<この記事を読んでわかること>
・若年性アルツハイマーの概要がわかる
・若年性アルツハイマーの初期症状がわかる
・若年性アルツハイマーが見逃されやすい理由がわかる
若年性アルツハイマーとは、65歳未満で発症するアルツハイマー型認知症のことです。
初期症状が多彩で、また症状の経過が急速であることから、通常のアルツハイマー型認知症よりも厄介な病気であり、いかに早期発見するかが重要です。
この記事では、若年性アルツハイマーの初期症状と早期発見の重要性について詳しく解説します。
若年性アルツハイマーの特徴的な初期症状とは
「認知症=高齢者の認知機能が障害される病気」とイメージされている方も多いと思いますが、実は高齢者だけの病気ではありません。
65歳未満で発症する認知症を若年性認知症といい、国内の有病率は人口10万人のうち50.9人と報告されています。
このうち、原因がアルツハイマー型認知症の場合は若年性アルツハイマーと呼び、脳血管障害の場合は血管性認知症と呼びます。
若年性アルツハイマーは40代〜65歳未満で発症することが多く、初発症状としては物忘れ、つまり記憶障害であることが多いです。
発症当初は通帳や印鑑など大事なものの収納場所を思い出せない・同じことを家族に何度も尋ねる・財布をどこかに置き忘れるなどの症状が見られます。
進行すると次第に人の名前やモノの名称が出てこなくなり、何かを計画して実行に移す能力が障害されます。(これを遂行機能障害と呼ぶ)
時間の経過とともに症状は徐々に進行し、そのうち自分のいる場所や時間・日付なども認識できなくなる、いわゆる見当識障害が出現し、日常生活に大きな支障をきたすため注意が必要です。
原因は、通常のアルツハイマー型認知症と同様で、アミロイドβやタウなどの異常タンパクが脳細胞に蓄積し、変性・萎縮することで脳機能が障害されていくためです。
主に記憶や認知機能を司る側頭葉に変性が生じやすく、進行すると脳全体に広がって人格や精神機能にも影響を及ぼします。
初期症状が見逃されやすい理由とその対策
一般的に若年性アルツハイマーは通常のアルツハイマー型認知症よりも初期症状が見逃されやすいとされており、その理由は下記の3つです。
- 症状の進行が急速である
- 症状が非典型的である
- うつ病と誤診されやすい
若年性アルツハイマーは、より若年で発症するほど認知機能障害の進行が急速であることが知られており、それに伴い言語コミュニケーションの能力が低下し、自身の心身の異常な状態を周囲にうまく伝えることができなくなります。
また、通常のアルツハイマー型認知症と比較して、発症初期から近時記憶障害や不安症状が強く、ほとんどの症例で比較的初期から高次脳機能障害(失語・失読・失書・失行)や痴呆を認めるため、症状が非典型的である点も見逃されやすい原因です。
さらに、若年性アルツハイマーを発症しやすい年齢で発症することが多いうつ病と誤診されやすい点も初期症状が見逃されやすい理由です。
どちらも記憶障害や感情の変化が見られ、社会性や能力の低下を認める点で症状が一致しており、実際に両方の疾患を併発するケースも少なくありません。
しかし、うつ病の治療薬である抗不安薬や睡眠薬を内服すると、さらに認知機能が低下して自発的な訴えができなくなるため、気付かぬうちに症状が悪化してしまう可能性があります。
早期発見のためには、兎にも角にも早期に医療機関を受診することが重要です。
若年性アルツハイマーの多くは、その前段階である軽度認知機能障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の時点で医療機関を受診すると言われており、MCIとは下記のような状態です。
- 本人もしくは家族から物忘れの訴えがある
- 年齢による影響以上の記憶障害を認める
- 全般的な認知機能は正常範囲内である
- 日常生活動作は障害されていない
- 認知症の診断基準は満たさない
つまり、多少の物忘れが増えただけでも、若年性アルツハイマーの可能性があると考え、早期に医療機関で適切な治療を受けることが現時点で唯一の対策と言えます。
早期発見がもたらす治療の可能性と生活の質の向上
若年性アルツハイマーを発症すると、ほとんどの場合は就労継続困難に陥るため、心身的にも経済的にも大きな負担がかかります。
現状の医療技術では、一度変性を起こした脳細胞を元に戻すことは不可能であり、そのため、若年性認知症をいかに早期に発見して、症状の進行を食い止めるかが重要です。
主な治療法は、コリンエステラーゼ阻害剤やNMDA受容体拮抗薬の投薬ですが、最近ではアミロイドβを除去するレカネマブと呼ばれる新たな治療薬も出ています。
今後さらに研究が進み、もし認知機能が元に戻るような治療法が出てくれば、就労復帰が叶う可能性もあります。
まとめ
今回の記事では、若年性アルツハイマーの初期症状と早期発見の重要性について詳しく解説しました。
若年性アルツハイマーは通常のアルツハイマー型認知症よりも症状進行が急速であり、また発症年齢が働き盛りである点から、医学的にも社会的にも影響が大きい病気です。
一度変性した脳の機能が完全に元に戻ることは困難であるため、現状では早期発見と内服による症状進行の抑制が主な治療です。
しかし、近年では再生治療が新たな治療法として非常に注目されています。
また、脳梗塞・脊髄損傷クリニックでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、変性した脳細胞の再生が期待できます。
よくあるご質問
- 若年性アルツハイマーの初期症状は?
- 若年性アルツハイマーの初期症状は物忘れなどの記憶障害です。
症状の進行とともに失読や失語・失書などの高次脳機能障害や、注意力低下・作業能力の低下などの症状を認めます。 - 若年性アルツハイマーの平均余命は?
- 若年性アルツハイマーは通常のアルツハイマー型認知症よりも症状の進行が急速であり、平均余命が短いことが知られています。
多くの研究がなされ、その研究によってもさまざまですが、概ね5〜12年ほどが若年性アルツハイマーの平均余命とされています。
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/guidebook_1.pdf
日本財団:https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2023/96990/disability
Pub Med:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18977814/
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