<この記事を読んでわかること>
・くも膜下出血が認知症のリスクを高める理由がわかる。
・治療後に現れる認知症の兆候とリスク要因がわかる。
・認知症予防と早期介入の重要性がわかる。
くも膜下出血は、発症後に認知症のリスクが高まる重篤な疾患です。
本記事では、くも膜下出血による脳へのダメージが認知機能の低下を引き起こすメカニズムや、治療後に見られる認知症の兆候とリスク要因を解説しています。
また、認知症リスクを軽減するための予防策と早期介入の重要性についても詳しく紹介します。
脳へのダメージが引き起こす認知機能の低下
認知症とは、脳に起こったさまざまな病気によって、脳の神経細胞の働きが低下し、記憶や判断力といった認知機能が低下し、社会生活に支障が出てしまう状態のことを指します。
認知症の原因として最も多いのは、Alzheimer型認知症(Alzheimer-type dementia:AD)です。
それに引きつづいて、脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血などの脳卒中などの血管障害による、血管性認知症(vascular dementia:VaD)が多くみられます。
しかしながら、65歳未満の方に起こる若年性認知症の中では、VaDは最多となっており、約4割を占めています。
VaDは、虚血性と出血性いずれの脳卒中でも起こりえます。
脳卒中後の認知症のリスクは、虚血性よりも出血性の方がやや高いとされています。
脳卒中を発症してからの認知症のリスクを調べた研究データがあります。
それによると、脳卒中生存者の認知症の30年絶対リスクは11.5%でした。
また、一般集団と比較した場合の脳卒中生存者の認知症のなりやすさは、あらゆる脳卒中後では1.80倍、虚血性脳卒中後では1.72倍、脳内出血後では2.70倍、くも膜下出血後では2.74倍でした。
さらに、脳卒中の種類に関係なく、若い患者は高齢患者よりも脳卒中後認知症のリスクが高かったとされています。
脳へのダメージによって、認知機能の低下が起こります。
認知症の中でも、VaDでは以下のような点が典型的です。
- 認知症の存在:実行機能障害や注意障害が現れることが特徴であり、記憶障害は必発ではありません。
- 非均一な高次脳機能障害:いわゆる「まだら認知症」であり、知的能力の低下や記憶障害があっても、病識や判断力は保たれています。
- 局所脳機能障害:運動麻痺、偽性球麻痺(構音・嚥下障害、病的泣き笑い)ならびに脳血管性パーキンソニズム等を伴うことが多いとされています。
治療後に見られる認知症の兆候とそのリスク要因
くも膜下出血は、一度発症すると死に至ることも多い重篤な疾患です。
たとえ生存したとしても、その後、認知症を発症するリスクが高くなります。
ここでは、治療後にみられる認知症の兆候とリスク要因について解説します。
治療後に見られる認知症の兆候
認知機能障害は、くも膜下出血 (SAH) の一般的な合併症です。
そして、人の記憶力、集中力、計画能力に影響を与える可能性があります。
SAH後の認知障害の兆候としては、書かれた言葉を読んで理解することの困難、時間的視点の欠如、音や光に対する過敏症、精神的疲労などがあります。
また、SAH 後に発生する可能性のあるその他の症状は次のとおりです。
- 感情的な訴え
- うつ
- 倦怠感
- 長期的な視覚記憶と言語障害
- 変わった性格
- 不安
- パニック発作
認知症の兆候とリスク要因
SAH後に認知症をきたすリスク要因について解説します。
- 脳脊髄液(CSF)の動態
SAH は脳圧を上昇させ、脳への血液供給を減少させる可能性があります。
また、治療に用いられる薬剤の中には、 CSF に放出され、その動態システムに損傷を与える可能性があります。 - 年齢
若い患者は、高齢の患者よりも脳卒中後に認知症を発症するリスクが高くなります。
一般的な認知症のその他の危険因子には次のようなものがあります。
- 高齢者
- 遺伝子
- その他の長期的な健康状態
- 喫煙や過度の飲酒などの生活習慣
- 性別と性別
- 認知予備力、病気にもかかわらず働き続ける脳の能力
血管性認知症のリスクを軽減するためにできることには、健康な血圧の維持、糖尿病の予防または管理、禁煙、運動、コレステロールの抑制などがあります。
認知症予防と早期介入の重要性について
くも膜下出血後の認知症リスクを軽減するためには、早期の介入と予防策が重要です。
まず、発症直後の適切な治療が基本となります。
くも膜下出血の原因となる動脈瘤や血管異常の早期診断と治療により、さらなる脳損傷を防ぐことができます。
また、治療後も脳の健康を維持するためのリハビリテーションが不可欠です。
認知機能の維持や改善には、専門的なリハビリテーションプログラムが効果的であるとされています。
日常生活においても、認知症の予防には身体的な活動と精神的な活動の両方が重要です。
適度な運動、バランスの良い食事、十分な睡眠、ストレスの管理など、全体的な健康状態を維持することが、認知機能の低下を防ぐために推奨されます。
特に、頭を使う活動や社交的な活動を積極的に行うことが、認知症のリスクを低下させる可能性があります。
また、治療後の定期的なフォローアップを行うことで、早期に認知症の兆候を発見し、早期介入し、適切な対処を行うことが可能となります。
くも膜下出血後の患者やその家族は、医療専門家と連携し、適切なケアとサポートを受けることで、長期的な健康と生活の質を維持することができます。
まとめ
くも膜下出血は、生命を脅かす重篤な状態であり、その後の認知機能への影響は重大です。
脳への直接的なダメージや二次的な損傷により、認知症のリスクが増加します。
治療後に、記憶力や集中力の低下などの兆候が現れることがあり、早期の発見と対応が不可欠です。
リスク要因を理解し、適切な予防策を講じることで、認知機能の低下を最小限に抑えることが可能です。
また、治療後のリハビリテーションや生活習慣の改善が、長期的な健康維持に寄与します。
医療専門家との連携を通じて、適切なケアを受けることで、患者と家族はより良い生活の質を確保することが可能となるでしょう。
くも膜下出血などの脳卒中後の神経障害によるさまざまな後遺症に対しても、再生医療とリハビリテーションを組み合わせることで改善が期待できます。
当院脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、脳卒中・脊髄損傷を専門として、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しております。
リニューロ®では、同時刺激×神経再生医療®、骨髄由来間葉系幹細胞を用いて狙った脳や脊髄の治る力を高めた上で、神経再生リハビリ®を行うことで神経障害の軽減を目指します。
くも膜下出血後の認知症などについても、今後効果が期待できると考えられます。
よくあるご質問
- くも膜下出血の最も多い後遺症は?
- くも膜下出血の最も多い後遺症は、脳の損傷による認知機能の低下です。
記憶力の低下、集中力の減退、注意力の障害など、日常生活に影響を及ぼす症状が多く見られます。
また、身体の麻痺や感覚障害、さらには感情の変動や性格の変化が起こることもあります。 - くも膜下出血後に認知症になる人はいますか?
- はい、くも膜下出血後に認知症を発症する人はいます。
脳への直接的なダメージや血管攣縮などの合併症が原因で、記憶力や判断力、集中力の低下が見られることがあります。
特に高齢者や既往歴のある患者はリスクが高く、早期のケアやリハビリが重要です。
知っておきたい認知症の基本 | 政府広報オンライン:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html
血管性認知症.日内会誌.2020;109:1519-1525.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/8/109_1519/_pdf
脳血管性認知症 | 健康長寿ネット:https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/nou-kekkansei.html
Vascular dementia – Symptoms & causes – Mayo Clinic:https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/vascular-dementia/symptoms-causes/syc-20378793
Long-Term Risk of Dementia Among Survivors of Ischemic or Hemorrhagic Stroke:https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/strokeaha.116.015242
高次脳機能障害とは、麻痺やしびれなどの身体的症状とは異なり、思考や言語・記憶などの脳機能が障害される病態です。主な原因は脳血管障害や頭部外傷であり、一度発症すると日常生活に与える影響が大きく、厄介な病態です。この記事では、頭部外傷による高次脳機能障害の原因や症状、リハビリテーションの概要について解説します。
あわせて読みたい記事:軽度認知障害(MCI)とは?
外部サイトの関連記事:カレーが認知症予防に効く?その秘密を探る