脳卒中は脳梗塞・脳出血・くも膜下出血に分類される
脳卒中とは、脳の血管が詰まるか破れることにより、さまざまな症状が発生する病気のことです。
突然発症する特徴があり、場合によっては昏睡状態におちいることもあります。
一般的に「顔の半分に麻痺が現れる」「言葉が不明瞭になる」などの症状から、脳卒中が疑われます。
脳卒中は大きく分けると、次の3つに分類されます。
- 脳の血管が詰まる「脳梗塞」
- 脳の血管が破れる「脳出血」
- 動脈瘤の破裂などで、くも膜の内側に血が流れる「くも膜下出血」
脳卒中を発症すると、手足の麻痺をはじめとする多くの後遺症を引き起こします。
日本で介護が必要となるおもな理由の1つです。
脳卒中の種類や、麻痺以外にも生じるさまざまな後遺症について、わかりやすく解説します。
脳梗塞
脳の血管内で血栓(血の塊)が詰まることで発症する病気です。
血栓が詰まった先へは血液が流れなくなるため、その部分から壊死がはじまり脳に障害が生じます。
おもな症状は以下のものがあげられ、梗塞が起こる部位により、あらわれる症状は異なります。
手足や顔の片麻痺や痺れ
言葉が上手く出てこない
ものが二重に見える
めまい
ふらつき
脳梗塞は、血管が詰まった位置や血栓ができた原因により、以下の3つにわけられます。
- ラクナ梗塞
- アテローム血栓症脳梗塞
- 心原性脳梗塞
命に危険が及ぶリスクの高さや治療方針は、それぞれの病気で異なります。
脳出血
脳出血は脳の0.2mm以下の小さな血管がもろくなることで破れ、脳内で出血する病気です。
脳内出血と呼ばれることもあります。脳内の出血により血腫ができ、周りの脳細胞が機能しなくなります。
出血量や出血部位によって症状は異なりますが、突然頭痛に襲われることが多いのが脳出血の特徴です。
その他に吐き気や嘔吐、痺れなどの症状を呈します。
場合によっては、突然倒れたり昏睡状態におちいったりすることもあり、命に危険が及ぶこともある病気です。
くも膜下出血
脳は頭蓋骨側から、以下の順番で包まれています。
頭蓋骨 | 硬膜 | くも膜 | 軟膜 | 脳 |
くも膜下出血とは、くも膜と軟膜の間で出血が生じた状態の病気です。
これは脳動脈の一部が膨らんでできたコブ状の脳動脈瘤が破裂することで起こります。
脳動脈瘤は突然破れるため、強い頭痛や意識障害は急にあらわれ、予測できません。
脳梗塞や脳出血に比べ死亡率が高く、後遺症も残りやすい病気です。
脳卒中は高齢者で発症しやすい
脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の患者数は、圧倒的に脳梗塞が多いです。
どの病気も高齢者での発症は多いですが、くも膜下出血は脳梗塞や脳出血に比べ若い傾向があり、女性の方が多いのが特徴です。
日本脳卒中データバンクのデータより、これらについて詳しく解説していきましょう。
日本脳卒中データバンク「脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握」報告書 2023年より(発症後7日以内の急性期脳卒中及び一過性脳虚血発作(TIA)で入院した19,898例を対象とした調査)
データから分かる脳卒中の特徴
日本脳卒中データバンクが実施している脳卒中で入院した患者様を対象とした調査によると、脳梗塞が73.0%、脳出血が18.7%、くも膜下出血が4.6%を占めていました。
男女別で見ても患者数は脳梗塞が多く、次いで脳出血、くも膜下出血の順です。
出典:脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握(日本脳卒中データバンク)」報告書 2023年
病気の種類別に男女比を見たところ、脳梗塞と脳出血では男性がわずかに多く、それぞれ57.9%と54.5%です。
しかし、くも膜下出血では男性の割合が30.0%と低く、女性の方が多い傾向でした。
出典:脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握(日本脳卒中データバンク)」報告書 2023年
病気の種類別による、発症時年齢の中央値は、以下のとおりです。
脳梗塞 | 脳出血 | くも膜下出血 | |
---|---|---|---|
男性 | 75歳 | 69歳 | 61歳 |
女性 | 82歳 | 78歳 | 70歳 |
全体的に高齢者での発症が多く、男性の方が女性より若い年齢で発症する傾向にあります。
くも膜下出血は脳梗塞や脳出血と比べ発症年齢が若く、男性では30代〜70代に幅広く分布しており、現役世代の方が突然発症するリスクがある病気です。
出典:脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握(日本脳卒中データバンク)」報告書 2023年
脳卒中は寝たきりになるリスクが高い
国内の脳血管障害の患者数は、約174万人です。(※1)
そのうち脳卒中は約146万人の患者がいると言われています。
死亡原因は、がん・心臓病・老衰に続いて第4位です。(※2)
脳卒中は認知症に続いて、介護が必要となった主な原因の第2位の病気でもあります。(※3)
また、介助がなければ日常生活が送れない「要介護4」と、ほぼ寝たきりの状態である「要介護5」の場合だけでみると、脳卒中は第1位です。
脳卒中は再発しやすい病気であり、1回目の脳卒中では軽い症状で回復した場合でも、再発を繰り返すうちに後遺症が重くなっていきます。
寝たきりになる可能性が高いため、注意が必要な病気です。
※1:e-Stat政府統計の総合窓口「患者調査 令和2年患者調査 確定数 全国編 報告書」より
※2:厚生労働省「令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」より
※3:厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況(IV介護の状況)」
出典:厚生労働省「令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
出典:厚生労働省「令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
出典:厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況(Ⅳ介護の状況)」
脳卒中の後遺症
脳細胞は、一度機能を失ってしまうと、元の状態に戻すことは難しいのが現状です。
治療を行っても、機能が完全には回復せず、後遺症が残る場合もあります。
脳卒中の後遺症は、障害が起きた脳の部位や程度によって、症状や重症度が変わるのが特徴です。
脳卒中のおもな後遺症について、次の3つの順で具体例を交えてご紹介します。
- 高次脳機能障害
- 身体に起きる障害
- 精神症状に起きる障害
1.高次脳機能障害
脳卒中や事故、低酸素脳症などで脳がダメージを受けたことにより、以下の障害が起きた状態が、高次脳機能障害です。
後遺症の種類 | 障害の状態 |
---|---|
記憶障害 | 新しい情報を記憶しづらくなる |
注意障害 | 必要な情報や行動に意義をつけにくくなる |
社会的行動障害 (感情の障害) |
感情や行動が上手くコントロールしにくい |
失語 (言語の障害) |
言葉を理解したり話したりするのが難しい |
失行 (行為の障害) |
手足は動かせるが、思った行動ができない |
失認 (認知の障害) |
視力や聴力、感覚には異常はないが、知っているものを認識できない |
高次脳機能障害は、外見からは障害が分からないため、周囲から理解を得られず辛い思いをする方も多くいます。
それぞれの高次脳機能障害の具体的な症状と、対処法を紹介します。
記憶障害
記憶力に影響がある後遺症です。
- 人の名前や予定など新しいことが覚えられない
- 今日の日付を間違えたり忘れたりする
- 過去のことを思い出せなかったり間違えたりする
【対処】
- メモに残したりアラームを設定したりする
- 習慣になるように繰り返し行う
注意障害
注意力や集中力に影響が出る後遺症です。
- 一度に複数のことができなくなる
- 集中力が続かない、見落としや勘違いが多くなる
- 忘れ物が多くなる
【対処】
- 見直しを習慣化する
- 指示を受けたら復唱したりメモしたりする
- 集中しやすい環境を見つける・整える
- 作業は一つずつ進めていく
社会的行動障害(感情の障害)
感情や行動のコントロールがしづらくなる後遺症です。
- 我慢が以前よりできない
- 感情の起伏が激しい
- やる気が出ない
【対処】
- 深呼吸したり、数秒待ってから行動に移したりする
- 周囲に相談してから行動する
- 興味があることから取り組む
失語(言語の障害)
言葉の理解や会話が難しくなる後遺症です。
- 相手の話は理解できるのに自分の言いたいことを発せられない(ブローカ失語)
- 自分の言いたいことは発せられるが、相手の話が理解できず会話が難しい(ウェルニッケ失語)
- 「あれ」「それ」など「こそあど」言葉が増え、話は理解できるが適切な言葉が浮かばない(健忘失語)
- 話を理解することも言いたいことを発することも難しい(全失語)
【対処】
- 文字や絵、ジェスチャーなど他のコミュニケーション方法も用いる
- 自分も相手も簡潔に話すことを心がける
- 静かな場所でゆっくりと会話する
失行(行為の障害)
運動機能とは関係なくこれまでできた特定の行動ができなくなる後遺症です。
- 楽器が演奏できない
- くしで髪をとかせない
- 靴紐が結べない
- 服の裏表が分からない
【対処】
- 道具の持ち方や手の動かし方を練習する
- 反復練習する
失認(認知の障害)
脳の損傷部位により現れる認知障害が異なるため、見ても分からないが触ったら分かるなどが起きる後遺症です。
- よく知っている人の顔を見ても、誰か分からない
- よく知っていた場所が、どこか分からない
- 空間の左右片側だけが認識できない(半側空間無視)
- 救急車の音が、何の音か分からない
【対処】
- 障害を受けていない感覚を使い補う
2.身体に起きる障害
身体の障害には、運動機能・感覚・視野・言語・嚥下・排尿などに生じる障害があります。
それぞれについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
運動障害
運動機能に麻痺の症状が現れる後遺症です。脳卒中の後遺症として最も多く現れます。
一つの症状だけでなく、片麻痺と筋肉の緊張が起こることもあります。
- 右半身や左半身など半分側の手足に麻痺が出現する
- 身体の半身ではなく、右腕のみ、左足のみなど一部に麻痺が出現する
- 筋肉が緊張し(つっぱる)、手を握ったまま開きにくい・足先が足裏方向に反るなど、手足が動かしにくかったり勝手に動いたりする
感覚障害
感覚に違和感を覚える後遺症です。運動障害とほぼ同じ神経経路なため、運動障害と同時に起こる可能性が高いです。
- 片側の手や足の痺れ
- 痛みや温度への感覚が鈍感になる
- 痛みや痺れに敏感になる
視野障害
視覚に影響を与える後遺症です。
発症後に症状が強く出て、しばらくすると少し改善する傾向があります。
- 右目だけなど片側が見えにくい
- 一部が欠けて見える
- 物がブレて見える
言語障害
喉や舌などの麻痺や、言葉の発生に関する脳の部分が障害されることで、言葉が出にくくなる後遺症です。
高次脳機能障害の失語症もここに当てはまります。
- 喉の麻痺で声が出しづらい
- 舌の麻痺により発音が不明瞭になる
- 言いたいことが上手く言葉にできない
- 相手の話が理解しづらい
嚥下障害
嚥下(飲食物を飲みこむこと)がしづらくなる障害です。
- 誤嚥することで肺炎を起こしやすい
- 食べたり飲んだりが上手くできず、栄養摂取が難しい
排尿障害
膀胱の筋肉に麻痺が起こることで、排尿が難しくなる後遺症です。
- 尿が出にくい・出ない
- 尿意を感じにくい・感じない
3.精神症状に起きる障害
脳卒中の後遺症では、片麻痺や言葉を発しにくくなるなど、身体面をイメージする方も多いかもしれません。
しかし、感情の起伏が激しくなったり性格が変わったりなど、精神面に現れる後遺症もあります。
抑うつ・意欲低下
脳の障害によるうつ症状もありますが、脳卒中になったことへの不安や身体機能障害などからうつ状態になる方もいます。
- やる気が起きなくなり、行動力が低下する
- 気分の変動は見られず、1日を通して意欲が減退している
感情障害
感情の起伏が激しくなり不安定な状態になりやすくなります。
- にこにこしていたのに、突然怒り出す
- 気になることに過剰に反応する
妄想や幻覚
妄想が激しくなったり幻覚を見たりするようになる後遺症です。
- 家族が自分をのけ者にしているなどの被害妄想を訴える
- 腕を虫が這い上がってくるなどの幻覚を訴える
病識不十分
失認や記憶障害、注意障害などの後遺症は、自分で症状を見ることができないため、患者様本人は後遺症を認識できないことがあります。
中には身体機能の後遺症を認識できない患者様もいます。
- 「家族は変だと言うが私はどこも悪くないと思う」などを訴える
- 片足麻痺を認識しておらず、階段を以前のように降りようとする
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