<この記事を読んでわかること>
正常な眼球運動と視野機能を理解できる。
脳梗塞によって生じる目の症状がわかる。
脳梗塞によって生じた目の症状に対する治療法がわかる。
脳梗塞では麻痺やしびれなどの神経症状や意識障害などの他に、目の運動や視野の異常など、目に関わる症状も生じます。
これらの目の症状の特徴を知っておくことで脳梗塞の早期発見にもつながるため、この記事では脳梗塞による眼症状のメカニズムや特徴を詳しく解説します。
また、症状が出た場合の治療法についても紹介します。
脳梗塞によって目に症状が出るメカニズム

脳梗塞によって目に症状が出るメカニズムは、目の運動を司る神経や視野に関わる神経が主に脳によってコントロールされているためです。
脳梗塞や脳出血を発症すると、これらの神経や脳そのものが障害されることで目の運動や視野が障害されます。
例えば、目の運動は動眼神経(目や瞳孔を動かす神経)・滑車神経(眼球を下方へ動かす神経)・外転神経(眼球を外側へ動かす神経)と呼ばれる3種類の神経によってコントロールされており、大脳から発せられた運動の指令が中脳を介してこれら3つの神経を経由します。
そのため、脳梗塞によって大脳や中脳が障害されると、目がうまく動かせなくなります。
一方で、視野に関わる伝達経路は主に下記の通りです。
- 網膜
- 視神経
- 視交叉
- 視放線(視覚情報を後頭葉へ送る神経経路)
- 後頭葉
網膜に伝達された光の情報は、視神経・視交叉を介して脳に伝達され、最終的に後頭葉に伝達されます。
そのため、眼球自体を損傷していなくても脳梗塞や脳出血によって後頭葉や視放線が障害されると、視野障害が生じます。
脳梗塞によって生じる目の症状
脳梗塞によって生じる目の症状として代表的な症状は下記の4つです。
- 複視
- 共同偏視
- 散瞳
- 一過性黒内障
複視
脳梗塞によって生じる目の症状として複視が挙げられ、1つのものが二重に見えてしまう症状のことです。
主な原因は眼球運動に関わる外眼筋やそれを制御する神経が障害されることによる麻痺であり、脳梗塞によって動眼神経・滑車神経・外転神経などの神経機能が障害されると、左右の眼球は同じように運動できなくなります。
結果として、左右の網膜に映る映像がずれてしまうため、複視が生じます。
他にも、眼窩底骨折や重症筋無力症などでも起こり得ます。
共同偏視
脳梗塞によって生じる目の症状として共同偏視が挙げられます。
共同偏視とは両眼が意図せずに同じ方向に向いてしまう症状のことで、大脳皮質から脳幹に至るまでの眼球運動に関わる神経回路が障害されることで生じる症状です。
通常は脳出血で認めやすい症状ですが、脳梗塞でも部位によっては出現する可能性があるため、注意が必要です。
脳の中のどの部位が障害されるかによって、共同偏視の出方も下記のように異なります。
- 被殻:患側への共同偏視(右脳梗塞なら両眼とも右側を向く)
- 共同偏視
- 視床:内下方への共同偏視
- 小脳:健側への共同偏視(右脳梗塞なら両眼とも左側を向く)
共同偏視を認める場合、脳疾患の発症を疑うだけでなく、症状の出方で障害部位を予想することもできます。
散瞳
散瞳も脳梗塞によって生じる目の症状の1つです。
散瞳とは瞳孔が開いた状態を指し、瞳孔の運動を司る神経が障害されることで生じます。
瞳孔の運動と各神経の関わりは下記の通りです。
- 瞳孔の収縮:副交感神経が活性化して動眼神経を介して生じる
- 瞳孔の拡大:交感神経が活性化して瞳孔散大筋を収縮させる
脳梗塞や脳出血が生じると、脳に浮腫が生じて脳全体が圧迫され、その際に動眼神経が圧迫されることで副交感神経機能が障害され、瞳孔の収縮が得られなくなり散瞳します。
一過性黒内障
脳梗塞によって生じる目の症状として一過性黒内障も挙げられます。
一過性黒内障とは左右いずれかの視力が一過性に低下し、その後改善する症状のことです。
網膜中心動脈(網膜へ血液を送る血管)の閉塞が主な原因であり、頸動脈や心臓から飛んできた血栓によって閉塞することが多いです。
血栓が飛んでいる状態であることから脳梗塞の危険因子とも言われる症状であり、一過性黒内障を認めた場合は脳梗塞の発症リスクも高まります。
脳梗塞による目の症状の治療法
脳梗塞による目の症状は上記でも紹介したように多岐に渡りますが、これらの症状はどれも脳梗塞による神経障害や虚血が原因で生じているため、優先されるべき治療は脳梗塞に対する治療です。
脳梗塞に対する急性期の標準治療は主に下記の通りです。
- 発症から4.5時間以内:t-PA静注投与(血栓を溶かす薬t-PAの投与)
- 発症から24時間以内:血管内治療(カテーテルを使って血栓を回収する治療)
- 発症から24時間以降:保存治療(血圧管理や抗血栓薬による内服治療)
これらの治療を行っても症状が残存した場合は、眼球運動リハビリによる視野や視力の改善・維持を目指します。
まとめ
脳梗塞を発症すると麻痺やしびれ以外にも、複視や共同偏視、散瞳などさまざまな目に関わる症状が生じます。
これらの症状は脳梗塞以外にも、脳出血やくも膜下出血など重篤な疾患を発症している可能性があるため、出現した場合は早期に医療機関を受診すべきです。
対応が遅れてしまい後遺症が残ると、現状ではリハビリが主な治療手段です。
一方で近年では、神経障害が「治る」を当たり前にする取り組みとして注目されている「ニューロテック®」という考え方があります。
これは、脳卒中や脊髄損傷に対して「狙った脳・脊髄の治る力を高める」再生医療「リニューロ®」を軸とするアプローチで、骨髄由来間葉系幹細胞や神経再生リハビリ®を組み合わせた治療法です。
脳梗塞による神経障害に対しても、今後このような先進的な治療法が選択肢の一つになるよう研究が進められています。
回復への選択肢を広げるためにも、医療機関と連携しながら一人ひとりに合った支援を継続することが大切です。
よくあるご質問
- 脳梗塞による半側空間無視とは?
- 脳梗塞では視覚に関わる神経が障害されることで視野が欠損することがありますが、半側空間無視はそれとは別です。
半側空間無視とは、空間を認識する頭頂葉が損傷することで視力そのものに支障はないものの、左右半側の空間を認識できなくなる症状を指します。
- 脳梗塞による眼瞼下垂とは?
- 脳梗塞による眼瞼下垂とは、脳梗塞によって動眼神経(目や目の周囲の筋肉を動かす神経)が障害されて生じる症状です。
瞼を開く筋肉がうまく機能しなくなることで、眼瞼が垂れ下がってしまいます。
(1)脳血管障害|慶應義塾大学医学部神経内科https://www.neurology.med.keio.ac.jp/information/info_cerebrovascular.html
(2)特異な視覚異常発作を繰り返した一過性黒内障の1例|日本神経学会https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/062090722.pdf
(3)日本脳卒中学会:脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2025_kaiteikoumoku.pdf
(4)日本脳卒中学会:静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2019 年3月https://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA03.pdf
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