<この記事を読んでわかること>
・右側頭葉脳梗塞が発生すると、記憶障害が現れることがわかる。
・言語理解障害が右側頭葉脳梗塞の主な初期症状の一つであることがわかる。
・視覚認知障害や空間認識の低下が右側頭葉脳梗塞の症状として現れることがわかる。
右側頭葉脳梗塞とは、脳の右側の側頭葉に血液が十分に供給されなくなることにより、神経細胞が損傷する状態です。
側頭葉は記憶や言語、感覚処理に関わる重要な部分で、梗塞が発生すると、認知機能や感覚に影響が出ることがあります。
この記事では、右側頭葉脳梗塞の原因や初期症状、治療法、リハビリテーションの重要性について解説します。
右側頭葉脳梗塞の原因と危険因子
右側頭葉脳梗塞の主な原因は、脳に血液を供給する動脈が閉塞することです。
この閉塞は通常、動脈硬化による血栓の形成や、心臓から生じる血栓(心原性脳梗塞)によって引き起こされます。
また、高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症といった生活習慣病も、脳梗塞のリスクを大きく高める要因です。
その他の危険因子として、加齢や心疾患、特定の遺伝的要因が挙げられます。
特に、心房細動などの不整脈がある場合、血栓が形成されやすくなり、脳に送られる血液の流れが妨げられることがあります。
最新の研究では、炎症や免疫機能の異常も脳梗塞のリスクに関わることが示されています。
右側頭葉脳梗塞の主な初期症状
右側頭葉は、脳の中でも非常に重要な役割を担っています。
主に記憶、感情、言語理解、聴覚処理、視覚情報の統合などに関与しています。
そのため、右側頭葉に脳梗塞が発生すると、これらの機能にさまざまな障害が現れる可能性があります。
言語理解の障害
右側頭葉は言語理解にも関わっています。
特に、右側頭葉に損傷があると、言語の意味や文脈の理解が困難になることがあります。
これは、受容性失語と呼ばれ、会話の内容を理解する能力が低下することに繋がります。
たとえば、話している内容を聞き取れても、その意味が理解できなかったり、話の背景や文脈を掴むのが難しくなることがあります。
言語に関連した症状は、特に高次脳機能に関連する場合が多く、発見が遅れることがあります。
記憶障害
右側頭葉は海馬と呼ばれる記憶の中枢を含んでおり、新しい記憶を作る役割があります。
右側頭葉が損傷されると、特に短期記憶が影響を受けることが多く、新しい情報を覚えることが難しくなります。
また、すでに持っている記憶を取り出すことにも困難を感じることがあります。
これにより、日常生活において混乱を招くことがあり、例として、会話の内容をすぐに忘れてしまったり、物を置いた場所を思い出せなくなることがあります。
視覚認知障害
右側頭葉は、視覚情報を処理する後頭葉と密接に連携し、視覚的な認識や統合を行っています。
そのため、右側頭葉の梗塞が起こると、視覚の一部に欠損が生じる「視野欠損」や、物体や人の顔を認識する能力の低下が見られることがあります。
これを「相貌失認(プロソパグノシア)」と呼び、家族や知人の顔を見ても誰か分からないといった症状が現れることがあります。
視覚的な障害は、右側頭葉の損傷の影響を受けやすく、日常生活において特に不便を感じる症状の一つです。
感情や行動の変化
右側頭葉は感情の処理や行動の制御にも関与しています。
右側頭葉脳梗塞が発生すると、感情のコントロールが難しくなったり、行動が突発的になったりすることがあります。
患者は急に怒り出したり、泣き出したりと、感情の表出が激しくなることがあります。
また、意欲の低下や無関心といった症状も見られることがあり、家族や友人が感じる患者の変化は大きいでしょう。
空間認識能力の低下
右側頭葉は空間認識に関わるため、空間の把握や物体の位置関係の理解が困難になることがあります。
このため、右側頭葉脳梗塞の患者は物の配置を把握できず、物にぶつかったり、方向感覚を失うことがあります。
これによって日常生活での活動が制限され、安全面でもリスクが増す可能性があります。
早期発見の重要性
これらの症状は早期に発見することが重要であり、時間が経過するほど治療が難しくなるため、症状に気づいたらすぐに医療機関を受診することが求められます。
脳梗塞は「時間との戦い」と言われ、発症後の時間が予後に大きく影響を与えることから、疑わしい症状がある場合には早急に行動を起こすことがとても大切です。
急性期治療とリハビリテーションの重要性
右側頭葉脳梗塞の急性期治療は、できるだけ早く血流を再開させ、脳細胞のさらなる損傷を防ぐことを目的としています。
急性期の治療としては、血栓溶解療法(t-PA療法)や、血栓を物理的に除去する手術(血栓除去術)が行われます。
これらの治療は、発症から4.5時間以内に開始されることが理想的とされています。
急性期の治療が終了した後は、リハビリテーションが重要になります。
右側頭葉脳梗塞による言語障害や記憶障害の改善には、専門的なリハビリテーションが必要です。
リハビリテーションの早期開始は、回復のスピードと質を向上させることが証明されています。
言語療法や作業療法、認知機能のトレーニングなど、患者の状態に合わせた多角的なアプローチが重要です。
まとめ
右側頭葉脳梗塞は、生活習慣や既往症などの危険因子によって引き起こされることが多く、早期発見と治療がその後の回復に大きく影響します。
特に、急性期治療のタイミングが重要であり、その後のリハビリテーションも回復の鍵となります。
日常生活での予防策としては、生活習慣病の管理や定期的な健康チェックが効果的です。
脳梗塞の兆候を見逃さず、早期に医療機関を受診することが、患者の将来のQOL(生活の質)を大きく左右することを忘れてはなりません。
神経細胞は一度傷ついてしまうと、完全に元の状態に戻ることは難しいとされています。
そうした中、注目が集まっているのが再生医療による神経細胞の修復です。
私たち脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、脳卒中・脊髄損傷を専門として、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しております。
リニューロ®では、同時刺激×神経再生医療®、骨髄由来間葉系幹細胞を用いて狙った脳や脊髄の治る力を高めた上で、神経再生リハビリ®を行うことで神経障害の軽減を目指します。
再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。
よくあるご質問
- 右側頭葉が障害されるとどうなる?
- 右側頭葉が障害されると、記憶力の低下や言語理解の困難さ、視覚的な認知障害が現れることがあります。
また、空間認識能力が低下し、物の位置や方向感覚を把握することが難しくなる場合があります。
感情や行動のコントロールにも影響を与えることがあります。 - 脳梗塞の右側の症状は?
- 右側脳梗塞の症状には、左側の体の麻痺、視野欠損、空間認識障害が含まれます。
特に、右側頭葉が影響を受けた場合、記憶障害や言語理解の問題が生じることがあります。
また、感情や行動の変化も見られることがあります。
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今回は左中大動脈脳梗塞が引き起こす症状について解説します。左中大動脈脳梗塞は脳の左側中心にある左中大脳動脈が詰まることで起こります。代表的な症状として、右半身に力が入りにくくなる片麻痺、うまく言葉が話せない、言葉の意味が理解できない、右側の視野が欠けたり見えにくくなったりする視覚障害などが現れます。