・脳血管障害性パーキンソン症候群の発症メカニズムがわかる
・脳血管障害性パーキンソン症候群の症状の特徴がわかる
・脳血管障害性パーキンソン症候群の予後がわかる
脳梗塞などの脳血管障害の発症を契機にパーキンソン病と同じ様な症状が出現する病態を、脳血管障害性パーキンソン症候群と呼びます。脳血管障害性パーキンソン症候群は通常のパーキンソン病と経過や症状も異なり、予防法や治療法も異なります。そこで、この記事では脳血管障害性パーキンソン症候群について詳しく解説します。
脳血管障害によるパーキンソン症候群の発症メカニズム
脳血管障害によるパーキンソン症候群、いわゆる脳血管性パーキンソン症候群は、その名の通り、脳血管障害によってパーキンソン病のような症状が出現する病気です。
それに対し、通常のパーキンソン病は、黒質を中心とする大脳基底核の変性に伴い、脳内の神経伝達物質「ドーパミン」がうまく機能しなくなる病気です。
パーキンソン病に伴うドーパミンの機能障害によって、身体の運動をよりスムーズにする錐体外路が障害され、随意運動がスムーズに行えなくなります。
例えば、脳が腕を曲げようと指示を出すとき、脳からの運動の指令は錐体路と呼ばれる神経回路を通って上腕二頭筋を収縮させることで起こります。
その際、拮抗筋である上腕三頭筋(腕を伸ばす筋肉)に力が入っているとうまく腕を曲げられなくなるため、錐体外路からの刺激で上腕三頭筋が弛緩するわけです。
それによってスムーズな運動を得られるわけですが、パーキンソン病では錐体外路が障害されることで運動がぎこちなくなってしまいます。
次に、脳血管性パーキンソン症候群では多発、もしくは単一の脳梗塞によって大脳基底核が障害を受けることで、パーキンソン病のような症状が出現すると考えられています。
具体的には、被殻を中心とした線条体の損傷、ならびに皮質、線条体、淡蒼球、視床皮質回路が主な損傷部位です。
また、近年では糖尿病や高脂血症の増加に伴い、細い動脈の脳梗塞よりも太い動脈にアテロームと呼ばれるコブが形成され、比較的広範囲の皮質下白質が梗塞することで生じる脳血管性パーキンソン症候群も増えています。
症状の特徴と診断のポイント
通常のパーキンソン病が黒質の変性によって生じるのに対し、脳血管性パーキンソン症候群は脳梗塞が原因となり、症状の出現様式や経過も異なります。
通常のパーキンソン病は変性疾患であり、経過は緩徐に進行していきますが、脳血管性パーキンソン症候群の場合は発症契機が脳梗塞であるため、急速に発症し、階段状に悪化していくことが多いです。
また、パーキンソン病では安静時振戦・筋強剛・動作緩慢・姿勢反射障害が主な症状であり、特に初発症状としては安静時振戦であることが一般的ですが、脳血管性パーキンソン症候群の場合は姿勢反射障害などの症状が早期に出現し、歩行障害が先行することが多いです。
また、脳血管性パーキンソン症候群の診断のポイントとしては下記のような点が挙げられます。
- 頭部MRIにて梗塞巣を認める
- 心筋MIBGシンチグラフィーで集積あり/3の味覚や、顎下腺からの唾液分泌
- 抗パーキンソン病治療薬への反応性不良
通常のパーキンソン病では頭部MRIでは有意な所見を認めませんが、脳血管性パーキンソン症候群では頭部MRIにて梗塞巣を認めます。
また、パーキンソン病の場合心筋MIBGシンチグラフィーの検査では心臓への集積低下を認めますが、脳血管性パーキンソン症候群の場合は心臓に強く集積するため、鑑別診断に有用です。
さらに、通常のパーキンソン病に対しては抗パーキンソン病治療薬の反応性は良好ですが、脳血管性パーキンソン症候群には反応性が不良である点で違いがあります。
パーキンソン病のような症状は、薬剤性やそのほかの変性疾患でも生じうるため、診断は慎重に行う必要があります。
患者と家族が知るべき予後について
上記でも記載の通り、通常のパーキンソン病と比較して脳血管性パーキンソン症候群の場合は抗パーキンソン病治療薬への反応性が不良であり、原因が脳梗塞などの脳血管障害であるため、症状は進行していきます。
脳卒中などによる神経障害は基本的に不可逆的であり、症状が改善して元に戻ることはないため、いかに現状を維持できるかがポイントです。
そのため、パーキンソン病に対する治療と並行して、脳梗塞の再発予防としての治療も行っていく必要があります。
患者本人や家族においては、これ以上の進行を防ぐために高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の進行を予防するためにも、普段の食事や睡眠・運動には十分注意しましょう。
まとめ
今回の記事では、脳血管障害性パーキンソン症候群について詳しく解説しました。
脳血管障害性パーキンソン症候群とは、脳梗塞などの脳血管障害を契機にパーキンソン病様の症状が生じる病気です。
通常のパーキンソン病と発症様式や出現する症状は異なり、症状は急速に進行し、通常の治療に対する反応性も不良のため、予後もよくありません。
そのため、現状では脳血管障害に対する予防が最も重要です。
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よくあるご質問
- 脳血管性パーキンソン症候群とは何ですか?
- 脳血管性パーキンソン症候群とは、脳梗塞などの脳血管障害の発症によって大脳基底核や皮質下白質が損傷し、パーキンソン病と同じ様な症状をきたす病態です。しかし、通常のパーキンソン病とは経過や症状の出現の仕方が異なります。
- 脳血管性パーキンソニズムの特徴は?
- 脳血管性パーキンソニズムの特徴は、初発症状として歩行障害が先行することが多い点です。また、発症が急速であり、パーキンソン病の治療薬にも反応が悪いなどの特徴があります。
<参照元>
2.脳血管性パーキンソニズム|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/92/8/92_8_1472/_article/-char/ja/
脳血管障害性パーキンソニズムの 新しい診断法と治療|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/8/104_1585/_pdf
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パーキンソン病は、脳の黒質という部位が変性し、ドーパミンが減少することで振戦や筋強剛、無動、姿勢反射障害などの症状が出る病気です。一方、このパーキンソン病の症状に似た病気として線条体黒質変性症というものがあります。今回の記事では、これらの病気の概要や違いについて解説します。
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