点滴×同時刺激リハビリで神経障害の後遺症を改善へ

脊髄損傷について

脊髄損傷とは

私たちの体には「脊柱」という背骨があります。
この脊柱の内部を通るのが「脊髄」と呼ばれる重要な神経の束です。
脊髄は、私たちの動きや感覚、さまざまな身体機能を制御しています。
「脊髄損傷」は、交通事故・スポーツ中の衝突・高所からの落下などによって脊柱に大きな力が加わることで、脊髄が損傷を受ける病状を指します。
このような損傷は、大きな衝撃によるものが多く、骨折や脱臼が原因で起こることが一般的です。
また、脊髄の腫瘍やヘルニアなど、体内の問題によっても同様の症状が現れることがあります。
脊髄が傷つくと、手足の麻痺・感覚の障害・排泄機能の障害・呼吸の障害・血圧調整機能の障害など、損傷部位や傷の深さによって、さまざまな症状が生じます。

脊髄損傷における損傷レベルと影響

脊椎はおもに5つの部分に分けられます。

  • 首の部分に位置する「頸椎」
  • 胸の部分に位置する「胸椎」
  • 腰の部分に位置する「腰椎」
  • 骨盤の後ろに位置する「仙椎」
  • 最下部の「尾骨」

それぞれの部位に神経の領域が決まっていて、損傷を受ける場所により、特定の機能に影響を及ぼします。

【頸椎(C2-C8)の損傷】

首から下の部分に重大な影響を及ぼすことがあります。
とくに、C2からC5の間の損傷は、呼吸に必要な筋肉への影響を含め、四肢の麻痺や全身の麻痺を引き起こすことがあり、最悪の場合、人工呼吸器なしでは生存が難しくなります。

【胸椎(T1-T11)の損傷】

胴体や脚の機能障害、手や指の動きの低下を引き起こすことがあります。

【腰椎(L1-L5)の損傷】

股関節や脚の麻痺、感覚の喪失につながります。

【仙椎(S2-S5)の損傷】

会陰部のしびれを引き起こすことがあります。

脳梗塞や脳出血の場合は、症状の有無が左右に分かれますが、脊髄損傷では上下に分かれるのが特徴です。
脊髄損傷における損傷領域と影響

画像引用元:ニューロテック・メディカル株式会社(https://neurotech.jp/

頚髄損傷

交通事故や高い場所からの落下により頸椎に骨折や脱臼が起こる、または腫瘍によって引き起こされます。
脊髄損傷は、損傷箇所より下の部分の神経機能が損なわれ、身体の動きが制限されたり、皮膚の感覚が鈍くなるなどの影響が出ます。
損傷が脳に近い部位で起こるほど、より多くの神経が影響を受け、症状もさまざまです。

胸髄損傷

背中に位置する脊髄が損傷することを指します。
損傷した箇所より下の胸部や腹部、下肢に感覚障害運動障害が発生することがあります。

腰髄損傷

外傷や圧迫などによって腰部の脊髄が損傷し、神経もダメージを受ける状態を指します。
損傷の場所によって症状は異なり、腰痛や筋力の低下、感覚の麻痺、尿失禁などが起こり、重い場合には両下肢の麻痺を引き起こすこともあります。

仙髄損傷

腰部から下の脊髄部分が損傷することによって発生します。
損傷した部位に応じて下肢の痺れや筋力の低下、排尿障害、性機能障害などが発生する可能性があります。

ASIA(アメリカ脊髄障害協会)
Impairment Scale(脊髄損傷重症度レベル)

【A=Complete(完全)】

S4-S5領域の運動・感覚機能の完全喪失
もっとも損傷を受けにくい肛門周辺の感覚と機能が完全に失った状態。
障害等級はほぼ1級に該当。

【B=Incomplete(不全)】

神経学的レベルより下位の運動は完全麻痺。感覚はS4-S5領域を含み残存
損傷部位より下の身体の動きが完全に失われ、感覚もほとんど感じられない状態です。ただし、S4-S5の領域には感覚が残ることがあります。
上肢に限定的な動きが残っている場合もありますが、下肢を自力で動かすことはできません。
障害等級は1〜2級に該当。

【C=Incomplete(不全)】

神経学的レベルより下位に運動機能が残存。麻痺域の主要な筋肉が、筋力3/5未満
損傷部位より下でも一定の運動機能が保持されており、主要な筋肉群の半数以上がある程度の力(筋力3/5未満)を保持しています。
この段階では、例えば車椅子への移乗やスプーンを使った食事が可能です。
障害等級は1〜3級に該当。

【D=Incomplete(不全)】

神経学的レベルより下位に運動機能が残存。麻痺域の主要な筋肉が、筋力3/5以上
主要な筋肉群の半数以上が筋力3/5以上を保っています。適切な装具を使用することで歩行が可能になるなど、損傷部位より下の筋力がかなり保持されています。
障害等級は3〜5級に該当。

【E=Normal(正常)】

運動・感覚機能ともに正常
運動と感覚の機能が正常に戻ることを意味します。脊髄損傷後に、感覚や運動機能が時間の経過と共に回復した方に当てはまります。

脊髄損傷以外の脊髄由来疾患(外傷性以外)

脊髄損傷は、事故による物理的なダメージだけが原因ではありません。
血管の問題、骨の変形、腫瘍など、脊髄に影響を及ぼす様々な非外傷性の病状が存在します。
脊髄の血管が詰まることによって起こる「脊髄梗塞」や、脊髄内での出血が原因の「脊髄出血」などです。
発生頻度は比較的低いですが、発症すると脳卒中のように突然、重篤な症状があらわれることがあります。

脊髄のその他の障害

脊髄梗塞

脊髄へ血液を供給する動脈が何らかの原因で閉塞し、酸素や栄養素が脊髄組織に達しなくなる状態を指します。
これにより、脊髄の一部が壊死することがあります。
原因としては、動脈硬化・血管炎・血栓などがありますが、原因が特定できないケースも少なくありません。
発生すると、背中に激しい痛みが現れ、この痛みは損傷部位から放散して他の部位にも及ぶことがあります。
それに伴い、筋力の低下や感覚の喪失が見られることがあります。

脊髄出血

出血が発生する部位により、それぞれ硬膜下出血、硬膜外出血、実質内出血に分類されます。
外傷・腹圧の増加・腫瘍・血管奇形など、さまざまな原因により発生しますが、多くの場合は外傷が原因です。
とくに胸椎部に多く見られ、強い背部痛や急激な下肢の麻痺を引き起こすことがあります。

頚椎症

年齢と共に頸椎の椎間板や骨が変性・変形することで、脊柱管が狭まり、脊髄が圧迫されることにより起こります。
脊髄に症状が現れる場合は頚椎症性脊髄症、神経根に症状が現れる場合は頚椎症性神経根症と呼ばれます。

靭帯骨化症(OPLL)

後縦靭帯が骨のように硬化する疾患で、原因は未だ明確にされていません。
硬化した靭帯が脊髄神経を圧迫し、それによって脊髄に障害が生じます。

脊髄腫瘍

脊髄内外に発生する珍しい疾患です。腫瘍によって脊髄が圧迫され障害が生じます。
発生する腫瘍には「硬膜外腫瘍」「硬膜内髄外腫瘍」「髄内腫瘍」の3つに分類されます。

日本においての脊髄損傷の現状と動向

脊髄損傷の受傷時年齢★★★

日本における脊髄損傷の現況に関する疫学的な調査から得られたデータによると、脊髄損傷により何らかの形で麻痺が発生するケースは、人口100万人あたり年間約40.2件です。
とくに、四肢が麻痺する頚髄損傷が、腰部以下の損傷よりも3倍ほど多いことが明らかになっています。
また、完全な麻痺を伴う損傷よりも、部分的な麻痺を伴う不完全損傷の方が2倍ほど多く報告されています。
性別に関しては、男性の患者が女性に比べて4倍多く、平均受傷時の年齢は48.6歳とされており、59歳と20歳の年齢層に大きな増加が見られる二峰性の分布が特徴です。
中高年層においては、青少年層と比較して頚髄損傷の発生割合が高いことが指摘されています。

脊髄損傷の受傷原因

交通事故が全年齢層を通じて脊髄損傷の最も一般的な原因として挙げられます。
若年層、特に青少年においては、スポーツ活動中の事故が次に多い原因です。
一方、中高年層では、高所からの転落がよく見られる原因となっています。
高齢者の場合、日常生活での転倒が脊髄損傷の主な原因となることが多く、これらの転倒はしばしば骨折を伴わない頚髄損傷を引き起こします。

日本の脊髄損傷の発生率は、欧米諸国と比較して大きな違いは見られませんが、50代に大きな発生率のピークがある点、および高齢者の転倒が受傷原因として顕著である点が、日本独特の傾向として指摘されています。

脊髄損傷の後遺症について

脊髄損傷が発生するには、大きな事故やケガによることが多いため、同時に脳のダメージや骨盤などの大きな部位の骨折、内臓損傷なども合併している場合があります。
同時に起こり得る神経学的症状と機能障害を紹介します。

神経学的症状

1.運動能力の変化

  • 頸髄損傷は、四肢に麻痺が起こるため、体の中心部分のコントロールが困難です。
    これは「四肢麻痺」と呼ばれ、自立性に大きな影響を与えます。
  • 胸髄損傷は、おもに下肢の運動能力に影響があり「対麻痺」と呼ばれる状態になります。
    これは、四肢麻痺とは異なり、主に下肢に影響が出ることを意味します。
    胸髄が損傷すると、下肢と体幹の麻痺が見られ、腰髄損傷では体幹の麻痺は見られません。

2.感覚の変化

  • 完全損傷の場合、損傷部位より下の表在感覚と深部感覚が失われます。
  • 不完全損傷の場合、損傷部位より下でもある程度の感覚が保持され、特に肛門周囲や内部に感覚が残ることがあります。
    感覚の異常や感覚過敏が損傷部位以下で発生することがあります。

3.反射の変化

脊髄ショックは受傷直後に起こり、損傷部位以下で反射機能が低下または消失します。
仙髄が損傷を免れた場合、特定の反射は受傷直後から保持されることがあります。
脊髄ショックは数日から数週間続き、その後、反射が徐々に回復し始めますが、回復の順序は一定ではありません。
時間が経つにつれて、痙性麻痺へと進行し、反射が亢進することがあります。

これらの後遺症は、脊髄損傷患者のリハビリテーションや日常生活への適応において重要な考慮点となります。

随伴する機能障害

呼吸機能の障害

頚髄の損傷、特に第4頚髄節(C4)周辺が損傷すると、横隔膜が麻痺し、自発的な呼吸が困難になることがあります。
C4よりも下の損傷の場合でも、脊髄の腫れが横隔膜の機能に影響を及ぼすことがあります。
呼吸補助筋の麻痺により、呼吸機能が低下し、肺炎や呼吸不全などのリスクが高まります。

神経因性膀胱

脊髄損傷後、一時的に排尿反射が失われ、膀胱の筋肉が弛緩し、尿閉が発生することが一般的です。
数週間後、排尿反射が回復し、核上型膀胱または反射型膀胱と呼ばれる状態になります。
この状態では、排尿と尿道括約筋の協調が取れず、尿路機能に障害が発生することがあります。

排便障害

脊髄損傷は排便機能にも影響を及ぼし、初期には腸の運動が低下し、麻痺性イレウスが発生することがあります。
時間が経つにつれて腸の運動が回復し、適切な排便管理により状態が改善することがありますが、便秘や便失禁の問題が続くこともあります。

自律神経機能障害

特にT5-T6以上の損傷では、内臓神経の機能異常が発生し、腹部内蔵の血管コントロールに問題が生じます。
これにより自律神経障害の症状が顕著になり、排尿、排便、性機能障害が主な原因となります。

性機能障害

性機能にも大きな影響があり、特に男性では勃起障害、射精障害、性感の欠如などが問題となります。
女性の場合、性感の欠如や分娩時の陣痛と腹圧の不足、自律神経過反射などが問題となることがあります。

これらの後遺症は患者様の生活の質に直接影響を及ぼし、適切な治療、リハビリテーション、日常生活のサポートが必要です。

再生医療が脊髄損傷の後遺症に期待できる効果

再生医療は脊髄損傷によるさまざまな後遺症に対して、新たな希望を提供しています。
とくに、骨髄由来の幹細胞治療が注目されており、これにより感覚障害、歩行障害、排尿障害、さらには言語障害の改善が期待されています。

骨髄由来幹細胞治療が脊髄損傷の後遺症に期待できる効果

感覚障害の改善

手足の感覚が回復し、冷たさや暖かさを感じられるようになることが期待されます。
また、触れた物の感触や痛みの感覚が改善する可能性があります。

歩行障害の改善

下肢の感覚が回復し、より安定して歩けるようになることが期待されます。
歩行器の使用や階段の昇降が容易になり、バランス能力が向上する可能性があります。

排尿障害の改善

自分で排尿や排便のコントロールが可能になり、排尿時の不快感が減少することが期待されます。

失語症・言語障害の改善

言葉の理解や発声が改善し、読み書きが容易になることで、日常生活におけるコミュニケーションがスムーズになる可能性があります。

各種痛みの改善

肩こり、腰痛、頭痛など、脊髄損傷に伴う様々な痛みが軽減されることが期待されます。

※間葉系幹細胞治療を含む再生医療は、安全性と実績の面で効果が認められていますが、劇的な改善を保証するものではありません。
治療効果には個人差があるため、現実的な期待を持つことが重要です。

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