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 遺伝性痙性対麻痺の特徴と歩行障害について

<この記事を読んでわかること>

遺伝性痙性対麻痺(HSP)の原因となる遺伝子の種類や発症年齢の幅がわかる。
純粋型と複合型それぞれの症状や、SPG4・SPG11の進行パターンの違いがわかる。
HSPの診断方法と、リハビリやHALを用いた最新の治療法の選択肢がわかる。


遺伝性痙性対麻痺(HSP)は、下肢の痙縮や筋力低下を特徴とする神経変性疾患です。
この記事では、HSPの遺伝形式や代表的な型(SPG4・SPG11)、症状の違い、診断方法、そしてHALを用いた最新の歩行リハビリ治療までをわかりやすく解説します。
さらに、進行の予測や治療の選択肢についても知ることができます。

遺伝性痙性対麻痺とは?原因と発症年齢の特徴

遺伝性痙性対麻痺とは?原因と発症年齢の特徴
遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia;HSP)は、徐々に進行する下半身の痙縮(けいしゅく:筋肉が過度に緊張し、手足が動かしにくくなる状態)と、筋力低下を主な症状とする病気のことです。
病理学的な特徴として、脊髄の錐体路(すいたいろ:大脳皮質の運動野から始まって、脊髄を通って体の筋肉へと伝わる神経の通り道)、後索(こうさく:脊髄内の神経伝導路の一種で、主に触覚や深部感覚、振動感覚、関節の動きなどを伝える経路)、そして脊髄小脳路の変性が起こる神経変性症候群とされています。

遺伝性痙性対麻痺は、遺伝子の変異によって引き起こされるとされています。
遺伝形式は、以下のようなパターンに分けられます。

  • 常染色体優性(AD-HSP)
    両親のどちらかから遺伝子のコピーを 1 つ受け取ると、病気が引き起こされます。
  • 常染色体劣性(AR-HSP)
    両親からそれぞれ 1 つずつ、合計 2 つの遺伝子のコピーを受け取ると、病気が引き起こされます。
  • X 連鎖性(XL-HSP)
    女性の親の性染色体上の遺伝子の1つが男性の子に渡されると、病気が引き起こされます。

頻度としては、AD-HSPが多く、AR-HSPは少なく、XL-HSPはまれです。
現在では、分子遺伝学的な分類により、SPG1〜SPG72と分類されています。

最も多いのは、SPG4とSPG11とされています。
SPG4は、常染色体優性(AD-HSP)の遺伝形式を取り、SPAST遺伝子の変異によると考えられています。
発症年齢は0〜74歳(平均29±17歳)です。
大部分は純粋型ですが、認知症や振戦、手の筋肉の萎縮を伴う例もあります。

SPG11は、常染色体劣性(AR-HSP)遺伝で最も多いものです。
SPG11遺伝子の変異が原因となります。
脳梁という、左右の大脳をつなぐ脳の一部分が薄くなってしまう、AR-HSPの代表的な病型です。
発症年齢は2〜27歳で、精神発達の遅れ、認知機能障害を伴うことも多いです。
筋萎縮やALS(筋萎縮側索硬化症)のような症状、大脳白質病変、パーキンソニズムを伴う例もあります。

主な症状と歩行障害の進行パターン

遺伝性痙性対麻痺の症状と歩行障害のパターンについて解説しましょう。

純粋型と複合型の症状の違い

遺伝性痙性対麻痺は純粋型と複合型に分けられています。
純粋型は通常、痙性対麻痺のみを呈しますが、時に膀胱直腸症状(尿が溜まりにくい、残尿感がある、頻尿になる、尿失禁をする、便が出にくい、便秘になる、便失禁をするなど)や振動覚の低下、上肢の腱反射の亢進を伴うこともあります。
複合型は、ニューロパチー(末梢神経障害のことで、感覚低下や筋力低下、痛み、しびれなど)や小脳失調、精神発達の遅れ、けいれん、難聴、網膜色素変性症、魚鱗癬(ぎょりんせん)などを伴います。

SPG4とSPG11の進行の違い

最も多いSPG4の症状は緩やかに進行し、発症後平均25年で介助歩行、37年で車椅子レベルと報告されています。
一方、SPG11は、発症後平均16.5年で車椅子が必要となります。

これらの年数については、個人差もあることには留意しておきましょう。

診断方法と治療の選択肢について

ここでは、遺伝性痙性対麻痺の診断方法と治療について解説します。

遺伝性痙性対麻痺の診断方法

遺伝性痙性対麻痺の診断基準は、日本ではまだ作成されていませんが、身体診察や神経学的検査、並びに筋電図検査や遺伝子検査、磁気共鳴画像法(MRI)、腰椎穿刺などの検査を行い、診断を行っていきます。

診断の際には、以下のような症状があるかどうかが重要となります。

  • ゆっくりと進む両下肢の痙縮と筋力低下
  • 両下肢の腱反射亢進、病的反射

また、痙性対麻痺の初発症状としては、歩行障害や下肢の痛みが多く、複合型では小脳失調での発症もあります。
末梢神経障害や精神発達遅滞、てんかんでの発症もあります。
さらに、随伴症状や遺伝性があるかどうか、鑑別疾患として、多発性硬化症などの脱髄性疾患、ALSなどの変性疾患、HTLV-1関連性脊髄症などの感染症、などの病気を除外できた場合、遺伝性痙性対麻痺と診断が確定されます。

遺伝性痙性対麻痺の治療

現時点では、まだ遺伝性痙性対麻痺の根本的な治療法はありません。

しかしながら、以下のような対症療法を行っていくことで症状を和らげることも可能となります。

  • 理学療法
  • 筋弛緩作用のある薬の内服
  • ボツリヌス毒素局所注射療法
  • 外科的バクロフェンポンプ埋め込み

なお、バクロフェンは痙縮を和らげる作用のある薬です。
脊髄の周りを満たす脊髄髄液中にバクロフェンを高濃度かつ長時間作用させる治療法として、外科的に腹部に植込み型の持続注入ポンプを設置し、カテーテルで髄腔内に持続投与するのがバクロフェン髄腔内投与療法(ITB)があります。
ITBは、2006年に日本で保険承認を受けています。

また、2023年10月から、新しい機器を利用した歩行リハビリテーションである、HAL医療用下肢タイプによる「歩行運動処置(ロボットスーツによるもの)」が保険適用となっています。

HALによる歩行運動治療はサイバニクス治療とも呼ばれています。
機器と装着者が一体となり、意図通りの正しい動作を実現できるようフィードバックが行われます。
運動ニューロンとそれに支配される筋線維は、まとめて「運動単位」と呼ばれます。
神経変性疾患では、運動ニューロンが変性することで筋線維も萎縮し、筋力低下が起こります。
しかし、サイバニクス治療を行うことで、運動刺激が調整・再構成され、筋力の維持や向上といった効果が得られると考えられています。
このような変化は「運動単位の可塑性」と呼ばれます。

まとめ

今回の記事では、遺伝性痙性対麻痺について解説しました。
根本的な治療法はまだ発見されていませんが、今後もHALのような神経の可塑性に着目した治療法や、遺伝子学的な治療法の開発が望まれるところです。
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よくあるご質問

痙性対麻痺歩行の特徴は?
足を引きずるような歩き方や、膝が伸びきったまま足を前に振り出す動作が見られます。
下肢の筋肉が過度に緊張しているため、滑らかな歩行が難しく、バランスを崩しやすいのが特徴です

歩行障害にはどんな種類がありますか?
代表的なものに、痙性歩行、小脳失調歩行、パーキンソン歩行、失調性歩行などがあります。
原因となる部位や病気によって歩き方の異常が変わるため、正確な診断には観察と検査が重要です。

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