飲み物をうまく飲み込めない状態を指します。
運動障害や感覚障害が口や舌にも影響し、飲食物を飲み込みにくくなる症状です。
嚥下障害は、食べ物が気管に入る誤嚥のリスクが高くなり、誤嚥性肺炎の発症リスクも懸念されます。

視野障害

視野障害は、物が二重に見える「複視」や、視野が半分欠ける「半盲」などがおもな症状です。
また、部分的に視野が欠ける「視野欠損」の症状があらわれることもあります。

失語症・構音障害

脳の言語野に損傷を受けることで生じるのが失語症です。
話す・聞く・読む・書くなど、言語に関わる全般的な機能に影響を及ぼします。
損傷を受けた場所やの程度によって、運動性失語(話すことや書くことが難しい状態)感覚性失語(的外れなことをいう)の症状があらわれます。
また、構音障害は、運動障害によって唇や舌などを適切に動かせなくなり、正しい発音ができなくなる状態を指します。
他の障害がなければ、筆談での会話が可能です。

排尿障害

尿意を制御する神経回路に障害があると、排尿障害があらわれます。
具体的な症状としては、尿が出ない、頻尿になる、失禁するなどが挙げられます。

感情障害などの精神症状

感情障害は、脳梗塞が発症してからしばらく経過したあとに発症します。
脳の認知機能が損傷した場合に発症し、感情が不安定になり、意欲の低下や怒りっぽくなるなどの症状があらわれます。
また、感情の制御も難しくなり、うつ病などの精神疾患を発症する場合もあります。

脳の機能が原因で起こる後遺症は、短期間で改善されるわけではなく、継続的なリハビリや生活訓練が必要になります。
また、残っている機能で日常生活に対応するための訓練を同時に行い、症状の改善を目指していきます。

くも膜下出血後のリハビリテーション

くも膜下出血の発症直後や手術後の急性期は、全身状態が変化しやすいため、慎重に管理する必要があります。
血圧のコントロール、神経症状の評価など、全身状態の治療を優先します。
体力が低下することで起こる合併症を避けるため、リハビリテーションは可能な限り早い段階で開始します。

発症後14日までは、ベッド上でのリハビリテーションが中心です。
しかし、長期間の安静は体力低下を招くため、病状に応じて徐々にベッドの上で起き上がったり、ベッドの横で立ったりするリハビリを開始します。

急性期の治療が終わると、回復期のリハビリテーションに移ります。
脳卒中後の機能回復は、発症後6か月までが重要とされているため、発症後より6か月までの期間に、集中的な機能訓練を実施します。

運動機能のリハビリテーション

運動機能のリハビリテーションは、理学療法士や作業療法士による基本動作を行います。
基本動作は以下の3つです。

  • 寝返りをうつ、起き上がる、立ち上がるなどの「起居動作」
  • 車いすなどへの移動をする「移乗動作」
  • 歩くなどの「移動動作」

動作の訓練は、自分で立つ・車いすに移動する・歩行器などを使って歩くなど、徐々に複雑な動作を行っていきます。
自力で移動できるようになると、ご飯を食べる・排泄するなど、より具体的な動作の訓練に移ります。

リハビリテーションを行う目的は、麻痺や機能障害を改善することです。
しかし、改善されるまで時間がかかったり、麻痺の症状が残ることもあるため、障害がある状態で日常生活を送れる訓練も行います。

嚥下・言語機能のリハビリテーション

嚥下や言語のリハビリテーションは、飲食物を飲み込む・言葉を理解して話すなどの訓練を、言語聴覚士と行います。
最初に、X線や内視鏡による検査で評価を行い、飲み込む動作を確かめます。
その後、状態に応じて口や顔の周囲の筋肉を動かす練習を行い、口内を刺激して反射を促す訓練・ゼリーや水を使った飲み込みの練習を実施します。

言語機能のリハビリテーションでは、発声のために舌や口を動かす運動だけではなく、言葉を理解するための訓練も必要です。
50音を書いた文字盤や、日常で使う言葉を書いたカードを使用するなどして、言語機能の改善を図ります。

高次脳機能障害に対するリハビリテーション

認知症に似た症状があらわれる高次脳機能障害ですが、リハビリでの改善が見込めます。
まずは自分の障害を認識し、周囲の支援を受けることが大切です。
残っている能力を活かして、社会生活を送れるように訓練を行います。
具体的には、プリント教材を使った訓練や、同じ行動の反復練習などです。

家族は、自宅に手すりをつけるなど、生活環境を整備することを考えましょう。
また、高次機能障害を起こすと、計画的な行動ができなくなることがあるため、メモやスケジュール表を積極的に活用するなどの対策を立てるのも有効です。

これらのリハビリテーションは、症状の程度や回復状況に応じて決定します。
リハビリテーションを行うことで、できる限りの機能回復を目指します。

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